読書日和 ~Topo di biblioteca~

読書日和 ~Topo di biblioteca~

2005.01.20
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江國さんの小説の印象的な台詞が音になり、
声になり、耳から滑り落ちて…胸に響いてくる。

すごいな、と思う。小説を映像化する、映画化する醍醐味って
こういうことか、と改めて認識させられたように思う。

東京タワー公式HPは→ こちら

原作を一読したときにはこの物語、 ぴん、とこなかった。
登場人物の誰にも感情移入できなかったし、(柊との共通点は皆無だし)
結末に至るまで、「恋愛とは不可解なもの」という困惑を深めただけだった。

(小説中の耕二には腹が立って仕方なかったし、詩史という女性は


それが。
それなのに。
映画の中で、江國さんの文章が、役者の体を借りて、
肉体を持ち、血を通わせ、言葉を発し、涙を流す。
新鮮な驚きが胸に湧いてきて、自分でも不思議なくらいだった。

江國さんの小説中の台詞を音にすると陳腐なものになると思い込んでた。
(たとえば、「きらきらひかる」が映画化されたときの、
 「水を抱く」という台詞が実に陳腐に響いて聞こえたときの
 がっかりした気持ちのように…)

もちろん最初は…恋愛映画特有の甘ったるさがすごく居心地悪くて
「うぎゃー」と思ったのも事実なんだけど。

いつの間にか、そこは江國さんの小説の世界になってた。うん、すごい。

以下は小説・映画共にあらすじ、その結末に触れちゃうので伏字にしますね。

小説と、映画の決定的な差異はその結末です。

小説では彼らの恋愛の行く末がどうなるのか、曖昧なまま終わってしまいます。
予感と余韻だけを残して。(そこが江國さんらしいところだと思う。)

一方映画は小説中には描かれない修羅場の連続。
(これこそ見所の一つ…?)
透の母親vs詩史、詩史の夫vs透、喜美子vs耕二…。
小説中では絶対ありえないだろうな~と思う登場人物のキレっぷりは
いっそ気持ちが良いほどで、小説で消化不良だったあたりを存分に発散させて
くれます。
そして結末は東京を飛び出して、パリへ。
ハッピーエンド…という明確な終わりを示すことがこの物語にとって
どうかな…なんてことは最早どうでもよく。
山下達郎さんの歌詞がただただ、じんわり沁みこんで来たのでした。


役者の皆様、よくぞここまで小説中にしか存在しえないだろうと
思えた登場人物たちを“人間”として魅せてくれたなあと…。

特に「詩史という女性はこういう人だったんだー」と思わせてくれた黒木瞳さん、

喜美子さんなのに、「なんか、可愛い人なのかも」と別な面を見せてくれた
寺島しのぶさんに感服しました。

喜美子さんの「三十五の女の欲望なんて、耕二くんには絶対わからない」
という台詞に一番どきっとした。

女性のための、映画かもしれない。



(追記)
日記を書き終えたあと、他の方は「東京タワー」にどんな印象を
持ったんだろうと…感想を読んできました。

「リアリティがない」…ごもっとも。
「綺麗すぎ」…納得。

残念ながらあまり好意的な感想には出逢えませんでした。
でも、ね。
確かに確かに一言も弁解できないくらいそうなんだけど(笑)
原作「東京タワー」にそもそもリアリティが希薄なんだから。
むしろ原作のイメージを壊してなくて
映画としては成功してるんじゃない!?なんて
抵抗を試みたくなる柊なのでした。








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最終更新日  2005.01.20 16:31:10
コメント(14) | コメントを書く


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Re:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
透衣音  さん
映画を観ている最中は
耕二、貴美代が好きだったんですが、
観終わった後、男女が逆転したような
透、詩史が面白いなと思い始めました。
物語終了後、二人の関係がどう変わるのか…。
邦画好きの贔屓目か、
だんだんお気に入りになりつつあります。 (2005.01.20 17:20:45)

