2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
全26件 (26件中 1-26件目)
1
長くやっているからといって、そのことについてよく知っているとは、必ずしも限らない。しばしば、そのことを意味なく複雑化してみえにくくしているだけのことも・・・でも、そうだとあとからきて証明するのはけっこう力仕事だな。
2007年01月29日
コメント(1)
「太陽の秘密」は、ブログ冒頭の「タイチ」のいわば続編です。幼稚園から小学校のタイチが中3という設定です。時はとびますが、「マサ」と「マユ」は、タイチとリカの子供です。タイチは魔法使いであることをやめ?普通の社会人をしています。そこにでてくる「マコトおじさん」は、「太陽・・・」のマコトと同一人物です。今、用意しているのは、「片道切符(仮題)」というタイトルで、マサが高校生になったころ、タイチが再び魔法使いに復帰すると同時に失踪するという物語です。マサが、今まで自分の知らなかった父親タイチの別の顔を知るようになります。・・・・と考えてはいるけれども、そろそろファンタジ-もどき(いわゆるファンタジ-ではないことは自分でもわかってます)ではない、悪と欲望の世界も書いてみようかとも思っているところです。 フリ-ペ-ジ更新しました。
2007年01月28日
コメント(3)
44 リカが写真に撮ったと同時に、地震により崩壊してしまった壁画に書かれていた象形文字は、古代の魔法語と考えてまずまちがいないようであった。 タイチは、壁画の象形文字を解読していくと、壁画の文字群が一つの意味のある文章になっていることを確かめた。 この発見は、その後、タイチたち魔法使いたちに、画期的進歩をもたらすことになった。 なぜなら、魔法語を記載するさいに使う文字の本物が手に入ったことになるからである。タイチは、この壁画文字による「魔法語のアルファベット」を提唱し、それが魔法使いたち全体に採用されるに至ることになっていった。もちろん、それは、認知までしばらく、時間を要することであったが。 この物語のあとまもなく、タイチは中学校を卒業した。 卒業後、タイチは、正式な魔法使いになるための魔法資格試験に合格し、高校卒業後は、魔法学校の研究員、教師としての道を選んだ。 彼は、後に、いままで断片的に口伝しかされていなかった魔法語を体系化したことで、人々に名を知られるようになった。それは、文法や単語にはじまり、発音、イントネ-ション、さらに他言語との比較論におよんでいた。 その出発点になったのは、次のような、彼の魔法資格試験における論文試験に書かれた論文であった。(魔法の未来について) イマジネ-ションは自由に膨らむことができます。しかしその時、イマジネ-ションするその人間自身は、逆に、自由を失ってその場に拘束されてしまうのです。 夜中に寝ている間にみる夢は、夢をみている人の自由を残しますが、それは拘束されないという自由でしかありません。 論理は、イマジネ-ションに比べて、一見不自由であるようにみえます。しかし、論理の不自由さは、論理そのものに対してであり、一方で、論理は(それが正しいときは)論理する人の自由を完全に保証し、さらにはイマジネ-ションの自由も保証するものです。 しかし、問題なのは、しばしば貧しいイマジネ-ションが論理のような顔をして、人をしばり、自由なイマジネ-ションをもさまたげることがありがちなことです。 私が魔法の呪文を学んできたのは、母からです。 私のように、少数の人々が口伝えで魔法を断片的に学んでいく、というのが現在の魔法の修業の現実です。 魔法の呪文の音は、現在はけっして聞くことのできない<滅びてしまった>太古の言葉です。 一方、正確な発音、イントネ-ションが、魔法の呪文の成功には必要です。それらしい呪文は、魔法がかからないどころか、危険でさえあります。 このような現実を考えると、口伝えだけでない、きちっとした形での魔法語の保存というのが大切な仕事だと私は考えます。 まず、テ-プレコ-ダ-やビデオによる、現在ある呪文の、音声、口や喉の形の記録を行うこと。 次には、魔法語を表記する、アルファベットや五十音のような記号を考えること。 