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「よっこらしょっと。……あらやだ。まるでおばさんみたいなこと言っちゃった。」 克哉の手を借りて立ち上がった美根子は、恥ずかしそうに笑う。「いえ、そんなことないですよ」 美根子は自分よりも10才は年上の大人である。克哉のような中学生の子供からすると、十分に美根子はおばさんの範疇に入ると言えなくも無いのだが、そこはそれ、社交辞令を言うことが出来る程度には克哉も大人だった。(やっぱりこの看護婦さん、結晶化しかけてるんだね。どうしよう奈里佳?) そして克哉は、苦笑い混じりの社交辞令で美根子に応えつつ、心の中の会話で奈里佳に質問する。(どうって……。この状態ではまだ何も出来ないわよ。そうでしょ、クルルちゃん?) 奈里佳は、自分達の状態をモニターしているはずのクルルに助けを求める。ただ、自分で説明をするのが面倒くさいだけであろうが。(そうですね。克哉君が変身して身体のほうも奈里佳ちゃんになったとしたら何とか出来なくも無いですが、現状ではとりあえず要注意人物として見守るしか出来ませんね。遠隔地からでもモニター出来るように、その看護婦さんの精神とリンクしておくというのが今とれる最善の方法でしょう) 良く言えば常に会話をモニターして手助けが必要なら助言を加える。悪く言えば常に盗み聞きをしていて自分の得意な話題になればしゃしゃり出る。というわけで完全なる状況把握のもと、克哉と奈里佳の会話に割って入ってきたクルルだった。(見てるだけって、それだけで大丈夫なの? もしも急に結晶化が始まったら……) 言葉を濁す克哉。その脳裏には数日前に夢で見た崩壊のビジョンが再生されていた。「ちょっと、矢島君ッ! 急にどうしちゃったのッ!?」 美根子は、転んだ自分に手をさしのべて起こしてくれたた克哉が、目の前で急に黙りこんでしまったのをしばらく不審そうに見ていた。しかし克哉が、突然小刻みに震えだしたかと思うと顔は青ざめ、冷や汗まで流しだしたのを目にすると、あたりをはばからずに大声を出したのだった。「え……」 再生された崩壊のビジョンに精神の平衡を奪われた克哉は、気の抜けた返事をするばかりである。「とりあえず、保健室に早く戻りましょうッ!」 自分よりやや低い位置にある克哉の両肩を正面から掴んで、美根子は克哉の焦点が定まっていないその目を見ながら言い聞かせると、今度は修司の方に叫ぶのだった。「手伝って下さいッ!」 その美根子の剣幕に押された修司は何も言わずに克哉を脇から支えた。「行きますッ!」 その姿は、ドジな看護婦さんの姿には見えなかった。修司は軽くうなずくと、美根子と2人で克哉を保健室へと運び、その扉をくぐった。するとそこに待っていたのは、検尿の結果をカルテに記入している遠子だった。「先輩ッ! どうしたんですかッ!?」 美根子と修司が誰がどう見ても具合の悪そうな克哉を両脇から抱えながら保健室に入ってきたのを見て取ると、遠子は驚きの声をあげた。
Jan 31, 2005
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