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2007年01月26日
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カテゴリ: 外国映画 ま行
アイルランド独立闘争

日本人の目から見ればイギリスの二つの島は「 セットでイギリス 」のイメージが強い。だから、この二つの島が数千年に及ぶ対立の歴史を繰り返していることを知る人は少ないのではないかと思う。

麦の穂をゆらす風

イギリスの圧制に苦しむアイルランドの1920年を舞台に、独立闘争の物語は始まる。そして、イギリスからの独立を勝ち取ったはずなのに、今度は内乱にによってさらに闘争は続く。その悲しいアイルランドの悲運を描いた映画と、取ることも出来る。

けれど、この映画は果たしてアイルランドの悲哀を描いただけのものだろうか。

武器、兵器、暴力、武力によって自分たちの意思を通そうとすることは果たしていいことなのか。

武力によってアイルランドを搾取するイギリスも、武力によってイギリスに対抗するアイルランドも、武力によって同胞同士がお互いの思想を通そうとする共和軍も、結局底辺にある考え方は同じなのだろう。

力によって他人の意思を押さえつけ、こちら側の意志を通そうとすること自体が無理があるのだと気づかないのだろうか。

抵抗軍はイギリスの兵たちを情け容赦なく、銃殺していく。そんなにどんどん殺しちゃっていいんですか。西洋人て過激だなあ。

確かにイギリス兵たちがアイルランド人たちにしたことはひどい。しかしだからといって、アイルランド側も同じように武力で戦うことが本当にいいことなのか。武力によって手に入れた自由と誇りはさらに武力によって覆され、あるいは武力によってしか維持し続けることはできない。

そう考える時、同じようにイギリスからの独立を勝ち取るために戦ったインドの偉人ガンジーを思い出した。彼は武力による闘争を否定し、ただ、開放を望む意志だけを示し、何年にも及ぶ投獄すら耐え抜いて、ついにインドを独立に導いた。武力によって自由を得ても、今度はその武力によって自分たち自身が苦しめられることをガンジーは知っていたのだろうか。

インドがイギリスに支配されたのは三百年程度だけれど、アイルランドとイギリスの対立自体は数千年に及ぶのだろう。『トリスタンとイゾルデ』の逸話にも、アイルランドとイギリスの対立が描かれる。二国間の対立がその当時から今に至るまで続いていることがわかるように、地理的に近く、民族的にも近く、にもかかわらず決して交わることのない二つの民族の統合と戦いの歴史はそんなに簡単にはいかないのだろう。似て非なるもの。この二つの島は。


映画を見始めてしばらく、主人公が誰なのかわからなかった。どうも、医師のデミアンがそうらしい。デミアン?
デミアンといえば、あの『オーメン』にでてくる悪魔の申し子の男の子の名前じゃないか。けれどこれはたまたまではなくて、意図的につけられた名前だと思う。医師でありながら悪魔の名を持つ主人公デミアン。

そして、物語の冒頭で、ミホールという名の青年がイギリス軍に殺されてしまう。ミホールというのは、たぶんケルト語の読みで、英語ではマイケル、つまり大天使ミカエルの名前なのだ。光の象徴、善の象徴であるミカエルは冒頭でイギリス兵に殺されてしまうのだ。アイルランドの光はイギリス軍によってけされてしまった。そして、主人公デミアンは、イギリスとの闘争にその身を投じ、独立後の対立抗争のすえ、銃殺されてしまう。なんとも象徴的ではありませんか。


さて、その後のヨーロッパはEU統合される。争っていた二つの国も同じEUのもとに政治経済が統合され、国としての闘争は意味のないものとなり、1998年には、連立政府を作り、イギリスはそれぞれに自治権を委譲することを決めた。長い闘争の歴史に光が見えたように思えた。

けれど、数千年の闘争の歴史は人々の心に深く残り、そう簡単にアイルランドの人々は過激派アイルランド系住民の武装組織「 IRA 」(アイルランド共和国軍)は、武力による闘争をすっぱりと捨てることは出来なかったらしい。