太古には、そのようなものがなかったのでしょうか?たとえ、もともとないのだとしても、我々はそれをつくらなければなりません。 さらに進んだ段階では、発音記号を考えたり、文法の研究をしたりすることも必要です。 今の、魔法の呪文がもつ問題点のひとつは、伝わっている魔法の繰り返ししかできないということです。 つまり、我々は、新しい呪文、いままで伝えられていないような呪文を、状況に応じて、つくりだすことができるのでしょうか?いつの日か、自由に、魔法の精と自由に会話できるようになれるのでしょうか? そのためにも、魔法語の研究、すなわち、日本語とか英語とかあるいはコンピューター言語に匹敵するような、<魔法語>の創造という大きな目標を我々はかかげるべきです。 その中心的役割は、やはり魔法学校が担うべきでしょう。 さてこのような大きな問題の他に、現代社会における魔法の位置付けについて、我々はもう少し考えてみるべきだと思います。 我々は、単に、使い道はないが古き良き物だからという理由だけで、絶やすことのないよう、魔法を勉強し、伝えていくのでしょうか? たとえば、我々の魔法で、目の前に<お金>を出現させることはできません。魔法語の研究が十分でない今だからできないのか?研究がすすめば可能になるのか?それとも、原理的にできないのか? つまり、魔法があみだされた太古には、貨幣とか市場経済という制度や考えそのものがなかったと考えられます。そのような考えを、魔法語で翻訳することはかなり難しいと思われます。 また、視点を変えて、現代社会において、<お金>に、欲しいものがすぐ手にはいるという魔法のような力を誰が与えたのか、というテ-マについて考えることも面白いかと思われます。 じつは、我々の魔法には、欲しい物をすぐその場で手にいれるという、<お金>のような手軽さはありません。例えば、天候を変える魔法一つとっても、真夏に雪を振らせることは不可能です。数日間かけて、自然の理をくずさないような展開が必要です。また、死んだ者を生き返らせるような超自然的なことも我々の魔法ではできません。 しかし、私は、我々の魔法は、人間の感情や豊かさと関わっているという点で意義をもつと考えます。 悲しい人、疲れた人、力をおとしている人に対して、やさしい言葉をかけるように、背中をポンと叩いて力づけるように、魔法は働くのです。癒やしのために魔法があるのです。欲しいものをすぐ手にいれるという魔法は存在しないし、それは本当の魔法ではありません。 お金とか力とか利益とは無関係なところから、現代における魔法は復権していくのです。 了
2007年01月27日
コメント(2)
43 何年かして、アイは獄中で一冊の詩集をかきあげた。 現実の街の貨幣に吸収されなかった、タイチたちが連れていた一体のコピヤは、この本に吸収されたのだった。 そのコピヤをつまみあげ、宙づりにする指のかわりに、いまや、おおくの指が、そのコピヤを一枚一枚めくるのだった。(魔法使いがいた街) 私が、あなたを追って、あなたのうまれ故郷までやってきたとき、何人かの人は、まだあなたのことを覚えていた。 彼らは私にこう言った。「あの人は、死んでしまったけれども、とても偉大な方でしたよ」 しかし、もはや、多くの人はあなたのことに注意をはらってないようにみえた。 私のところまで、あなたの噂が届くまでの時間、そして、噂をたよりに、こうして私があなたの街までやってくるまでの時間。その長い月日の間に、あなたの存在は、私の中でどんどん大きくなっていったのに、もはやあなたはこの世になく、あなたのことを語る人も数少なくなっていた。 いや、注意してみれば、あなたがつくりだした<蒸気>は、この街のいたるところに漂っていることを私は感じた。 もちろん、そこにあなたの名前は記されてはいなかった。 それを創り出した「ピストン」であるあなたはもうここにはいなかった。 蒸気機関をうしなった機関車は、どこへ向かうことができるというんだろう? 有り余るほどの蒸気があっても、ピストンがなければ、それが何になるというんだろう? それでも私は、水蒸気のように散らばって消え去ってしまう前に、せめて風になって、枯れ葉を空にむかって舞い上がらせてみよう、と思った。 