劇場通いの芝居のはなし

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2019.07.13
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カテゴリ: 演出ノート(3)
第二パートは、「恋」に関っていると言って良いでしょうか。
派手な服装の女が、建物の陰、階段が良いと思います、に現れて腰をかけ、男を見ています。人生に疲れた女性です。後の話で、夫は戦争にとられて消息知れず、子どもが一人いたが、別れ別れになって、今はどうなっているかわからない、という身の上であることが知れます。30歳になるくらいでしょうか。すさんだ生活のために、年齢より老けてみえるでしょう男が歌い終わると、声をかけます。「何してるのさ、其処で?」

男は我に返って、女を見ます。声をかけたのが、いわゆる夜の女であることが、一目でわかります。派手な赤いドレスと濃い化粧で、一目でわかります。別に軽蔑するつもりはありません。でも、彼は少し、違うところにいる者を見ているような態度で始めているように思います。
「思い出を売ってるのさ」「思い出?……そんなもの、どうやって売るのさ」「買ってみりゃ分るよ」男がサクソフォンを持っているのに目をつけて、女はたずねます。「あんた、サクソフォンを吹くの?」「吹くよ」「サクソフォンにゃ、あたし、思い出があるんだよ」「そうかい。百円出せば好きな歌を吹いてやるぜ」
彼の女に対する態度は、先の二人と比べると、ちょっとまだ距離があります。でも、彼女はお客になるかもしれません。
オルゴールに耳をすませて、女は「綺麗な音楽ね、それ」と言います。女は男が歌い終わるのを待っていた、というのも、彼女が音楽に思い入れがあるからかもしれないとも、思わせます。
ここから、短い言葉をつらねた、男と女との対話が始まります。女がぽつりと語る一言に、男が頷くのですが、女の過去がひきだされてゆきます。

「あたしはとっても不幸なのよ」「知ってる……」「あたしはとっても苦しいのよ」「知ってる……」「あたしは、とっても……醜いのよ」「知ってる。……だから、君の思い出は人一倍美しいのさ」「あたしには色んな思い出があるわ」

花売り娘には思い出はなかった。広告屋は思い出したい思い出など一つもない。でも、街の女には、いろいろの思い出があるのです。男は女に、じっと灰色の壁をみつめているように言います。そうしていれば、音楽に導かれて、幸福の夢、美しい思い出しか見えなくなるのです。

男に導かれて、女は今まで封印していた、楽しかった過去を思い出して行きます。
「君はあの頃は、美しい少女だった……」「十年も前の話ね」「君はあの頃美しい恋をしてたね?」「……昔の夢よ」「あのひとは君の生きがいだった」「あたしの生命だったわ」
by 神澤和明





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Last updated  2019.07.13 09:00:16


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