セルフィッシュなブログ

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2013.01.30
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カテゴリ: 小説
 高校一年の冬、母が亡くなった。父が亡くなってから母は僕のために懸命に働き、ムリをしていたようだった。この事は葬式に来てくれた会社の方から聴いた話で、生前の母は僕に心配させないためだろうかそんな素振りはみせなかった。
 参列者に挨拶しながら、頭の中では母のことを思い返していた。ふと空を見上げると元々曇っていた空がいっそう厚い雲に覆われ、今にも雨が降ってきそうだった。

 身寄りの無くなった僕の身の振り方については色々揉めたのだがここではふれないでおく。最終的には母方の祖父に引き取られることになり、この春休みに引越す事となったのだ。
 母方の祖父とは小さい頃に会ったきりで、どんな人かも覚えていない。自分の娘の葬式にも来なかったのだ。叔父.伯母、父方の祖父母はきていたのに…。しかし、来ていなかったといっても引きとってくれるというのだから感謝すべきなのだろう。

 引越の日、 父が亡くなってから越してきたアパートは、荷物が全て無くなりガランとしていた。ほんとに狭くて嫌だったのに今は広く見える。なんとなく、玄関に立ち部屋を眺めていると母を悲しませた事ばかり思い出され、たまらなくなった。僕はボストンバック一つ担いで足早に部屋を後にした。

 駅に向ってしばらく歩くと宇都宮栄広がたっていた。「みやび」と声をかけてきた。本山雅也、僕の名前からそうよんでいた。「えいこう」と声を返したが後の言葉はでてこなかった。何故だかとても照れ臭かったのだ。えいこうもきっとそうなんだろう。
 しばらく何も話さずならんで歩いた。もう春だというのに何だかとても肌寒かった。
 「向こうに着いて落ち着いたらメール...電話くれよ。」えいこうは一番親しい友達だ、親友といってもいいだろう。「ああ、そのうちなっ」僕は少しだけ悪戯っぽく笑いながら返事した。とりとめのない話をしながらの道程はほんとに楽しかった。
 「そうだ、タ城とは話したのか。」と、突然言った。「なっなんでだよ!」ぼくは顔が赤くなるのを意識した。「だって仲良さそうだっただろ」心の中で“どこが!”とつっこんだ。「通学の時、駅の反対側のプラットホームにタ城がいるとず~っとみつめあってたじゃん、最初はきづかなかったけどチョクチョクあるとそら気付くじゃん。」えいこうはさらにつづけ、「なんか訳ありげで、知られたくないのかと思ったからいわなかったけどさあ」



 タ城美由紀、初夏の木漏れ日のような笑顔が印象的なコだった。近所だったので物心つく前からよく遊んでいたそうだ。父が亡くなった時に今まで住んでいたアパートに引っ越し少し遠くなったが小学校までは仲が良く、一緒に遊んだものだ。中学になってからはほとんど話す事はなく、高校は別々になり全く無くなった。
 確かに僕の方には幼いながらも恋心のようなモノがあったのは間違いない。いや、今でもか…。
 彼女がいるとついつい見ていたのは事実で、しかも自惚れと思われるかもしれないけれど僕はお互い見つめ合っていたと思っている、いやほんとに視線が合っていた。 
 駅で反対側のプラットホームの彼女と向い合っている時、交差点で反対側に立っている時、信号が変わり歩きだし距離が縮まると声をかけるどころかお互い視線を向けずに通りすぎていたけど…。だから自分でも自信が持てず、お別れも告げずこの街を後にしようとしているのだ。

 改札口でえいこうと別れ、プラットホームに向かった。
 通学で利用しているプラットホーム、いつもは学生やサラリーマンていっぱいでにぎやかだが今は人はまばらで閑散としていた。僕は彼女の姿を探すように、または懐かしむように見わたしながら歩いていた。
 ふと前を向くと彼女、制服姿の結城美由紀がベンチに腰かけていた。部活か補習だろうか。ややうつむき加減の横顔は早春の淡い朝日にてらされてとてもきれいだった。彼女は物思いに耽るように前に視線を落とし、長い睫毛がよりその雰囲気を強く醸しだしていた。
 僕は彼女をみつめて歩き続け、彼女を見ずに通りすぎた。そして振り返りたい想いを押さえ込んで、いつも電車を待っていた場所まで歩いていった。
 なんだか僕はとても恥ずかしくなった。いや、恥ずかしく、情けなく、一人でその気になってる自惚れ野郎! 穴があったら入って上からコンクリで塗り固めたいぐらいだった。
 僕は大きく息をはきだし、気持ちを落ち着かせようとした。
 少しして、ふと疑問が浮かんだ。 彼女はなぜこっち側のプラットホームにいるんだろう・・・。








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Last updated  2013.01.30 21:20:02
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