そうやって、私が長い間かかってつくり上げてきた世界も、世界の外からやってきた、あるいは世界の中にひそんでいた<テロリスト>たちによってまた壊されてしまう運命だった。 ああ、かわいそうな<テロリスト>たちよ。あなたがたがはなつ、言葉やイメージや魔法の爆弾は、けっして人をあやめることなく爆発することもないだろう。 現実をかえる力はないだろう。 しかし、現実を変える力はなくても、現実の影を破壊する力は十分もちあわせているということを、わたしはうかつにも忘れていたのだ。 わたし自身もかつてそうやってわたしの世界をつくりあげていったというのに。
2007年01月26日
コメント(2)
第3章 古文書 41 タイチ、リカ、シュン、マコトの4人は、アイの幻想のつくりだした世界からの脱出に無事成功できた。 タイチとシュンは中学校へ、リカは大学へもどった。 マコトは、いままでの仕事をやめて、小さな雑貨屋をはじめた。それは、コンビニエンスストアとはちょっと違っていて、そう、アイの幻想の世界の中にあった、高架下でねずみの人形チューを売っていた店にそっくりの店で、やはり、高速道路の高架下にあった。もっとも、その高架は、途中で途切れることなく伸びていて、その上は常にたくさんの車が走っていたのだが。 タイチのママは長い眠りから覚めて、すっかり元気になった。 非常事態ということで集まった魔法使いたちも、もう解散し、それぞれの街に散っていった。これからは、夏まつりのころに開かれる、定期集会でお互い親交をむすぶことになるだろう。タイチもママと共に、その集会にこれから参加することになるだろう。 シュンの、<ミューを飼い慣らすもの>が書いた<魔法使いからの連絡本>には「太陽の秘密に関する最終報告書」というのが記されていた。 現代社会においては、魔法使いの存在を隠すことよりも、魔法使いがいるということを信じてもらうことのほうがはるかに難しいという現実をふまえて、その内容を紹介しようと思う。 42 その街は、人工衛星のように地球の周囲の軌道上にあって、エネルギーを供給されることで、地球の自転と逆むきに自転速度と同じ速度で動く、巨大な島あるいは宇宙ステーションのようなものだった。そういう状態なら、頭上に、常に太陽が静止して輝くのは理屈上当然のことだ。 そのエネルギーは、ひとつの工場から供給されるのでなく、街のあちこちにあった黄色い彼岸花が発生する光のエネルギーが供給源だった。つまり、その花が育つことが工場のかわりをしていた。 タイチ、リカ、シュン、マコトの4人と、チューたちにより、その花が街から消え、エネルギ-の供給がとだえて動くことができなくなったその街は、地球上に落下して太平洋上に着水した。 しかし、それは、今まで欠けていたパズルピースが陸地の隅に加わるという風にではなかった。 その街は、すでに地球上にある街に「吸収」された。 あたかも、体から離れた霊が、もとの体にもどるように。 街が落下すると同時に、街の各家にいたコピヤたちはその姿を変えた。 コピヤは各家の貨幣に「吸収」されたのだった。 しかし、4人と共に行動していた一体のコピヤだけは、落下と吸収の途中で、なにものかに体をつかまえられた。ふりかえると、それは、あの大きな指だった。ひとり、落下途中でとどまり、そのコピヤは、街や他の多くのコピヤたちの様子を眺めていた。 <沈まない太陽>、<人工太陽>は、ある意味、われわれの現実社会で現実に存在しているものだ。それは、絶対中性であり人間の道具である、貨幣のエネルギーにより動いている人工太陽だ。これこそが、際限のない人間の欲望、貧富の差をうみだしている。しかし、それは、すでに空気のように当たり前のもので、そこに住んでいるものたちが気づくことが難しい不可視の太陽だ。タイチたちのような、「外部」のものでなければ、その存在さえ気づくことができない。 しかし、この太陽も、永遠に沈まないということはありえまい。 それが沈むときに「外部」からくるものはいったいなんだろう?恐慌?天災?宇宙人?テロリスト?革命家?