♪ 「たくみん」の生まれて詠みし三百余の歌それぞれが天与のたから
それで遅まきながら何冊か図書館で借りて読んだ。短歌の革命を起こした偉大なる人。与謝野晶子以来の、まさに天才だと思う。デビュー当時は賛否両論で86年に角川短歌賞にいたる経緯も興味深いが、その後がすごい。自分のスタイルが確立してゆるぎない。視点、表現、洞察、全てにおいて他の追従を許さない。
簡単に作っていそうでいながら、イメージと響きと音数のバランスを絶妙に計算してある。その独特の「句またがり」の使い方や字余りなど、意識、無意識を超越したところでピピピピと言葉が生まれていくのだろう。口語だけで会話そのものを取り込んだ文体には愛唱性と共に簡単に暗誦できる特徴まで備えている。
今まで5冊の歌集を出しているが、孫の歌を詠む参考にと「オレはマリオ」とこの「生まれてバンザイ」を借りた。文庫サイズのこの本は、男児を身ごもってから、出産し、幼稚園を卒園するところまでの歌が中心の編まれている。
アンソロジーなので他の歌集とも重なるものも多いが、これは特別な本だ。一首一首を一篇の詩として味わえるようにとの意向で作られている。
ページを開いて驚いた。私が用いているのと同じ「分かち書き」になっているのだ。短歌は通常、縦書きの一行で表すのが普通で、啄木が用いた三行書きはあるものの一般的ではない。
ネットでは横書きが一般的だが、短歌に関しては横書きは読みにくいので向いていない。縦書き一行で表す訳にもいかないので、私はこの方法を取って来た。
私にはこれしか考えられない。それが、本になって現れたのだから驚いた。「そうだ!これなんだよ」ととても嬉しくなった。
子に対する愛情が俵万智調の調べに乗って、手に取るように巧みに表現されている。短歌を詠むことは客観的な視点で観察することであり、同時に自分の心と向き合う作業でもある。
単に見たた感じたことを表現するわけではない。そこに作者の知性と思想と感性とセンスが複雑に絡み合って、その上で技術という最後の仕上げ技がその善し悪しを決定する。
どの歌を読んでも、その目の付け所が凄いと思うし、表現力の巧みさにはただただ感心させられる。こんな風に子育てが出来たらどんなにか楽しいだろうなあと思わせてしまう。彼女の歌の特徴は、何につけても肯定的なところ。失恋しても決して後ろを振り返らない。短歌は元々そういう哀れさや悲しみを詠うものと捉えられていたのを、あっさりと覆したのも俵万智の歌の特徴だ。
観念的な表現はほとんでとらす、具体的にそして分かり易く親しみやすい言葉で詠みながら決して通俗的な言葉は使わない。詩を読んでいる様な滑らかさでギュッと捉えて端的に表現する。詰め込むのではなくそぎ落とすことに心を砕く。
子育てだって同じなのだ。母子家庭という普通なら後悔とか子に対する済まなさを口にしたくなるところが、彼女の歌には全く感じられない。
この本を読んで元気づけられ、子育てのヒントを貰った人は多いんじゃないだろうか。これから子供が生まれる人、今子育て中の人にも是非読んでもらいたい歌集です。
今までの短歌などとは全く違う。とても口当たりがよく、それでいて甘すぎず、栄養価も高そうで、消化もよくて、体にじわっと滲みこんでいく感、とでも言おうか。
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♪ バンザイの姿勢で眠りいる吾(あ)子よそうだバンザイ生まれてバンザ
肯定的な歌を詠んでいきたいという彼女が、全肯定の歌として挙げているのが表題になっているこの歌だ。「たくみん」の愛称で呼んでいる息子が生まれる前後に詠んだ歌が300首はあるという。
この歌の奥にある彼女の深い思いが、この歌集を読むことで読者の胸に湧き上がってくるのではないでしょうか。
◆2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」とタイトルを変えて、2009年2月中旬より再スタートしました。
◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題してスタートすることにしました。
◆2014年10月23日から「一日一首」と改題しました。
◆2016年5月8日より「気まぐれ短歌」と改題しました。
★ 「ジグソーパズル」 自作短歌百選(2006年5月~2009年2月)
☆ 短歌集 「ミソヒトモジ症候群」 円居短歌会第四歌集2012年12月発行
● 「手軽で簡単絞り染め」
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