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夕方、台所に立つと、昼の熱が少しだけ残っていた。
窓を開けても風は弱くて、換気扇は相変わらず止まったまま。沈黙にもだいぶ慣れてきた。
外では子どもの声が遠くでしていて、どこかの家のテレビの音も混じっている。こういう時間帯の生活音は、妙に安心する。まだ誰かが夕飯を作っている気配が、町じゅうに薄く漂っている感じがするからかもしれない。
今日はニュージーランド産の牛スジが手に入っので大根と牛すじを煮ることにした。和牛の牛スジはお高いのであきらめるとしても、アメリカ産のは臭いし脂っぽいから嫌いだ!牛スジはオーストラリアか、ニュージーランドに限る。
疲れている日は、こういう時間のかかるものがいい。放っておけば勝手に柔らかくなって、部屋までちゃんと夕飯の匂いにしてくれる。
牛すじは250グラム。まず熱湯にさっとくぐらせて、水で灰汁を洗う。白っぽい脂は指に残らない。ニュージーランドの牛スジこういうところが好きだ!
大根は三分の一本。1センチくらいの厚さで半月切りにする。
切るたびに、まな板が乾いた音を立てる。夕方の台所は、昼より少し音が響く。
電気圧力鍋に、大根と食べやすく切った牛すじを交互に入れていく。別に意味はない。ただ、雑に放り込むより、少し整えて入れたほうが落ち着く。
そこへ酒を50cc、水を500cc。
塩を少しと、醤油を大さじ1。
生姜の輪切りを2、3枚と、昆布を1枚のせて蓋を閉める。
加圧30分。火を止めたら、そのまま30分放置。
冷蔵庫に大根の葉が残っていたので、塩茹でにした。こういう青いものが最後に少し乗るだけで、食卓は急にちゃんとする。
少し開けた窓から、焼き魚みたいな匂いが流れてきた。どこの家だろう。
圧力鍋を開けるころには、もう夜の入り口だった。
湯気で眼鏡が曇る。
大根は透けるくらい柔らかくなっていて、牛すじは箸で崩れる。味が足りなければ、ここで少しだけ醤油を足す。
換気扇は壊れたままだから、台所には夕飯の匂いがちゃんと残っている。
それでも今日は、まあ悪くない気がした。