「能代春慶」で軽快に歌われる秋田県は能代市に来た。ここを流れるのは米代川。ちょいと上流の藤里町で悲しい事件が以前にあったものの、僕はそのまた上流域で一昨年に鮎釣りをし、ちょいといい思いをさせてもらったことがある。今回の旅では、河口でのシーバス釣りを楽しもうと思う。
で、初めての道をカーナビ頼りに河口に向かうと、いつしかアスファルトがなくなり砂利道になり、またいつしか砂利がなくなり砂道になった。そこで僕の車は埋まった。

それ以上進むことも退くこともできなくなった。悲しい事件は、上流ばかりで発生するとは限らない。
保険屋のUさんに電話をすると、「人がいないような所で遊んでばかりいるからだ」と笑われた。シーバスは繁華街には生息しないので仕方ないが、車屋さんが来るにはずいぶんと殺風景な場所である。僕の標準語と秋田弁が、上手くかみ合うかも疑問である。
間もなく、地元の車屋さんは駆けつけてくれた。
「あいやー、こりゃだみだ。こんな道に入っちゃだみだ」と、厳しくも温かい言葉で注意された。
砂地から車を引っ張ると、「硬い道に車さ停めてぇ、しっかり釣ってなぁ。へばな」と、車屋さんは帰っていった。
ふと河口を見ると、米代川の1日は暮れかけていた。

近くにいた釣り人が話しかけてきた。彼は上流の阿仁町から来たとのこと。「山に住んでいると海が恋すくて」という彼から色々な情報を教えてもらったが、「いやぁ、ここのシーバスは気難すくてぇねぇ」と言う。
僕は、「ホント、箸にも棒にも引っかからないですね」と答えたが、砂地の中で箸にも棒にも引っかからなかった車の一件は、そっと伏せておいた。