天宮  -描かれた限界-

天宮  -描かれた限界-

Mar 7, 2007
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 来週妹の中学受験が控えている 無理言って時間を取りこの車に乗せた

 助手席にはお母さん 運転席にお父さんに絶え間なく話しかけている
 身の回りのこと  近所の人付き合い 妹のこと そして僕のこと

 妹は窓の外を見ていた 手元には用語集 しっかり握ってる
 僕はすぐ下の画面を向いた 太ももの上には携帯ゲーム機 カチカチとボタン押す

 先のことなんて知らない 普通に生きて普通に死ねればいい 捻くれた思考
 常識だと思い込む 変わってるとからかう周り どこが……


 貶す妹の声 すぐに妹は参考書と睨めっこ いたって真剣

 言い返せない僕 ゲームを止める僕 受験に落ちて普通な学校生活を送る僕
 夢は持ってた 輝かしい未来を手に入れる夢 脆くも崩れてった二年前

 お母さんにまだ次があるわと言われ お父さんにお前はこれからだと言われ
 そして妹に格好悪いと言われた 消失感を覚えやる気を失ったあの冬

 突然後ろからラッパ音 凄い速度で隣を駆け抜ける大型トラック 
 僕らの車を抜き去る 瞬間黒煙 化学物質と有害物質

 辺りを見渡す どこもかしこもトラック 周りには大型車しか走ってなかった
 おかしいと思った けれど黙っていた きっと偶然だと思ってたから

 道は次第にでこぼこ砂利道 車はガタガタ 明らかに普通の道じゃない
 焦るお父さん うるさいお母さん 教材から視線を外さない妹


 人が近づいてくる 車窓を開け尋ねるお父さん 無理に冷静を装う

 ……ここから先は工事中です そういわれ もと来た道を戻る一家
 惨め 不安 平静としている妹 ぼぅっとゲームを手に持つ僕 車は正しい道を進む

 安心したお父さん 興奮冷めないお母さん 前方を一瞥しすぐさま視線を手元に戻す妹
 平坦な道なり ゆったりとした速度 周りにトラックはない


 ボタンを押す サイコロが転がる 指した数字を進む 破産 ゲームでさえ転落人生

 車はトンネルを抜ける 眩しいほどの明るさ この先急カーブの看板
 サイコロを振る 心が落ち着かない 動揺

 いつまでも落ち着いてる妹 ハンドルを切るお父さん 車は曲がる
 クラクションを鳴らしながら突っ込んでくるトラック 悲鳴を上げるお母さん

 今度はしっかりとトラックのほうを向く妹 ゲーム機をしっかり掴む僕 両親騒然
 激しい音と共に車がシェイクされる 揺れる車 頭にくる振動 痛みを伴う衝撃

 突かれガードレールにぶつかる車 そしてトラック 落ちる車 傾くトラック
 目を閉じるお父さん 悲鳴を上げるお母さん どこか悲しげな横顔を見せる妹

 そして そんな妹を見ながらいまだにゲーム機をしっかり持っている僕
 車は落ちる トラックと一緒に すべてを消滅させながら





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Last updated  Mar 7, 2007 09:26:36 PM
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