劇場通いの芝居のはなし

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2019.07.02
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カテゴリ: 演出ノート(3)
お客のための用意をしてくれた、菊の孫の嫁、洋子はちょっと外出していて、その娘のまやが留守番をしています。オーボエの練習をしています。そこにチャイムが鳴ります。声がします。「こんにちは。大下です。福山の」

オーボエの音が止み、まやが二階から降りてきて、大下勇を迎えます。入ってきた勇は、もうかなりの年齢で、足も弱っています。「いかるが」ではそれほどの老齢者がいないので、老けでやりました。

勇はまやに、下げてきた西瓜を手渡します。仏壇の前に坐り、線香に火をつけて、手を合わせます。御輪がチーンと鳴ると、菊と花代もピクリとして、勇に向かって手を合わせます。「感謝」です。
まやは母が用意したビールを出します。西瓜のお礼を言います。勇は照れて、「同じもんばっかり何十年も」と言います。
菊「もう六十年も、毎年毎年」花代「六十個の西瓜を、お盆になったら」菊「なあ、ほんまに」花代「私、アホなこと考えるとこやった」菊「そうやがな」
勇「もう、ええ加減にせにゃぁいけんなあ」と言いますが、花代も菊も、まやも、いえいえと首を振ります。「あんたはひとつも変わっとられんが、わしゃぁこがぁなじいさんになってしまいました」と、仏壇の花代の写真に話しかける様子です。
まやと勇の会話は、親戚のお爺さんとのそれのように、和やかです。花代の写真をさして、「どっか似とられますな。えっと、花代さんの……」「えっと……生きてたら大オバさん……かな」
場面全体に、暖かい微笑みがほしいです。
勇にビールを勧めるように菊がまやの背中を押したり、勇の立ち坐りを花代や菊が手伝ったりするト書きがあります。生きている人間は気づかない、そよ風のような力なのでしょう。

まやのオーボエを、勇が吹いてみますが、鳴りません。ここで勇が「女の人向き」の楽器じゃないと言ってしまい、まやがちょっと反発します。
「世の中、変わりましたけぇな、なにかにつけて」

花代に背をおされて、まやが勇にビールを勧めます。まやが、もう一杯注ごうとしますが、菊が止めます。はしたない、という感じでしょう。すると勇は、「いやぁ、もういけん。心臓がバクバクしてきょぉりますけぇ」と断って、「若きゃあ時分に戦争で死に損のうて、久しぶりに今年の春にも死に損ないました」と続けます。心臓が悪いようです。
まやが「戦争って……」と問います。まやの知っている戦争はテレビで見たもの、学校で習ったものです。記録の伝聞でしかありません。勇にとっては、それは体験であり記憶です。
by 神澤和明





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Last updated  2019.07.02 09:00:12


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