小説家、映画監督、画家、音楽家のような芸術家? はたまた<逆魔法>の使える魔法使い? そういう事態をおそれて、アイは魔法使いを眠らせるために、黄色い彼岸花から花粉をまきちらす工夫をしたと思われる。 タイチたちの行ったことは、ある意味コピヤの大量虐殺だった。 残虐な行為のようにも見えるが、幻想の世界でのコピヤの大量殺害は、現実の世界では、ある会社からお金が急になくなって倒産する、という風に反映されるのである。貨幣が擬人化されてコピヤとして実体化した幻想の世界では、ひどいことのように見えるが、現実では、ひとつの会社が倒産するという程度のものだ。そう罪の意識を感じる必要はない。 しかし、他殺ということについて、ひとつ確認しなければならないことがある。現実の他殺とは、結局<コピヤ>を殺すようにおこなわれる。殺される人は、殺す人にとって、殺人の一瞬においては<物>にほかならないからだ。動いているが、ヒトではなく、個性もない<コピヤ>殺し。決して、殺される人は<コピヤ>ではないのであるが。 実は、殺人(あるいは傷害)というのは、<他殺>の方法としては幼稚で単純なものだ。だから17才の少年でも思いつく。殺人者は、どんなにその計画性が巧みであっても、本人自身は幼稚なのだ。 <他殺>の方法は、殺人や傷害以外に様々な方法がある。恨み、そして復讐の物語は、時に我々の共感をよぶ。<他殺>について、善悪の尺度のみをもってすますことはできない。そして、他人に苦痛を最も与える方法が、殺人や傷害という方法だけというわけではない。 幼稚で単純な方法だけあって、殺人を試みても、(様々な報道や教本とは裏腹に)人は容易には死なない。病魔におかされた人の生命力には胸うたれるものがある。大量の睡眠薬服用後でも、ほとんどの場合、長い昏睡のあと何事もなかったかのように目覚める。手首の動脈を切っても、血圧の低下とともに、ふきだす血の勢いはゆるまり、自然に止血されてしまう。要するに、殺人をするためには、それなりの専門知識を要するのだ。特に日本では、非力な人でもてっとりばやく殺人を成功させる道具である、銃や毒物の入手は困難で、実際にはなかなか使えない。 ただ、一番の問題は、容易でなくても、時に、この幼稚な<他殺>の方法が成立してしまうことがあるということだ。 <太陽が沈まない街>を吸収したその街では、その日、次のような報道が流れていた。「有名某塾経営者であり教育評論家でもあった、クレヨン・コーポレーション代表取締役、XXアイ、40才女性が本日、麻薬所持にて逮捕されました。彼女は通称『サン』といわれる新種の麻薬を、自分の塾に通う子供たちやその親たちにひそかに配布していた容疑がもたれています。従来の麻薬と、その幻想、妄想の内容は少し違うようですが、常習性があり危険だということで、警察は逮捕にふみきりました。この麻薬は、クレヨン・コーポレーションが生産・販売して、大ヒット商品となっている、遺伝子操作によりつくられた黄色い彼岸花から抽出されるということで、政府は、この黄色い彼岸花の生産・販売を中止し、いまあるものをすべて廃棄処分にするよう命令をだしました。なお、容疑者は、これらの容疑を否定しております」
2007年01月25日
コメント(2)
40 タイチが、車から外へ這い出たときには、砂嵐はやんでいた。車そのものが、鉢植えのような状態になっていた。車内には、黄色い彼岸花が充満し、車の天井をつきやぶっていた。 人間のような目や耳や口や鼻といった穴をもたない、コピヤの体の中には、虫ははいりこめなかった。また、体を枝が貫くこともできなかった。しかし、コピヤの体は花にからみとられ、貼り付け状態のようになって動くことができなかった。 リカや、シュンや、マコトは?その姿は茂った花の中にとりこまれ確認できなかった。 車をおりると、タイチは、あらかじめ、もしものときのためにと用意してあった爆弾を、目の前にあった、巨大な樹の周囲にとりつけはじめた。 巨大な樹。人間の言葉をしゃべる動物たちがそこに住むあの樹だ。その周囲は、黄色い彼岸花でうめつくされ、実は、その樹そのものが巨大な彼岸花であった。遠く、見ることのできないそのてっぺんに咲いている巨大な黄色い花こそが、この街の<沈まない太陽>そのものなのかもしれない。 周囲の音はすべて消えていた。 