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神崎 瑠璃

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2007.06.07
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カテゴリ: ぽつりと。
雑踏の中を僕は当てもなく彷徨っていた。

あちこちに高層ビルが立ち並び、その狭間を沢山の無表情な人が通り抜けて行く。
そんな無機質な光景に見慣れてしまった僕がいつも感じているのは。
この街の人々は、不安と恐怖と絶望という物にしか娯楽を見いだせないのではないか、と。
興味の対象…それはやはり街の雰囲気からして、そういった物になってしまうのも仕方のない事なのかも知れない。

僕はただ、道路に引かれた白線の上。
ぶらりと交差点を渡りながら視線を彷徨わせて考え事に耽っていた。
端から見るとかなり危ない人間に思われるだろうか。
虚ろな目をして、ただ鈍く歩き続けている僕の姿を。


「きゃっ!」
どんっ、と誰かに軽くぶつかるのを感じた。
ふっと焦点を相手…対象に合わせてみれば。
「…桜…葉?」
「な、なんであんた…引き蘢りじゃあなかったの?」
彼女は桜庭羽遠…はのん、だ。
よく名前の読みがわからないと言われ、本人もその事をかなり気にしている。
「僕が引き蘢りなのは…否定しない。が、だからといって街を歩いていてはいけないのか?」
「ん、いや…別に」
引き蘢りというと大抵は家の外に出られない、出ようとすると様々な症状が身体に表れる。
その他にも様々な状況や原因があるだろうが、僕の場合はただのサボりの延長線上だ。

「何が?」
「え?だって学校にまともに来ないくせに、街を平気で歩いているなんて…補導員に引っかからないの?」
多少口は悪いと思うが、彼女はこう見えてもかなり優しい所を持っている。
「あー…あんまし引っかかった事はないな」
「あんましって事は、何度かはあるのね」

「へえ?どんな風に」
「なるべく、学生に見えないようにな」
こう見えても僕は桜葉と同学年、高校1年生である。
ただ桜葉は早生まれなので既に16歳、僕は遅生まれだからまだ15歳。
「ふうん」
「ま、桜葉よりは幼いけどな」
「…!それは違うって、多少の時間差なんて大した事じゃないと思うわ」
「けっ」
「…性悪学生」
「言ったな」
「あら、違った。質の悪い引き蘢りボーイね」
「うっ」
僕は彼女のそうしたすました態度が嫌いだった。
彼女とは高校に入学してクラス編成が発表されてからの仲だが、不思議とお互いの関係に日の浅さと言うものを感じない。
普段の他愛もないやり取りは小学生並みだと思うし、まるで幼馴染みであるかのような錯覚すら覚えた。
「それより、桜葉は…学校帰りか?」
「ん、いいえ?ただの早退」
「さっ、サボりじゃないのか?それ」
「まさか。今日は…家庭事情によるものよ」
「はあ。まあ、病で早退っていう口じゃあないもんな」
「そうねえ、もし病弱だったら万年休めたのにね」
「はあ?」
「いいや、別に。何だかあんた…えっと、名前は」
「早く覚えろ、僕は遠藤定之」
やり取りこそ付き合い慣れたような感じではあるが、実際こんなに話し込んだのは今回を含めても数回しかない。
そのうち、僕の名前を彼女に教えたかどうかというと…はっきり言って覚えがない。
もしかしたら教えていなかったのかも知れない、だとしたらこの流れはいい機会だと思った。
「んーっ、つれない態度。さだゆき…かあ」
「なんだよ」
「珍しいなあって、現代じゃあね」
「…?」
「こっちの話ー」
「変わってるな」
「あんたの方こそ。一昔前みたいな名前じゃないの」
「まあな」

うだうだと話し込んで十分は経っただろうか。
交差点はとっくに渡り終え、気が付くと立派な洋館の前までやって来ていた。
「それじゃ。私の家はここだから、またね?」
「で…でかい家だな」
「そう?この家は先祖代々引き継いできたものだから…」
「そうか。由緒あるお屋敷、かっこいいな!」
「由緒…かあ、いわくならいっぱいあるんだけど」
「は?例えば?」
「あー…あの2階の窓、一番右端のやつね。雨の日になるとあそこに巨大な猫の影が映るとかなんとか」
「…まじで?」
「私は見た事ないんだけど、近所じゃ見た人は沢山いるらしいわね」
「…怖いとこだな、お前の家」
「あっはっは!慣れちゃった。毎晩、誰もいない場所から声はするしね」
「おい…」
「気にしないでっ!それじゃあねっ」
そういうと彼女は大きい門扉をぎぎぎと押し開けて、洋館に続く小道を走って行った。
…何だかとんでもないような事を聞いたような気がするが、彼女が元気ならそれでいいと思った。
ふと、洋館の2階の右端の方に目が……
「ん、あれ?」
よく見ると、洋館の2階の右端を探しても窓なんてものは一つも見当たらない。
…騙されたのか?僕は…
でも彼女が嘘をつくとは思えない、でも…何故?
「雨、窓、巨大な…猫の影」
ぽつりと、気にかかる単語を口に出してみる。
と、何処かでにゃーんと猫の声がしたような、そんな気がした。

この街は殺風景だと思う。
心が麻痺してしまったのか、つまらない大人たちばかりが群れているような気がしてならない。
その中で少しだけ感性が違う、そんな人に出会うと僕はほっとする。
ただこんな社会の中では、世間の意向とズレた考えをしているとすぐにのけ者になってしまうのだ。
染まるか、染まらないか…
何故、人は迷うのだろう。
見付けようとして迷っているのだろうか。
平凡な世を求め、危機の無い世を求め。
そして、平等を叫び…文明こそ発展はすれど、それに反比例するように世の中はすごく寂しいものになっていく。
そんなような気に、僕は度々陥った。
安堵する場所が欲しい、誰もが願う事だが…
そう都合のいい場所も、見付けにくい世の中なのだろうか。
だから僕は、桜葉と一緒に話している時が唯一の安らぎの時だった。

今日は、桜葉の家を少しばかり知っただけで。
なんだか、心の中に雨が降ったようだった。




<終>





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Last updated  2007.06.07 09:17:01
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