主が亡くなって久しい空き家がとうとう壊されることになった。
ユンボが入って解体作業が始まって数日経ち、寂しくうらぶれていた家の影も形もなくなった。
空き家がもう一軒あるが、その家に比べてこの壊された家は寂寥感が漂い孤独な影を湛えていた。それがどこからくるものなのかよく分からなかった。
平屋の増築を繰り返したような造りと、丈の高い蔵のようなものが狭い敷地に張り付いていて、庭には所狭しと様々な木が植えられていて鬱蒼としていた。
家の中にはほとんど日光が入らないのではないかと思われ、その陰気な雰囲気がこの屋敷を暗いイメージにしていたことも確か。
都会から越して、きてひっそりと暮らしていた老夫婦。ご主人が亡くなりその後、知らないうちに空き家となって随分になる。隣保班が違うこともあって、近所ではあっても一度もそのお宅を訪問したことがなかった。
かなり高齢になってから言葉を交わす機会もあり「一度遊びにいらしてください」と、奥さんに誘って頂いていたのにそれも果たせないままになっていた。
近所付き合いが嫌いであまり周りとも交流がなかったご夫妻で、そういう人柄が無人になった後も孤独なイメージを植え付ける素になっていたのかも知れない。
更地となった今は、その面影も壁土の匂いと塵芥とともに消え去り、空虚な跡地は初冬の青白い月に照らされているばかり。
後にはどんな家が建つのだろうか。
南の開けた場所なので条件は悪くないが、正面が道路の突き当りなのとすぐ横を電車が通るのでプライバシーを確保するのは難しそうだ。
解体作業にかなり手間取っているし、一般の一戸建て住宅よりも集合住宅の様なものが建つのかも知れない。
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