株式会社SEES.ii

株式会社SEES.ii

2017.09.11
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カテゴリ: ショートショート
ss一覧 短編01 短編02
―――――

 テレビではワイドショーの男性司会者と日本宗教学会の評論家が、新興宗教の問題点に
ついて喋っている。それを頭の片隅で聞きながら、鮫島は送られてきたFAX用紙を眺めて
いた。
 ほんの数時間前まで、宗教法人の団体などに関心はなかった。そんなものは自分にとって
何の役にも立たないと知っていた。だが今、事情が変わった。今、鮫島は、北名古屋市に
本拠地を構える宗教法人《A》が、どういった組織であるのかが猛烈に知りたかった。


入った時、鮫島は寒気を感じるほどに驚いた。

『……先日はウチの者が感情的になってしまい、誠に申し訳ありませんでした……』
 電話の相手は若い男のようだった。聞けばとある宗教法人団体の代表だと言う男は、
先日カネを恵んでやった若い女の身元引受人……のような者、と言った。
『……つきましては御礼を兼ねて、私の持つ貴金属や宝石類を売却したい』との申し出
だった。

 Dell・Japanからの事業主宛てのFAXを破り捨て、パソコンのあるデスクのイスに
座り直す。コンビニで買ったカロリーメイトをかじり、缶コーヒーの蓋を開けて一口飲み
込み、液晶に映る自分の陰影を見ながら顧客情報を共有システムに打ち込む……いつものと
同じ、いつもと同じ作業をする自分の姿を液晶に見ていると……ふと――あの、B型肝炎を
自称する女の顔を思い出した。


女は一度だけ、カネを拾う前に一度だけ――顔をこちらに向けた。俺と目が合う。
 女の目は俺に助けを求めているようにも見えるし、単に何も考えていないだけのように
も見える。

 ……俺にできることなど何もない。
 ……《A》の出張査定依頼は当然、引き受けるつもりだ。カネのためだ……。そうだ。

 あの女と《A》、代表とかいう男の間に何があるのかなど知らない……興味もない。
 そう。
 この国は資本主義社会なのだ。資本を多く持つ者が正義であり、善なのだ。それは《D》
も例外ではない……ハズだ。それが当然なのだ。それが普通なのだ……。
 もう一度、さっき思った言葉を心の中で反芻する。

 ……俺にできることなど何もない。
 鮫島はいつもと同じように、いつもと同じ作業を繰り返し、思う。
 ……よりにもよって、なぜ、あの病気なんだ? ……畜生が。

―――――

 エレベーターに乗り込む。一緒に乗り込んだ若い看護師が強ばった笑顔で頭を下げ、
鮫島もまた顔を強ばらせて会釈を返す。
 誰もが自分に気を遣っている。それがはっきりとわかる。
 エレベーターを降り、リノリウムの廊下を歩く。遠くからセミの声が響いている。
ナースステーションから看護師たちの雑談も聞こえる。
 顔を上げ、無機質に光る廊下を見渡す。長い廊下の奥の部屋――そこが息子の病室だった。
『鮫島司(さめじまつかさ)』
 そう印字されたプレートの横のドアの前に立ち、軽くノックをする。
 眠っているいるのだろうか? 返答はない。ドアノブに手をかけ、そっと引っ張る。
病室の消毒液臭い空気が、ふわりと廊下に溢れ出る。
 病室の中央にたったひとつ置かれたベッドに、息子はひっそりと横たわっていた。吸い
寄せられるかのように息子のベッドに近づく。壁の時計をチラりと見てから、枕元のファイル
に書かれた前回の注射や投薬の記録を見る。
 ……まだ少し時間はあるな。
 看護師が今日の注射を行うまでには、まだ1時間程はある。それまでは、ふたりきりで
いられる。
「司……パパだよ」
 挨拶するように息子の頬に触れてから、ベッド脇のイスにうずくまるように座る。細く
て軽い息子の髪を――閉じたままの瞼や、三日月型の眉や、整った鼻や、長い睫毛をじっと
見つめる。
 ……将来は男前になるな。
 そう思い、また思う――。
 ……ああっ……どうして、俺の子供が……こんなメに……クソ……クソ……。