音のない世界で、ひとり黙々と作業しながら、タイチは思った。(魔法だろうと、幻想だろうと、やさしい言葉だろうと・・・結局はやはり、こういう原始的な武器こそたよりになるわけだ) タイチは、爆発で巨大な樹を壊すことで、自分たちがもとの世界に戻れるとはかぎらないことはよくわかっていた。(でもやらねばならない) 突如、空に、大きな手の指が出現した。その指が上から、タイチをつかもうと攻撃しはじめた。奴が最後の邪魔のためにしかけた魔法だろう。 タイチはこのピンチに動じることなく、<逆魔法>の言葉を唱えながら、大きな手の指を無視して、爆弾のとりつけ作業を続けた。「イポスタ-ズ」 巨大な指は、タイチの体をつかもうとするが、むなしく、体をすりぬけ、空をきった。 どこからか、アイの声だろうか?声が聞こえてきた。「なぜ壊す?自分のため?人のため?別にいいじゃあないか?愛や人間関係だって、幻想だろう?」 タイチは答えた。「もしも、将来、ぼくとリカが結婚して、リカとの間に子供がうまれたら、ぼくは、子供たちにこう言おう。世の中におばけや魔法使いはちゃんといる。いないというのはあやまっている。正しきものと、安きものがいる、というのが本当だ。おばけや魔法使いなどいないと考えて、悪いおばけや魔法使いの手におちるのでなく、よいおばけや魔法使いの力で彼らから自分の身を守ることが大切だ」「なぜ壊す?自分のため?人のため?別にいいじゃあないか?その答えは一生かかってだすものだ。なぜあわてる必要があるのだ?」 タイチは答えた。「ぼくは、自分さがしの旅などするものか。他の人にもすすめないし、そんなありもしないまやかしの旅など信じない。もし自分に子供ができたら、その子供は、13歳で修行にだす。すでに旅してきた姿こそが自分なんだ」「なぜ壊す?自分のため?人のため?別にいいじゃあないか?止まった時間をうごかすということは、大人になり、悲しいことや毒にさらされ、とてもちっぽけな存在にもどることだ」 タイチは答えた。「そういう否定すべきあるいは肯定すべき、止まった時間の中にいる自分は頭の中にあるだけでどこにもいないものだ。それがどれほどのものであっても、実際には何もしてきていないし、これからも何もできない。それは、存在しない「虚像」なのだから。それに対し、事実上の真実の自分は、たとえそれがどれほど小さな存在だったとしても、実行力をもっている。それだけで、事実上の自分のほうが「虚像」より意味のある存在であるはずだ。存在しない虚像は、実際の自分をまどわしてるだけだ」「なぜ壊す?自分のため?人のため?別にいいじゃあないか?得るものはなにひとつないだろう?」 タイチは答えた。「ぼくが、爆破させるのは、真実のためだ」 とりつけが終わり、間髪をいれずに、タイチはスイッチをおした。 爆発成功。 爆発の威力は大きく、巨大な樹はもちろん、タイチ、そして、リカやマコトやコピヤが閉じ込められた車をもまきこんた。 しかし、さいわい、本当の爆発も、太陽が沈まないという幻想の街では人をあやめないのかもしれない。爆発音も聞こえなかった。 爆発による痛みは感じず、そのきらびやかな光の洪水の中に、ただタイチは立っていた。 そのとき、タイチがつぶやいていたのは、魔法の呪文ではなかった。「見よ、日がしずむ!」 そのタイチの横顔は、かつて工場の電力供給装置を破壊してその工場が太陽を動かしているわけではないことを証明したと、リカの発見した壁画に記されていた、タイチの父親の横顔と重なった。 タイチの視界の隅に、巨大な樹が、ミサイルのように大地をはなれ、頭上に輝く太陽にむかってとんでいくのがみえた。 それは、だんだん小さくなり・・・しばらくして・・・太陽が頭上で爆破された。 それとともに世界は回復へむかった。 静止した、路上の車や人、あるいは茶の間に置いてあるTVなどの白黒の映像。 それらは、まず動き出した。 それから少しずつ、それらの色や音ももどっていった。
2007年01月24日
コメント(0)
