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cozycoach @ Re:徳川忠長 兄家光の苦悩、将軍家の悲劇(感想)(11/20) いつも興味深い書物のまとめ・ご意見など…
2020.11.07
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 富永仲基は1715年大阪生まれ、懐徳堂の五同志の一人富永芳春(道明寺屋吉左衞門)の3男として、北浜の醤油醸造業・漬物商を営む家で生まれました。

 ”天才 富永仲基 独創の町人学者”(2020年9月 新潮社刊 釈 徹宗著)を読みました。

 江戸中期に醤油屋に生まれ、独自の立場で儒教や仏教を学び世界初の研究を成し遂げ、日本思想史に大きな爪痕を残し31歳で夭折した天才・富永仲基の思想に迫っています。

 父・富永徳通(芳春)は大坂の醤油醸造業者で、父の創設した懐徳堂で三宅石庵に儒学をまなび、のち仏教や神道もおさめました。

 神儒仏の経典に通じ,主著「出定後語」では、世界に先駆けて仏教経典を実証的に解読しました。

 結果導いた「大乗非仏説論」は、それまでの仏教体系を根底から揺さぶり、本居宣長らが絶賛するなど、日本思想史に大きな爪痕を残しました。

 神・儒・仏三教の成立過程での後代の宗教や倫理の形骸化を批判し,現実に生きる誠の道を説きました。

 釈 徹宗さんは1961年大阪府生まれ、大阪府立大学大学院人間文化研究科比較文化専攻博士課程修了し、浄土真宗本願寺派如来寺住職の傍ら、龍谷大学文学部非常勤講師に就任しました。

 その後、兵庫大学生涯福祉学部教授を経て、相愛大学副学長・人文学部教授となり現在に至っています。

 論文「不干斎ハビアン論」で涙骨賞優秀賞(第5回)、『落語に花咲く仏教』で河合隼雄学芸賞(第5回)、また仏教伝道文化賞・沼田奨励賞(第51回)を受賞しています。

 仲基は、通称は道明寺屋三郎兵衞、字は子仲、号は南關、藍關、謙斎で、弟に富永定堅(荒木定堅、蘭皐)、富永東華がいます。

 江戸時代大坂の町人学者、思想史家で、懐徳堂の学風である合理主義・無鬼神論の立場に立ち、儒教・仏教・神道を批判しました。

 1730年・15歳のころまで、懐徳堂で弟の富永定堅とともに初代学主・三宅石庵に儒学を学びました。

 若くして『説蔽』を著し、儒教を批判したため破門されたといいます。

 ただし、これは仲基を批判する仏教僧側からの主張であり、事実としては疑われています。

 その後、田中桐江のもとで詩文を修め、20歳のころ家を出て、宇治の黄檗山萬福寺で一切経の校合に従事しました。

 黄檗宗の仏典の研究に励むなか、仏教に対する批判力を培っていきました。

 1738年・24歳のとき『翁の文』を著述し、のち1745年に仏教思想の批判的研究書『出定後語』を刊行し、独特の大乗非仏説(法華経、般若経などの大乗仏教の経典は釈迦の言行ではなく後世の産物という主張)を唱えました。

 後発の学説は必ず先発の学説よりもさかのぼってより古い時代に起源を求めるという「加上」の考え方にあり、その根底に「善」があることが即ち、聖と俗とを区別する根本であるとします。

 この説は、本居宣長、後には内藤湖南や村上専精により評価されました。

 また、思想に現れる民族性を「くせ」とよんでこれに着目しました。

 インドは空想的・神秘的、中国は修辞的で誇張する、日本は隠すくせがある、と述べて、それぞれの文化を相対化し比較観察しました。

 思想的特色を文化類型としてとらえ比較観察する視点を提唱し、文化人類学的発想を先取りした独自の思想家として知られます。

 さらに、宗教批判と近代批判とを結びつけるような視点をもった先駆的思想家として、デイヴィッド・ヒュームやフリードリヒ・ニーチェに比する見方もあります。

 ほかに、古代中国の音楽から日本の雅楽に至るまでの音律の変遷をたどった、漢文による20歳代の時の著作『楽律考』があります。

 著作を多く記し、その学問は思想の展開と歴史・言語・民俗との関連に注目した独創的なものといわれています。

 1746年に31歳で死去しましたが、内藤湖南は日本が生み出した第一流の天才だと言ったそうです。

 湖南は1866年生まれの漢学・儒学の流れを汲む東洋史研究者で、名は虎次郎、号は湖南です。

 戦前の邪馬台国論争、中国における唐宋変革時代区分論争などで学界を二分しました。

 1925年に行われた「大阪の町人学者富永仲基」という講演において、湖南は仲基を稀代の天才であると紹介し、仲基の研究がどれほどすごいものであるかを述べています。

 湖南はすでに明治中頃から仲基についての文章を何度か発表しており、歴史に埋没しそうになっていたひとりの町人学者へ光をあてることに成功したと言えます。

 ほかに、東洋史学者の石濱純太郎、評論家の山本七平、日本文学者の水田紀久、宗教学者の姉崎正治、哲学者の井上哲次郎、仏教学者の村上専精、インド思想学者の中村元なども、仲基の天才性を評価しています。

