Feb 28, 2006
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カテゴリ: 今日のできごと
「ねえ。忘れてたもの、思い出した?」

彼女は振り向きそう言うと、紺のプリーツスカートの裾をフワリと揺らして走って行った。



東京支店に異動した営業Nサンの後を引き継いだ営業Kサンは、このままではぶっ倒れるのではないのか。と言うほど、毎日必死で働いている。

でも。それでも追いつかなくて、その皺寄せが私に来ている。打ち合わせが満足に出来ないので不備が多く、今まではスムーズに行っていたことが、ちっとも進まない。

1人、必死に、自分の力の限り動いて働いてんのに、オバチャンやanegoは「ヒマ」「ヒマ」言ってる。

たぶん。それが原因なんだと思うけど…。


いい加減、私も体力の限界だったため、家に帰りつくのと同時に倒れた。
友達のメールが溜まっている。返事をしないと…。
茶碗も洗わないと。掃除機もかけないと…。




1人の女の子が笑っていた。高校。そう。高校生の私だ。


Sや友達と話をしながら笑っている。大好きだった売店の焼きそばパンを食べ、パックのオレンジジュースを飲みながら笑っている。


昼休みなんだろう。そう思った瞬間、景色が変わった。


私が笑っている。今度は放課後。部活動をしている。だって手にはしっくり馴染んだクラリネットを抱えているから。

野球部のSと何やら話している。そして笑っている。弓道部だった親友が通りかかり、一緒に立ち話をしている。皆で笑っている。


再び景色が変わって…。


今度はまた教室。テスト期間中なのだろうか。皆で顔を寄せ合って教科書やら参考書を見ている。

恩師の、数学の先生に質問をしている。小難しい顔で話を聞いていたが、深く頷くと私は笑った。


ああ。そうだ。


気づけばまた、景色が変わっている。賑やかな、休み時間の廊下。移動教室や体育などで行きかう人々の波の間に、私はボンヤリ突っ立っていた。

これまで全てセピア色だったのに、不意に現れた高校生の私はカラーだった。



自分は移動教室なのか、辞書の他に、教科書やノート、ペンケースを抱えている。友人たちが私の名を呼び、私はSと別れた。

友人たちに追いつく為、走りかけた私は不意に振り返り、ボンヤリ突っ立って始終見ていた私に笑いかけた。

「ねえ。思い出した?」

彼女は一言そう言うと、そのまま走っていった。




今の私が、現実の「今」を生きている私だ。





私にも、あんなに笑っていた時間があったと言うことを。


無邪気に、何の心配もせず、何にも不安がらず、ただ、無邪気に。


ふっと意識が戻る。自分がドコにいるのか一瞬分からず、ボンヤリ床に臥せっていた。

纏わり付くミルの姿に、ようやく思い出す。ああ。玄関で寝てたよ…。


あまりにもリアルな夢。


過去ではなく、未来を見て生きたい。
真っ直ぐ前を向いて生きたい。
人はそう、生きるべきだ。そう思う。


でも。

忘れていた「大切な何か」が、過去に見つかることもある。


たまには。

後戻りも良いかも。と不気味な笑みを浮かべながら起き上がる私を、ミルは不思議そうに見上げていた。









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Last updated  Mar 2, 2006 11:03:23 PM
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