39「あと、残るはどのくらいの数だろう?」「わからない。でも、この街の黄色い彼岸花の半分以上は破壊できたと思う」「これからが正念場だ。ひとつ、ひとつ。あせらず、めんどうくさがらずに、最後まで、ひとつ、ひとつだ」 すると、マコトが運転する、4人の車の周囲の視界が序々に悪くなってきた。「ひどいな、これ」「砂だ」「気をつけろ。砂嵐になるかもしれない」 目の前に砂が風に舞い、突如、竜巻が出現し、4人にせまってきた。 マコトはハンドルをしっかりにぎりながら叫んだ。「だめだ。さけられない」 車が、砂の竜巻の中に正面からつっこんでいくとき、タイチは<逆魔法>の呪文を唱え続けた。周りは、あっという間に、激しい風に舞う砂の中につつまれた。 これも、アイのつくった幻想なのだろうか?車は、砂あらしの中をすすんでいる。嵐の中では、不思議なことに、車の振動も風の音も小さく、むしろ静寂といっていいくらいだった。 車の外には、砂でつくった部屋の中で暮らす、男と女の姿が映し出された。毎日、来る日も来る日も続く砂かきという単純作業に、スコップを動かす男の顔は、表情をなくし、疲れきっていた。そのうしろで、男の肩に手をかけ、男を力づけてるようにみえるのは裸の女だった。彼女は、とても慈悲深い顔をしている。しかし、その女の裸の体は、砂まみれだった。 理由もなく裁判にうったえられるように、理由なくわれわれは働かせられているのか? でも労働は自己実現の方法のひとつといえる。そして、もっと豊かな自己実現とは、いろいろな人と関わっていかなければならないとき、そのつどいろんな役割を演じている、多重人格性だ。われわれは、砂丘の中に住んでいるわけではない「気をつけろ、敵はかなりあせってきている。われわれの心に働きかけようとしている」 車の中に、窓ガラスのすきまから、いろんな虫がはいりこんできた。ゴキブリ、カトンボ、テントウムシ・・・。それらは、4人の体をはいまわり、耳や鼻の穴から体の中にはいりこもうとしていた。 シュンもリカもマコトも必死にその虫たちをはらいのけていたが、今度は、車の床から、無数の黄色い彼岸花がのびてきて、その緑の茎が、虫をはらいのけようとする彼らの手を押さえつけた。ついには、まるで、彼らの体からいくつも黄色い花がのびて咲いているみたいになっていった。「がんばれ、もう少しで、最終地点だ」 タイチは叫んだ。<逆魔法>を唱え続けるタイチの体にだけは、虫も花も手をだせないようだった。「タイチ、たのむわよ」 リカはそう叫ぶと同時に、車の中のほとんどを占めた、虫と花の中にのみこまれていった。
2007年01月23日
コメント(1)
38 久しぶりに、タイチ、シュン、リカ、マコトはそれぞれと顔をあわせたような気がしていた。コンサートが始まってからはそんなに時間はたっていないし、このあたりから遠くには決して出ていっていないのだけれど。 マコトが力強くいった。「どうやら、この街の地図がようやく完成したようだ」 アキが言った。「それで?例の工場を発見できたというの?」「いや」「じゃあ、もう少し、街の探検を続けないとね」「そうじゃあないんだ」 とマコトは静かに言った。「工場は、たぶんこの街のなかにはないんだ」「ない?」「ぼくもそう思う。ぼくもマコトと同じ考えだ」とシュンもうなずいた。「なによ、みんなして。私だけわからないじゃあないの?」「工場はないんだよ。分散してこの街のあちこちにちらばっているんだ」とマコトが説明した。「そんなものいままでみえなかったわ」「黄色い彼岸花だよ。この世界には、コピヤがどこの家にもいて、どこの家でも黄色い花に水をやっていただろう?その花、現実の世界にもあった、あの黄色い彼岸花と同じものだ。赤くなくて黄色いというものめずらしさと、長い間、枯れずにいきいきと咲いているので今爆発的に売れているものだ。その花を遺伝子操作の技術で開発したのがクレヨン・コ-ポレ-ションの子会社の「クローン研究所」で、その社長はアイだ。その黄色い彼岸花の発する光の波長と、この天井にとどまったまま沈まない太陽の光の波長は同じだと、さっきクローン研究所の研究員の双子が教えてくれた。おそらく、この半永久的に咲き続ける花から出る光のエネルギーが、街のいたるところから集まって、この街の沈まない太陽のエネルギーになっているんだ。中央にあるたったひとつの供給装置の工場によってエネルギーが供給されているのではないんだ」「じゃあ、どうやってこの太陽を壊すのよ。