武力によって自分たちの意思を通そうとすることの無意味は世界中の戦いのすべてに対して言えることであるけれど、監督は、なおいまだに、武力による行動にこだわり続けるアイルランド人たちに新しい目覚めを訴えたいのだろう。

敵は外にいるのではない。敵は自分の中にある。自分の心の中のこだわりこそが自分たちに銃を向けているものの正体であり、デミアンという悪魔はイギリス軍の中ではなく、独立を目指して戦うアイルランド人の中にいたのだ。
映画ではデミアンは殺されたけれど、いまなお、アイルランドの中にはデミアンはい続けているのではないか。アイルランドの中のデミアンを殺さない限り本当の平安はこない。

そして、我が家が焼かれてもなお、その家にい続けることにこだわる老婆は、大天使ミカエルが殺された場所をなお、その光の地を見捨ててはならないと、こころの中にも光は残っていて、守り続け、そして忘れてはならないものなのだと、言っているように見える。


ところでずっとイギリス軍と書いてきましたが、正しくは ブラックアンドタンズ つまり、 治安警察補助部隊 のことです。物語の中で主人公たちが捕まってアジトをはかせるために拷問をうけるシーンがありましたね。
いやあ、それにしても、あの生爪はがすシーン。痛そうでしたね。胸がずきずきしましたよ。これを見てて思い出したのが、日本の赤狩り。やっぱり日本でも、指と指の間に鉛筆はさんで握らせるなんてことやってたそうですけどね。よくわかんないけど、痛いらしいです。人間ていっくらでも、残酷なこと出来るものですね。

てことでつまりブラックアンドタンズがやってたことって要するに赤狩りなんでしょうね。だってデミアンたちは資本主義に対して否定的ですし、デミアンたちを通報したのは、農場主だったでしょう。つまり資本家ですね。そのあと、デミアンたちはこの農場主を銃殺しますね。その時の農場主の言葉が『お前たちにこの国はわたさない。」とかいうセリフだった。つまり、この戦いは独立戦争であるとともに、資本主義と社会主義の対立戦争でもあったのです。イギリスは第二次大戦に前後して世界を覆い始めた、社会主義の波がアイルランドを浸食しつつあり、自分たちの国の隣が社会主義国家となることに恐怖していたのでしょう。アイルランドが社会主義国家となった場合、自分たちの国自体も危ないわけですから、イギリスにすれば必死の攻防戦なわけです。
実際朝鮮やドイツやベトナムなんかが分裂して片方が社会主義国家になってしまったり、内紛の結果社会主義の国になってしまったりしているわけですから。

しかし、その後、ベルリンの壁はこわされ、ソ連は崩壊し、社会主義の恐怖はうすれてきましたので、その後のイギリスのアイルランドへの対応もずっと緩やかなものになっていったのでしょう。

この物語は、支配される苦痛と悲劇にとどまらず、さらにその後ろに宗教的な問題や、社会的な問題、経済的な問題などいくつも絡み合っており、それゆえにそんなに単純には解決しないことをも語っているようだ。

この記事のためにアイルランドの歴史もいろいろ読んでみたけど、なにしろ、複雑で難しくて、えーよくわかりませんでした。
もっともっとアイルランドの歴史を読み込んでいくといっそう面白くなる映画だと思います。


補足★インドですが、ガンジーほどの偉人がその生涯をかけて独立させたにもかかわらず、結局その後の内紛によって国は分裂し、やっぱり武力闘争があるようで。人間てほーんと懲りないって言うか。いくら教えても、失敗しても、学ばないんでしょうねえ。ただ、内乱というのは、一つの国が国としてまとまるために避けては通れないイベントともいえるわけですから、本当はもっと早くにやってたことをイギリスによる植民地状態のために保留になっていたともいえますので。インドもアイルランドもある意味仕方ないのかなーと。早く国としてまとまって平和な国が出来上がるといいですね。


参考サイト

『麦の穂をゆらす風』公式サイト

「終わり方がわからない北アイルランド紛争」




麦の穂をゆらす風@映画生活






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最終更新日  2007年10月07日 13時34分10秒
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