Re[1]:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
柊♪  さん
透衣音さんへ

>物語終了後、二人の関係がどう変わるのか…。
>邦画好きの贔屓目か、
>だんだんお気に入りになりつつあります。

不思議に余韻を残す映画です…。
気に入っている台詞とか、まだずっと頭の中をぐるぐる駆け巡ってます。
映画を観た後は、映画の結末の方が気に入ってます。
二人の関係はどう変わっていくんでしょうね…(*^^*)
(2005.01.20 19:35:44)

Re:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
rugerman  さん
こんばんは。ご無沙汰してました。
そうなんですよぉ……江國さんの原作『東京タワー』は3年前にハードカバー刊行と同時に読んでますので、映画と小説の表現の違いに興味津々なのですが、映画の雰囲気からいって、どうも女性客が多そうで、一人で見に行く勇気がなかなかねぇ。DVD出るまで待つしかないかなぁ……。
日記を書き始めて1年が経ちました。無理せずにマイペースで、映画評や書評なども書いていきますので、これからもよろしくお願いします。 (2005.01.20 19:59:14)

Re:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
本の方ではあんまり修羅場がありませんでしたが、その辺りが違うのですね。
ハッピーエンドで終わるのなら、映画を見てみたいです。
本の終わり方も「男と女」みたいで良いなあと思っていたんですけど。
(2005.01.20 20:16:41)

Re:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
パティP  さん
江国作品自体がそういうものなのか・・・
その反論、読者ならではですよきっと。
江国ファンがどう思うか、というのが大事ですね。
(2005.01.20 20:35:28)

Re:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
machirun  さん
リアリティーは確かにないかもしれないけど、皆無とも思えない私です。笑。
小説なら何とかなっても、さすがに黒木さんに岡田君にetc・・・となると現実には有り得ないですけどね。そんなキレイな人達であの話なんて。
つい現実と比べてしまいがちだけど、あれは小説で映画なんだから、それを楽しむのが一番ですよね^_^
キレイを楽しみたいです☆ (2005.01.20 22:58:17)

Re:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
もとやん☆  さん
僕は原作も映画も見たことがないんですが、なかなか原作のイメージを壊さない映画って出会えないですよね。
大体が、「全然原作のほうがいい」って感じで。
楽しめたようなので、良かったんじゃないですか。

>「うぎゃー」と思ったのも事実なんだけど
笑っちゃいました。僕も駄目なんですよ。恋愛映画。もう見てて恥ずかしくなっちゃって。
「うぎゃー」って思いますよね。

以下はお返事です。
>とにかく賑やか~、江國さんふうにいうなら「色つき」って感じになると思います!
そうですか~。なんかまだピンとこない感じですが、確かに賑やかになりそう。ドラクエどころじゃないですね。

>以前は誰がオーシャンを演じてたのかなあ。
調べたらフランク・シナトラでした。
歌手のイメージしかなかったですが、役者もやってたんですね。

>一枚でも当たるってすごく気分の良いことだったんだなあと、認識改めました^^; ははは…。
あはは、そうですか。やっぱり当たらないと寂しいですよね。来年こそは何か当たるといいですね。
ちなみに会社で聞いてみたら、やっぱり1等が当たった人を知っているという人間はいませんでした。
やっぱりいないの?! (2005.01.21 07:19:32)

Re[1]:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
柊♪  さん
rugermanさんへ

>…映画と小説の表現の違いに興味津々なのですが、映画の雰囲気からいって、どうも女性客が多そうで、一人で見に行く勇気がなかなかねぇ。

そういえば会場は女性客ばかりでした(笑)
予想に反し、一人で観に来た方が多かったみたいです。
男性の方が観られたらどう思われるのでしょう☆

>日記を書き始めて1年が経ちました。無理せずにマイペースで、映画評や書評なども書いていきますので、これからもよろしくお願いします。

柊も一週間後に一年目を迎えます。
こちらこそ、今後ともどうぞよろしくお願いします。 (2005.01.21 08:47:58)

