劇場通いの芝居のはなし

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2019.07.16
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カテゴリ: 演出ノート(3)
G.I.は男がサクソフォンを持っているのを見て、曲をリクエストします。フォスターの『金髪のジェニー』です。男はよくわからなくて、困ってしまいます。するとG.I.の青年は、朗々とした声で歌い出します。知っている曲なので、男もサクソフォンで伴奏します。
灰色の壁に、田舎の風景と、金髪のアメリカ娘が浮かび上がります。わたしは舞台両側に、アメリカの田舎の人々をイメージしたコーラスを出して、歌わせました。
金髪の娘はG.I.が故郷に残してきた恋人なのでしょう。二人はむつまじく、幸せそうに言葉を交わします。
「変わりはないかい?」「ないわ、あなたは?」
「君に会えて幸せだ」「私もよ」「いつも君の事を思っている」「おやすみなさい」
街の女と比べて、何と平和で幸せなカップルでしょう。恋なのでしょう。

音楽が終わり、幻影も消えます。G.I.の青年は、うっとりとして、恋人の姿が消えていった灰色の壁を見つめて居ます。そして思い出を壊されたくないかのように、男の手に300円を握らせ、口笛を吹きながら去って行きます。
男は、恥ずかしそうに、しかし感謝にみちた面持ちで見送ります。
敵であった国の軍人に、多くの金を「恵まれた」ことへの抵抗と、同じ若者として共感した、恋する者の幸せをかみしめます。そしてサクソフォンで、『金髪のジェニー』を低く演奏します。

陽気な中老の乞食が、よぼよぼの犬を連れて現れます。男の演奏に聴き惚れます。
男は乞食(差別用語ですが)に気がつきます。
乞食はボロの間から、10円札の札束を出して、百円を払います。男はあきれます。
「随分もってるんだねえ」「もらう一方で、費うこたあ滅多にねえんでね」

乞食は三日やったらやめられない、と言いますが、この時代でも、やはりそうだったらしい。恥を恐れる人は、食べられなくなっても、乞食だけはしたくないと、飢え死にすることもあったそうですが、広告屋が言ったように、恥をかけばいきてゆけたようです。

この乞食もこの「仕事」で、一財産つくったようです。で、足を洗って、女房をもち、家を一軒借りて、勤めにも出た。ところが、一旦、束縛を離れた生活を送った彼には、娑婆の生活は不自由でした。こりごりしたのですが、妻はそれでも、乞食だけはしたくないとがんばって、挙げ句の果てにしんでしまいました。女房を殺したのは娑婆の生活だと、彼は恨んでいます。それで乞食に逆戻りして、今は犬と「二人」暮らしです。彼には、達観した明るさがあります。
陽気な曲をリクエストされて、男は『自由を我らに』を演奏します。身体が軽くなるような曲調に、乞食は満足します。題名も気に入ったようです。
by 神澤和明





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Last updated  2019.07.16 09:00:10


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