「今年は暑いね。パパ」
 目を覚ました息子が起き上がり、鮫島を見て言った。「今年の名古屋は特に暑いみたい
だね……パパは体調、大丈夫?」
「ああ……大丈夫だ」
「……お仕事、順調?」
「ああ……問題ないよ……司は、何かあったか?」
 息子は微笑み、窓際に置かれた花瓶に顔を向けた。花瓶には花が生けられている。
「……最近、隣の病室の人と仲良しなんだ。この花も、その人から貰って……」
 息子の言葉に頷きながら、鮫島は花瓶の花をじっと見つめた。おそらくはアイツ……
後輩のクセに生意気で、生気のないシケたツラをした……あの男。

《D》の名駅前店支店長、岩渕誠からのものだ。

 ……詳しくは知らないが、大須の混成マフィアと騒動になりケガをした、という連絡は
聞いている。騒動は社長と名古屋近辺の若手社員たちだけで取り仕切り、解決させたという。
俺は若手、ではないし……入院している息子もいる。社長に気を遣ってもらった、という
より……数にも入っていないのだろう。……そう思うことにした。

 岩渕が弥富の病院から名古屋市立大学病院に転院した日――出世街道から外れた、落ち
こぼれのオヤジと、若くして名駅前店を任されたエリート――接点も面識もあまりなかった
が、息子のついでに見舞いに行った……それだけの関係だ。
 そう。
 鮫島は岩渕の病室に見舞いに行った。ただ、それだけのことだ。それだけのことである
ハズなのに……鮫島は出会ってしまった。
 名字も知らないあの女性――『京子』と呼ばれていた、岩渕の彼女と。

―――――

 静かな部屋の中をショパンの旋律が満たしている。
 夜想曲第2番変ホ長調。
 ……美しい。何と美しい旋律なんだろう。いったいどうしたら、これほどまでに神々しい
調べを作れるというのだろうか?
 神の奇跡――そうだ。これは神が作りだしたモノなのだ。
 夜想曲だけではない。ショパンにおいては、すべての旋律が奇跡によって創造された、
神の御業と確信したと思わざるを得ない。
 そうなのだ……ワルツもマズルカもバラードもピアノソナタもポロネーズも、すべて――
フレデリック・ショパンが神と同化した末に創造された曲なのだ。

 礼拝堂の隣にある資料室兼個室の白い壁を見つめながら、しばらくショパンの調べに聞き
入ったあとで――僕はふと我に返り、机に並んだ指輪やネックレスやブレスレットに視線を
戻す。そして再び、スマートフォンを操作して、金や銀やプラチナの相場価格をチェック
する作業に戻る。
 ……金の指輪だけでも相当数ある……銀の価値は低い? が、プラチナはかなり……。
 そうだ。この大量に集められた金銀宝石は元々僕の持ち物ではない。
 ……さしずめ、《A》に捧げられた副葬品、という感じかな?
 最後にこれらを現金化して姿を消す。そう思えば、ここ5年の宗教ごっこも、苦痛では
なく喜びに感じられてくるから不思議だ。

『私たちはもう年だし、子供もいないから、あなたみたいな人が来てくれて嬉しい』
 5年前、《A》を運営していた老夫婦から『神父』の資格と仕事を託された。

 唇を舐め、僕はそっとほくそ笑み――自らの行いを思い出した。
 信徒の老人たちから年金を奪い、障害者からは支援金や補助金を奪った。それら社会の
クズ共を《A》が経営するクリーニング工場で働かせ、給料をピンハネする。偽りの善意で
人心を縛り、神の都合で恫喝し、必要あらば暴力も行使する……。
 ……重度の疾病で労働が制限されている者……自活が不可能な者……避妊具も使わず
『B型肝炎』のキャリアと性交渉をし、あげく肝臓ガンを発症した愚か者など……そういう
ヤツらは手持ちの現金をむしり取って放り出すだけ……。
 そう。それが僕の《A》の教え、
 ――僕の神の啓示なのだ……。

 神父は目を閉じ、無言のまま、そっと微笑む。
 両手を広げ、机の上をまさぐり――自身が《A》に取り入ることを決断させた、魅力
ある宝石たちの感触を確かめた。指に絡まった金のネックレスや指輪をすくい上げ、ジャラ
ジャラと響く音を楽しみ――目を開いた。