そんなたくさんの花、どうしようもないじゃあない」「不可能じゃあない。この街のすべてのあの黄色い花をひとつひとつなくしていくんだ。こわしても燃やしてもいい。気の遠くなるような作業かもしれないが不可能ではないだろう」 今度は、シュンが話した。「少し前に、<ミューを飼い慣らすもの>から、例の本をつかった通信で、連絡があった。現実の世界でおこっている、魔法使いたちだけがかかる原因不明の病気の原因がわかったということだ。黄色い彼岸花の花粉による一種のアレルギーだそうだ。半永久的に咲き続けるという反自然的な花のいかがわしさに彼らは前から疑いをもっていた。たとえ、それが遺伝子操作という科学的な方法で自然からの恵みをひきだしただけとしてもね。あの黄色い彼岸花には4つの遺伝子操作がほどこされていた。一つ目は、花の色を赤から黄色いものにかえる。二つ目には、その花を自ら光らせる。三つ目は、暑い夏の年でも涼しい夏の年でも、気温にかかわりなく9月の彼岸前後に花をつけるという彼岸花の中の時間遺伝子を操作して、半永久的に花がさくようにする。そして、四つ目として、花の花粉を、魔法使いの血にはたらきかけるようにする。正確にいえば、魔法使いの血をもつ共通の遺伝子とリンクして、その遺伝子をもつものだけがその病気を発症するようなしくみになっている。ミサイルのように特別な種だけ狙い撃ちする、あたらしい生物兵器だ。世界では、白人だけ感染するような生物兵器がイスラム過激派の手で開発中という話があるだろう?あれと同じだ」「しかし、それなら、ぼくも感染したっていいはずなのに」と、タイチはたずねた。「いや、今回の花粉は、遺伝子の関係上、両親とも魔法使いの親から生まれたものしか発症しないそうだ」 タイチは少し安堵し、少し感動しているようだった。 顔も知らない自分の父親は、魔法の使えない普通の人間だったんだ。そして、魔法使いのママと結婚したんだ。 やるべきことはもうあきらかだった。 4人は、車を走らせ、一軒一軒回って、黄色い彼岸花を回収していった。 それにより、<沈まない太陽>のエネルギーが低下し、その結果、この幻想で維持されている世界を支えるエネルギーは低下し、このアイのつくった世界から脱出することができるのだ。 さらには、黄色い彼岸花をなくすことで、それがばらまく花粉をなくし、タイチのママたちを永い眠りから目覚めさせることができるはずだ。 カレ-屋、ガソリンスタンド、雑貨屋・・・。住人に気づかれないように植木の黄色い彼岸花を盗むことはそう難しいことではなかった。数が多いだけで、難しい作業ではないような気がした。そして、壊す植木鉢の数がふえれば増えるほど、気のせいか、太陽が頭上から少しずつ移動しはじめたような気がした。 しかし、ものごとはそう簡単ではなかった。 黄色い彼岸花の世話をした、コピヤたちが4人を追ってきはじめたのだ。さらに、コピヤたちは、4人の花の破壊作業に激しい抵抗をはじめた。 おとなしかった彼らが、ウソのように攻撃をしかけてきた。 コピヤとの戦いが始まったのだった。 あまりにも、彼らは中性すぎた。みずからに意思がなく、所有者により善にでも悪にでもどうにでも変わる。 最初に出会ったとき、コピヤは黄色い彼岸花を世話するだけの、平和なコピヤであった。いまや、コピヤは、戦いをしかけてくる戦闘集団であった。コピヤの集団が、車をおいかけてくる姿は、ぞっとするものだった。 黄色い彼岸花の破壊作業はだんだん難しくなっていった。 最近のタイチの働きぶりは、リカがタイチをこわいとすら思うほどだった。タイチの性格そのものが変わってしまったような気さえした。すべての鳥をドラゴンにかえ、虫たちを戦車にかえ、カーテンを妖怪にかえ、タイチは<コピヤ狩り>をおこなっていった。許される戦争ははたしてあるのだろうか?しかし、リカはタイチに、戦いをやめろとはとうとういえなかった。 コピヤは死ぬときに血は流さない。少し、涙のような、水が体から流れるだけだ。 タイチは、戦いの最中に一度リカに語った。「誰でもお金持ちになれるわけでも、強かったり賢かったり美しかったりするわけではない。でも、誰でも勇敢になることはできる。