Re[1]:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
柊♪  さん
○なほまる○さんへ

>本の終わり方も「男と女」みたいで良いなあと思っていたんですけど。

映画を観た後、原作をざっと読み返してみたのですけど…。
どちらが良い、とか柊にはとても決められなくなっちゃいました(笑)
どちらも、「らしく」て好きです(*^^*)
(2005.01.21 08:50:48)

Re[1]:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
柊♪  さん
パティPさんへ

>江国作品自体がそういうものなのか・・・
>その反論、読者ならではですよきっと。
>江国ファンがどう思うか、というのが大事ですね。

先日読んだ「赤い長靴」は夫婦の間にある空気が実にリアルーに感じられて
怖いぐらいだったのですけど「東京タワー」は物語に限っていえばとてもおとぎ話めいて柊には感じられました。
映画に求めるリアリティって何だろうってずっと考えてしまいました。
現実感が一番大事なものかと問われたらSFなんて製作できないし…。
「人」が描けているかどうかかな、なんて思ってもみるのですが☆
(2005.01.21 08:59:11)

Re[1]:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
柊♪  さん
machirunさんへ

>つい現実と比べてしまいがちだけど、あれは小説で映画なんだから、それを楽しむのが一番ですよね^_^
>キレイを楽しみたいです☆

うんうん、柊もそう思います(笑)
せっかく映画館まで足を運んだんですから!
柊にはめずらしく、恋愛映画を堪能させてもらいました♪
(2005.01.21 09:02:34)

Re[1]:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
柊♪  さん
もとやん☆さんへ

>僕は原作も映画も見たことがないんですが、なかなか原作のイメージを壊さない映画って出会えないですよね。
>大体が、「全然原作のほうがいい」って感じで。

原作に思い入れがあればあるほど映画化された作品に納得できなくなりますね(笑)
今度公開になる京極作品とか。どうなるのかなあ☆

>笑っちゃいました。僕も駄目なんですよ。恋愛映画。もう見てて恥ずかしくなっちゃって。
>「うぎゃー」って思いますよね。

うんうん、もう、目のやり場に困ってしまって☆
恋愛映画にはのめり込めない体質のようです。
宴会場でお酒が飲めず、一人素面状態に置かれているような
寂しさを感じます…(笑)

>>以前は誰がオーシャンを演じてたのかなあ。
>調べたらフランク・シナトラでした。
>歌手のイメージしかなかったですが、役者もやってたんですね。

ええー、それは柊もびっくりです!
フランク・シナトラ演じるダニー・オーシャンも観てみたいです!


(2005.01.21 09:13:16)

Re:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
「るか」  さん
まず最初に、20歳も年下の男の子の横に、堂々と立てる、黒木さんを尊敬します(しみじみ)
わたしの場合、10歳年下なだけでも、かな~り、怯みます(笑)
原作、読みました。わたしも希薄な印象を持ちました。感想も書けなかったし。
耕二くんと、詩史さんの夫が、昔の知人たちにすごく似てて、懐かしい思いで読みました。
修羅場かぁ。なんだか、イメージが沸かない組み合わせもあるようで。興味津々です。
レンタル待ちになると思うけど。いつかは、観てみたい映画です。
(2005.01.21 20:12:57)

Re[1]:映画「東京タワー」観てきました。(01/20)  
柊♪  さん
「るか」さんへ

>まず最初に、20歳も年下の男の子の横に、堂々と立てる、黒木さんを尊敬します(しみじみ)
>わたしの場合、10歳年下なだけでも、かな~り、怯みます(笑)

そうですよね…。柊なんて弟の友人に面しただけで緊張します。
びくびくするなんて変…^^;

>修羅場かぁ。なんだか、イメージが沸かない組み合わせもあるようで。興味津々です。

ふふふ♪
江國作品には絶対ありえない!と思える修羅場なので
それらのシーンはうんとドキドキしました☆
レンタルになったときにでも、是非♪
(2005.01.21 20:56:33)

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