 ――《A》創立30年ですか……さぞかし溜まっていることでしょうねぇ……。
 心の中で僕はそっと呟き――また、ほくそ笑む。

―――――

 病院の売店で息子が読みたいと頼まれた雑誌を手に取り、ページをパラパラとめくって
いく。すぐ近くのエレベーターからエアコンの風に混じって、汗の匂いがする。たぶん、
自分が来たエレベーターとすれ違いざまに乗って消えた小学生と母親からのものだろう。

 ぼんやりと、あの子の母親のことを思い出す。ずいぶんと昔に離婚した、今では生死すら
わからないバカな女のこと。そう。『アメリカで出産したい』などと夫に頼んだ女のこと。
現地の病院や病院のシステムや治療や検査のことを何も知らなかった女のこと。何も知ら
ないまま、出産の知識や常識のことすら何も知らないまま――息子の命を悪魔に貪り食わせた
女のこと――……そんなことをぼんやりと思い出していると、いつの間にか、息子の病室の前に
まで戻って来ていた。
『……ボクは………パパに…………』
『……大丈夫……だから、キミは……』
 病室の中から声が聞こえる。お見舞いにどうやら客が来ているらしい。声から察するに
女のものだ。鮫島は舌打ちをした。いくら同僚の彼女だからって、他人の息子に必要以上に
干渉する権利などない。そう思った。
 ノックせずにドアを開く。
 そして、文句を言ってやろうと口を開きかけた次の瞬間――鮫島は見た。
 困ったような苦笑いを浮かべる息子と――
 ただ――鼻水をたらしてべそをかき……ただ――ひたすらに泣きじゃくる、若い女性の
顔を見た。つい……見てしまっていた。


 京子は唇を震わせて「すいません」「勝手にお邪魔して」「ごめんなさい」と繰り返し、
また大粒の涙を流している。たぶん、親の許可なく病室に入って息子と話していたことで
自分を責めているのだろう。
「パパ、怒らないで。ボクが京子さんにワガママ言っているだけだから……」
 息子はそう言って、とめどなく涙を流す京子にティッシュの箱を手渡していた。
 京子から視線を外し、軽くため息をつく。息子の病魔の正体も、おそらくはこの女も聞い
ているのだろう。……別に隠したい理由なんてないしな。

 やがて――京子は顔を上げ、鮫島の目をじっと見つめて、言う。
「……大丈夫です。鮫島さぁん……私と岩渕さんがついてます……」
 ……はぁ? ……何を言っているんだ、コイツは?
 京子は涙声で言い続けた。「……司クンの病気も……今は難しくても……未来なら……将来
なら……きっと、きっと良くなり……ううん……必ずっ、治りますからぁっ!」
 セミロングの美しい黒髪を揺らしながら――憐れみでもなく、慰めでもない言葉を、京子は
叫ぶかのように訴えた。

 ……誰かにここまで言ってもらえたのは、息子が生まれて初めてのことだ。……京子が微笑み
ながら涙を流すのを見ていると――鮫島の目にも涙が込み上げそうになる。
「ありがとう。京子姉ちゃん……」
 血液感染でB型肝炎に侵された息子は、そう言ってケラケラと笑っていた。「――でもさ、
彼氏の心配もしてあげなよ」
 楽しそうに、嬉しそうに、息子は笑い続けている……。 

―――――

『転成するD!』 後に続きます。









   不思議な魅力を感じます……。→ ​ コレサワ/ SSW
   癒されますねぇ……。    → ​ コレサワ/ あたしを彼女にしたいなら
     いろいろ考えさせられる曲。 → ​ コレサワ/ 君のバンド

 まさか……コレサワさんを紹介する日が来るとは思っていませんでした(*''▽'')テヘヘ。
 seesのプロフでは何回かコレサワさん推していたんですけどね……いやはや、感慨深い。
 さて――コレサワさん↑ 仮面の匿名シンガーソングライターです。セルフプロデュースの
本格派で才能大。出す曲すべてが可愛らしいス……。8月、日本クラウンからついに、メジャー
デビュー。歌詞は女性目線、楽器はギターメインのロック?スタイル? 緊張感がほぐれるような
癒し効果がありそうスね……。レトロかつ味わいのあるアニメ動画も最高に癒されます。大好き
だったアニメ「飛んでブーリン」、「きんぎょ注意報」を思い出しまス……。
 ぜひぜひ、ご試聴を……。正直、本当――もっともっと売れて欲しい……。




