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ちょうど1年ほど前、牛乳余りが生じ、
生乳大量廃棄のピンチが報じられたことは記憶に新しい。
その理由として、コロナ禍での外出自粛によって牛乳需要が低下したせいだと説明されていたが、東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏によると、
むしろ「政府の失敗」による「人災」の側面が大きいという。
あれから1年が経ち、コロナの流行は落ち着きをみせているようにもみえるが、
一方で国産牛乳をめぐる問題は、収束するどころかむしろ拡大しており、「国内酪農家の連鎖倒産」の危機が迫っていると鈴木氏は指摘。鈴木宣弘氏の著書『世界で最初に飢えるのは日本』より一部を抜粋してお届けする。
近年、日本の酪農業では、都府県における生産減少が続く一方、北海道での増産によって、生乳の供給をなんとか維持してきた。牛乳余りどころか、ずっと不足が続いていたのである。その状況下で、農水省は「畜産クラスター事業」を推進し、生産性の向上と供給量の増加を図る。「畜産クラスター事業」とは、酪農・畜産の生産基盤強化や、収益力の向上のために、補助金を交付する事業のことだ。機械や設備の導入時の本体価額(税抜)の2分の1が補助金として援助され、必要経費等を引いても実質40%オフとなる。この制度によって、酪農家の借金は増えたが、生乳生産量は伸びた。だが、コロナ禍が発生し、自粛などによって生乳需要が減少、乳業メーカーの乳製品在庫が積み上がってしまった。
2021年になると、学校給食が止まる冬休み期間に、生乳の処理能力がパンクし、大量の生乳が廃棄される懸念すら生じた。政府が「牛乳を飲もう」と呼びかけ、関係者が全力で牛乳需要の「創出」に奔走した結果、なんとか大量廃棄は回避できた。関係者の努力には敬意を表するが、これを美談として扱ってはいけない。もともと、牛乳余りが生じたのは、政府による畜産クラスター事業によって、生産量が増えたことが原因の一つである。政府は、単に牛乳の生産量を増やすだけではなく、「出口」となる牛乳需要の創出も同時に行うべきだった。コロナ禍という予想外の事態が発生し、牛乳余りが生じたなら、政府が買い上げれば良かったのである。だが、政府は牛乳の買い上げはせず、代わりに酪農家に対して、「牛乳を搾るな」「牛を処分すれば1頭あたり5万円支払う」などという通達を出している。政府の指示で「牛乳を増産するためなら補助金を出す」としておきながら、手のひらを返して「牛乳を搾るな、牛を殺せ」と言うのは、あまりにも無責任ではないだろうか。しかも、畜産クラスター事業はまだ続けられている。この矛盾を、政府はどのように説明するのだろうか。いま、日本の酪農が危機に瀕している。図表⑤は北海道の酪農家の所得である。コロナや戦争の影響により生じている、2022年2月時点での生産資材価格の上昇をもとに試算したものだ。
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