 天才の条件は、一つは独創性、もう一つは早熟ということだとすれば、仲基は天才の呼称にふさわしい人物です。

 同時期の人たちにはなかなか理解されないことがあり、誰もがすぐに理解できる内容や思想ではたいした独創性と言えません。

 そして、多くの人が長年にわたる研鑽・努力で到達する地平へと、早い段階でやすやすと飛躍してしまいます。

 仲基はまさに独創的であり、長い間にわたって理解されず、早熟・早逝の人生でした。

 仲基は18世紀を生きた大坂の町人であり、市井の学者でした。

 はじめに儒教を学び、独自の手法で仏教経典を解読し、そこで展開された加上説は今なお輝きを失っていません。

 他にも言語論や比較文化論などを駆使したオリジナリティの高い思想で、儒教・仏教・神道を批評しています。

 それらの著作によってわかるのは、仲基のオリジナリティあふれる方法論や思想です。

 その1、「加上」:思想や主張は、それに先行して成立していた思想や主張を足がかりにして、さらに先行思想を超克しようとします。その際には、新たな要素が付加されるというのが仲基の加上説です。つまり、そこにはなんらかの上書き・加工・改変・バージョンアップがなされているとします。

 その2.「異部名字難必和会」:異部の名字は必ずしも和会し難しで、同じ系統の思想や信仰であっても、学派が異なると用語の意味や使い方に相違が生じ所説も変わります、そのつじつまを無理に合わせようとすると論理に歪みが生じる、とする立場です。

 その3.「三物五類」:言語や思想の変遷に関するいくつかの原則です。三物とは、①言に人あり、②言に世あり、③言に類ありの三つを指します。五類とは言語の相違転用のパターンを5つに分類したもので、張、泛、磯、反、転を挙げています。

 その4.「国有俗」:国に俗ありで、思想や信仰には文化風土や国民性が背景にあることを指摘したものです。仲基は「くせ」とも表現し、言葉には三物五類の諸条件があり、思想や教えが分かれます。さらに、国ごとに民俗・文化・風土の傾向があって、そのために説かれる思想・教えが異なっていく、ということです。

 その5.「誠の道」:どの文化圏や宗教においても共有されているもので、人がなすべき善を実践していく道を指します。「道の道」とも表現し、人が道として歩むべき真実の道だと仲基は考えました。

 1から4は、いずれも、現代の人文学研究において前提となるべき態度であると言えるでしょう。

 すでに18世紀の日本に、このような方法論を独自に構築していた人物がいたのです。

 仲基と言えば「大乗非仏説論」の先駆者として知られています。

 これは、大乗仏教の経典は釈迦が説いた教えではないとする説です。

 江戸時代の半ばにおいて、仏教の思想体系を根底から揺さぶる立論を、世界に先駆けて世に出したのです。

 しかもそれを独力で成し遂げたのですから、数多くの人たちが天才と評するのも無理はありません。

 大乗仏教が釈迦の説いた教えではないという議論は、インドでも古くから論じられてきたことです。

 ただ、仏典を思想史的に解明するという方法論をとったのは、やはり仲基が世界で初めてであると言えます。

 仲基が蒔いた種は、その後、国学者たちの仏教批判を生み出し、近代における大乗非仏説論争の源流となりました。

 哲学者の井上円了、宗教学者の姉崎正治、真宗僧侶の村上専精らによる近代知性と仏教学の展開によって、大乗非仏説問題は今日においてもしばしば俎上に載せられています。

 そして、今日の議論を通して考察しても、仲基の立論は色あせるものではなく、仲基の眼力がいかにすごかったかがわかります。

 最初は釈迦の直接説いた教えから始まったものが、文字化されずに口伝だったので、いろいろ加上や分派があって、阿含経典群が成立しました。

 さらにそこから、「法華経」、「大集経」「涅槃経」、「楞伽経=りょうがきょう」(禅宗)、最終的に密教経典群が生まれたと考えたのです。

 これは、おおよそ現代の研究結果と符合しています。

 他にも、「大乗仏典にも異なる系統がある」といった慧眼や、宗教聖典の権威性に足をすくわれることなく読みこんでいく姿勢や、文化という側面からアプローチするところなど、注目すべき点はいくつもあります。

 仲基は西洋近代の学術方法論を学んだわけでもないのに、独自の工夫で同様の方法論を編み出したのでした。

 それでは、ご一緒に富永仲基の思想をひもといてみましょう。

序 早すぎた天才/第1部 富永仲基とは何者だったのか/第2部 『出定後語』上巻を読む/第3部 『出定後語』下巻を読む/第4部 『翁の文』と『楽律考』/第5部 富永仲基はどう語られてきたか/近代への“道”






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Last updated  2020.11.07 07:30:37
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