 お疲れサマです。seesです♪ 
 今話『転成~』はモチーフにseesの独断と偏見が詰まった問題作です。さすがに気を悪く
される方がおられると思います……どうかご容赦を……m(__)m

 各キャラクターの定型化防止を意識しつつ、何とかラストまでたどり着かせる……か。
 ――昔、とある先生に言われた「sees君の話のキャラって定型すぎ。もっと複雑にしろよっ!!」
と怒られた記憶が……。( ;∀;)ゥェェェ……難しいねぇ、まったく。今思えば、『小説書こうぜ』や
『文章構成力教本』とかの教材もどき、seesにとっては何の役にも立たなかったなーww。

 今の10代とかで文芸やっているコたちはどうやってモノ作りしてんだろ……もしかして妄想
だけ??? ワシと同じやんww

 ――てことで、最近じゃ少し時間かけて作っている分、更新遅れてばかりですいません……
まぁ、株式会社sees.iiのアクセス数なんてゴミカスみたいなものだけど……。眠いし。

 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて🎵   



 ↓コレサワさんの初メジャーアルバムです↓       オリジナル楽曲も、どぞどぞ~。


こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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 好評?のオマケショート 『突然の来訪者』

 sees    ん~そろそろ帰ろかな~( ̄∇ ̄;)
       ……さて、《とらのあな》行ってライダー系のフィギュアでも下見するかな……
       中古でもいいから、シャドームーン先生、もしくはエターナル、ブルーフレアの
       美麗品、欲しいな……ブツブツ……松岡さぁーん……ブツブツ……。
       妄想が頭の中を巡り、私物を整理してデスクを立とうとした――……
       その時、
       そいつは、
       ――突然、やって来た。
 ???      「すいませーん。お仕事中、失礼しまーすっ」
 社員一同 「……???」
       次の瞬間、そいつはスーツの打合せをひらりとめくり……見せつけた。我々一般人
       には馴染みのない、例の、輝く、そう…金色に輝く旭日……
       つまり……
       ――おまんら~桜の代紋ぜよっ!!( ゚Д゚)ドヤァァ……!!

 警察官  「中村署です。少し皆様に確認させていただきたいことがございまして……」
 次長   「はいはい……何か、事件でも?」
 警察官  「はい。実は……」

 sees   「……(へぇ、ドラマじゃ手帳を見せびらかすイメージだけど、実際は腰から
       チラ見せするだけなのか……しかも……イケメンッ!! ワシと同世代くらいか?
                    ……上司にパシらされてる感じかな……)」

 警察官  「……小学校低学年の女の子がこの近くで行方知れずになってまして……」
 次長   「っ!!」
       次長が何かを察したのか、大声で怒鳴る。「お前ら~、全員集合やっ!! 
       って、sees、てめーも帰るの待てっ!!」
 sees   「……ビクッ。は、はい……(イヤな予感が……(>_<)マサカ)」
 次長   「2~3人ずつ並べ。だで、よーく見て確認せや」
 警察官  「……お話が早くて助かります……こちらが、女の子の写真です……」
       社員全員(seesはなぜか最後)の目撃情報の収集を終え――改めて帰宅の意思
       をseesが示そうとした、その時……。
 次長   「別のフロアにも何人か社員がいるはずです。ご案内しますね😟」
 警察官  「おそれいります……では、ご一緒に……」

 sees   「う……帰る(逃げる)タイミングが……」
       seesは、まるで犯罪者のようにオロオロとデスクの前に立ち尽くしたまま、
       ただじっと次長の帰りを待ち続けた……じっと……空しく……。
       …………
       …………
       …………
       そして――……15分後(くらいかな)。
 警察官  「ご協力、ありがとうございましたっ!!」
       イケメン警官が出て行き、そして――次長がオフィスに戻り、一言、立ち尽くす
       seesに向けて、言った。
 次長   「……何やsees、まだおったんか? 片付いとんのやったらハヨ帰れや(笑)」
 sees   「……はい。失礼します。(…………はあぁーあ、直帰するか……)」

       女の子はその後、無事発見→保護されたみたい……まぁ、それなら良いか😊

                                  了( ´ー`)フゥー





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Last updated  2017.09.13 02:55:58
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