それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

食堂にて





食堂へは、さっき見学に来たばかりだったが

改めてメニューを、見てみると

なかなかおいしそうだった。

しかも安い!


( 350円のA定食にしよ~っと。 )


私はA定食。

山中さんはC定食に決めた。


食券を買う機械に、350円を入れて、

A定食のボタンを押そうと思った。


…が、A定食のところにランプが付かない。


( やだ~。 故障してるの? )


と思っていたら、後ろから山中さんが

申し訳なさそうに言った。


「350円はね、社員用の値段なんだよ。

 磯野さんは、その他だから700円だよ。」


( えええええっっっ。 だって値札に書いてあったのに!! )


小走りでもう一度、A定食のサンプルを見に行くと

 『 社員:350円/その他:700円 』

と書いてあった…。


( げ~っっっ!!ホントだ!!! )


私にとっては、かなりショックだったが

「ホントですね。 700円でした。」

と、さわやかな笑顔をつくり、700円で

A定食の食券を買った。


( に…2倍~!!差別だ~っっ!!! )


さわやかな笑顔の心の中で、

不平不満の言葉が止まらない…。


今までの3社は、派遣も同じ値段か、

せいぜい、プラス100円程度だった。


( く~っっ。 なんか腹たつ~っっ。 )


「磯野さん。」

山中さんの声で、我に帰った。

「あ。はい。」


「ここは、C定食のところだからダメだよ。

 A定食はね、あそこに並ぶんだよ。」


私は、値段のことで頭がいっぱいで

自分でも気付かないうちに

山中さんの後ろにならんでいたのだ。


「あ。わかりました。ありがとうございます。」

再び、私は、さわやかな笑顔をつくった。


この、さわやかな笑顔をつくる…という特技(!?)は、

派遣として働きはじめてから、身についた。


派遣として、社員の中で働いていくのは、意外と大変なのだ。

気に入られないと、すぐに他の派遣社員と変えられてしまう。


ひどいときは、派遣会社そのものを、変えられてしまう。

だから、私はいつも、派遣会社の看板を背負っているつもりで

働いている。


機嫌が悪くても、体調が悪くても、理不尽な仕事を押し付けられても

笑顔で、快く対応する。

それが私のモットーだった。


私は、A定食を受け取り

山中さんと同じテーブルに座った。


見学の時は、中まで入れなかったので

わからなかったが、とても、大きな食堂だった。


それに、窓も大きく、キレイな山も見えた。

「いい眺めでしょう。」

「はい。」


( 眺めはいいけどさぁ、2倍だよ。 2倍っ!!! )


私は、まだ心の中で不機嫌だった。


「山中さん、ここ、座ってもいいですか?」

私は、その声の持ち主を、見上げた。

そして思わず、椅子から落ちそうになった。


そこには、なんと今朝見かけたおじさんが立っていたのだ。


倒れちゃうんじゃないか…っていうぐらい、

前かがみの姿勢で、ものすごい早足で歩きながら

ぶつぶつ…と言っていた、あのおじさんだ。


( げっっ。 同じ部の人だったんだぁ…。 )


「どうぞ。どうぞ。」

山中さんは、笑顔で勧める。


おじさんは、山中さんが「どうぞ」の、「ど…

を行った時点で、既に私の隣に座っていた…。


「君、名前は?」と、おじさんが聞いてきた。


( 自己紹介したでしょーに!! )と思いながら

「磯野と申します。よろしくお願いします。」

と、丁寧にお辞儀をした。


「僕は川村。 この研究所は変な人、多いでしょう?」


あまりにも図星な質問に、心臓が飛び出そうだったが

「あ。 いえ。 まだよくわかりません…。」

と答えた。


そして…


( あなたのことを、1番最初に変だと思いました。 )


と、心の中で、答えていた。


そのおじさんは、それ以上何も聞かず、山中さんに

話しかけた。


「山中さん、特許の件なんですけど、*○%×!だけじゃ

 だめですか?」


( ふ~ん。 話すときは普通なんだぁ…。 )


と、感心しながら、私は、さっさとA定食を食べ始める。


「やっぱり、+☆*@# も入れないと

 難しいかもしれないね。」 と山中さん。


*○%×! や +☆*@# の部分は

専門用語らしく、私にはさっぱり意味がわからなかった。


それから、2人だけの会話が始まった。


「そういえば、○&#*$ なんですけど

 何度か △#‘*□ したんですけど

 上手くいかないですね~。 」


「$%@○△ は、してみたの?」


「はい。それから一応 &%$”@ もしました。」


( つまんな~い。 話題が変わらないかなぁ…。 )


私が、A定食を食べ終わっても、とうとう

何ひとつ話しかけられることはなかった。


「山中さん、私、お先に失礼します。」

たまりかねて私は、立ち上がった。


「ああ。それじゃぁ。また午後ね。

 1時まで時間があるから、庭でも散歩してきて。」


( ええっっっっ!!! 昼休み1時間じゃないの?

  11時20分から休憩したんだから、12時20分から

  仕事じゃないの~? )


と、驚いたが、なんだか驚くのにも疲れていたので

そのまま食堂を後にした。


時計を見ると、1時まで、まだ1時間近くもあった。


( 仕事もまだわからないのに

  1人で、あの席にいるのもなぁ… )


と思い、とりあえず山中さんの言うとおり

建物の外に出てみた。


確かに、建物の周りは、緑や花が咲いて

とてもキレイだった。

春の風がとても心地よい。


歩いていると、グラウンドやテニスコートがあり

側に、キレイな木のベンチがあった。


私は、自動販売機でコーヒーを買い

そのベンチに座った。


( あんな、つまんない昼食は、初めてだなぁ。 )


さっきの食堂での出来事を思い出していた。


45分間、私が話した言葉といえば、

「磯野と申します。よろしくお願いします。」

「あ。いえ。まだよくわかりません…。」

だけだ。


メニューの金額の件、つまらない食事時間

そして、今朝からのいろいろな出来事…


まだ働いてもいないのに、私はなぜか

半日でヘトヘトだった…。


( 辞めないで。 って先手を打たれたのは

  キツイなぁ…。 )


私は、青芝が生えたグラウンドを見つめながら

朝からの出来事を、いろいろ思い出していた…



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