コイケランド

コイケランド

PR

Profile

koike1970

koike1970

Calendar

2013.11.20
XML
カテゴリ: 文学
 確か高等学校三年の時であった。通学の電車内で同級生のS君が私にこう言った。「おじが芥川賞を取った。」

 それからしばらくして、父が私に本を一冊くれた。『ダイヤモンドダスト』。S君のおじである著者・南木佳士のサインが入っている。
 開くと写真が一枚あった。ダウンジャケットを着た野暮ったい感じの男の人が一人、川原に座っている。顔はS君にちょっと似ていた。
 そこから読み進めようとしたが、あまり面白くなかった。数ページ読んで、そのままにしてしまった。

 私は東京の学校へ入学していた。文学部であった。
 同級生S君も、同じ学校に入学していた。彼は教育学部であった。
 学部は違っていたが、時折遭遇することがあった。彼は体育会のスキー部に入っていて、いつも学ランを着ていた記憶がある。

 学校を卒業して、就職した頃のことだったと思う。
 実家に帰って父と話していると、S君の話題になった。「医者を目指してどこかの医学部に学士入学したらしいぞ」。S君のお父さんと私の父とは、知人なのである。


 『阿弥陀堂だより』。原作者が、南木佳士である。
 何だかとても懐かしい気分になり、映画館へ行った。とても面白かった。

 南木の著作を買って読んだ。どれも面白い。いや。面白い、と言うのではない。肌に合う、と言うのが良いのだろうか。
 『ダイヤモンドダスト』も、再読した。もちろん、全部読んだ。あぁ、これはこういうことだったのか。これじゃ、ティーンエイジャーにはわからないよな、などと感じたりした。

 南木の著作の中で、一冊だけ性質が異なる本がある。
 『信州に上医あり ―若月俊一と佐久病院―』岩波新書 1994。
 南木自身もこのあとがきで記している。「私が人物評伝を書くのはこれが最初で最後でしょう。」

 医者になったS君に、一度だけ再会した。出身高等学校の校友会の席だった。誘ったら、来てくれたのである。
 その時に直接話したのか、それともメールか何かで伝えたのか、はっきりと覚えていないが、「おじさんの本の中では『信州に上医あり』が一番だ」と言ったところ、「そこまで読む人は珍しいよ」と返答があった。

 『信州に上医あり』の中に、若月俊一『村で病気とたたかう』岩波新書 のことが出てくる。


 そこで、昨日である。神保町の古書店の店先で『村で病気とたたかう』を見つけた。1971年の初版である。嬉しかった。
 開くと写真が一枚ある。「病院の裏を流れる千曲川より浅間山を望む」と記されている。なるほど。そういうことか。

 ところで、S君は元気だろうか。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2013.11.20 12:07:02


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Favorite Blog

二輪車に関する私の… New! alex99さん

騙す、騙される まろ0301さん

Baucafe  … ばう犬さん
エデンの南 SEAL OF CAINさん
存生記 nostalgieさん
人生朝露 ぽえたりんさん
映画と出会う・世界… 哲0701さん
ricericericecocoa ricecocoaさん
姫君~家族 初月1467さん

Comments

コメントに書き込みはありません。

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: