ショッピングタウンの中にある「お茶屋さん」に、瓶に入ったインスタントコーヒーが売られていた。
「¥398」
安いしっ!! お茶っ葉より全然安いよ!? 良いの!?
ボンヤリ無表情の顔をしながら、頭の中はとんでもなく叫んでいた。
…グッジョブ。 とりあえず…。左手を絵文字のように作ってインスタントコーヒーの瓶に突きつけた。
「スナイダーズさん?」
声がして振り向くと、Kの友人のIがいた。そういえば近所だったんだ、こいつ。
「…何やってんの?」
いえ。別に。
スタバでコーヒー飲んだ。瓶詰めで¥398のコーヒーを思うと、アメリカンも少々躊躇ってしまう。ここは、思い切ってカフェモカだ!!(意味不明)
「何やってんの?1人?」
見れば分かるでしょうよ。
「Kは?」
さあ。私がそうぶっきらぼうに答えると、Iは苦笑いした。
「まだ頑張ってんの、あいつ?」
意味がさっぱり分からなかったけど、Iの話を聞いてちょっと引いた。
「来月まで続けることになるな」
「そうか、来月か」 5月。Kの誕生日がある。
んじゃあね~! Iは爽やかに去っていった。
自転車を漕ぎながら思う。
来月。恐ろしいな…。
去年は。知らなかった。付き合い初めで、誕生日知らなかった。つうか、誕生日とかクリスマスとかそういうイベントには私は弱いので、どうでも良かった。
Kは泣いた。怒り散らして泣いた。ちょっと引いた。
「Kのヤツねぇ、失礼だけどスナイダーズちゃんを試してるんだよ」
Iはそう言った。ホント、失礼なヤツだ。
あんまり。私から色々言ったことも、やったこともない。誕生日も聞かないくらいだ。
だから。
不安になった。
「誕生日がカケなんだ。これからの俺のためにっ」 そう言ったらしい。
ばかだなあ。こんなカタチでしか確かめられないなんて。
一緒にいるのが当たり前だった。いや、一緒にいないのが当たり前だった。
生活スタイルがまるで逆転している私たちは、一緒にいる時間が極端に少なかった。
加えて私が。
あまり何も言わないのが原因になった。この「片思いごっこ」が終わらない原因に。
「スナイダーズのこと、ちゃんと分かってるつもりだった。だから、こんな片思いごっこなんて余裕こいて始めたけど、でも、やりだしたらドンドン不安になっちゃって…。でも、動けなくなっちゃって。何だか、分からなくなっちゃった」
んなこと、ほざいてたよと、Iは言った。何やってんの、あんたら?とも。
ホント。何、やってんでしょうね。
「止めかたも分からなくなっちゃった。はい、お終い。なんて言うのもヘンだし、でも、好きです。なんて告白するのもヘンだろ?キッカケがないともう、終われないんだ。だからとりあえず…来月の誕生日まで…」
はい、お終い。で構わないのに。
でも。何だかそれも空しい。何だか気まずい。此処まで来たら私も後に引けなくなっていたことに気づく。
「つうことで、来月ちゃんと誕生日祝ってやってよ」
そうするよ。
面倒だけど。誕生日だからどうなん?って思うけど。でも、精一杯祝うよ。
たぶん。私が生まれて初めてってくらい、精一杯祝うよ、あんたが生まれた日をね。
私たちが、同い年になる日。
「片思いごっこ」は、いつのまにか、本当の片思いになっていた。お互い、何だか不安で、でもその気持ちを怖くて伝え切れなくて…。照れくさくて。
言わなくてもわかるだろう?そう言うガンコな言い訳もあって…。
動けなくなっていた。
人の気持ちって不思議だね。
私は。ホッとしたけど、でも同時にドキドキしてます。
だって、片思い中なんですから。