たとえ、勇敢になることは学校では決してならわないとしても。そして、今が、そのときなんだ」 奇妙なことに、記憶を失ったタイチたちのコピヤは、タイチたちと共にコピヤと戦った。この戦いに、この街の住民の中からも味方があらわれた。マコトがトンネルで車に乗せたことのある2人の若者も、自分たちの時間をとりもどし、本来の死をむかえるために戦いに参加した。 とくに目立った働きをしたのは、けっこうこの街に長く住みついていた<超人整体師>ケンと呼ばれる者だった。彼はこの街に住んでいるうちに身につけた力で、防波堤を(イメージで)つくりコピヤをせき止め、そこにたまったコピヤを(イメージの)掃除機で次々と吸い取っていった。 そして、ネズミの人形のチュ-。彼らがタイチのママに教えられた魔法は、この<沈まない太陽>の世界では封じこめられていたのであったが、その封じ込める力がおちるにつれて、チューたちの力が逆に大きくなってきた。 彼らは、コピヤを倒し、幻想を食い破ることができるのであった。
2007年01月22日
コメント(2)
37 タイチは、アイに手をにぎられて、彼らの歌を聞き入っていた。『いつでもここからでていけるのだけれども、けっしてここからでることはないだろう』 そのタイチにリカが声をかけた。「タイチ、わたしよ」 シュンもマコトもその会場に到着していた。「どうしたんだ、タイチ。おれだよ、おれ」「タイチ君。聞いてくれ。この街の秘密がわかったんだ」 タイチは、友達の声に、ぼんやりした目で反応した。(しばらくの間、ぼくはアイ以外のものをみていたことがあったっけ?) タイチは、上に光り輝く太陽をみあげた。(忘れていた。太陽は、それに動かされることはあっても、動かすものじゃないんだった。ぼくは、友達とこの街にきた目的をやりとげなければならない)「タイチ、<逆魔法>よ。忘れたの?」 タイチは、アイと二人になって以来、この言葉を口にすることさえできなかったのだった。 タイチは呪縛から解き放たれたように叫んだ。「イポスタ-ズ」 地面は、石畳にかわり、4人のまわりには、大理石の壁、ベンチなどがあった。清潔で落ち着いた雰囲気だ。水の音が聞こえた。大きな、やはり大理石でできた泉があり、その横に、1本の巨大な樹があった。その樹の上には様々な動物がいた。枝の上をリスやキツネやタヌキが動き回り、ヘビがにょろにょろと動いていた。リスは、枝の上でお互いの悪口をいいあい、それをねらうヘビは、なにやら独り言をいっていた。そして、樹の上空をとびまわるワシは、気をつけろ、気をつけろ、とリスに話しかけていた。動物たちは、人間の言葉をしゃべっていた。正確に、その樹の頂上ははっきりしない。そのくらい巨大な樹だ。「やはり、ここはあの建物の中なんだ」 シュンは叫んだ。 リカはタイチをしっかり抱きしめていた。 最初は、リカがタイチの唇をうばうように、やがて、夢から醒めたかのように、タイチもそれに応えるように強く。二人は長く強く、抱き合いキスをかわした。 抱き合うこと、キスすること・・・それは、われわれのものとなり得たり、われわれ自身になりえたりするものとの戯れではなく、それとは他の何ものか・・・常に他であり、近づき得ず、知ってはいない何ものかとの戯れである。「把握すること」「所有すること」もしくは「認識すること」と似てはいても、こうしたことにありがちな挫折は、けっしておこりえない。 ようやく、4人が再び集まった。 アイの姿はもうそこになかった。
2007年01月21日
コメント(3)
36 シュンは、万華鏡の形をした建物のそばにある人工ダムによってつくられた池のほとりにいた。 池のほとりに、看板があって、伝説によると、その池には底がないとか、ある湖につながっているとか、竜宮につながっているとかいろいろ言われてきたとのことだった。しかし、今目の前にある池は、頭の上から一向に降りてこようとしない太陽の光が水面に反射する、ただの小さな池だった。 と、急に、雲があらわれた。入道雲のようだ。 あたりは暗くなり、にわか雨がふりだした。通り雨。熱いからだにはありがたかった。 ひとり、大きな木の下で雨やどりしていると、シュンのとなりに、二本足で歩く、カエルがたっていた。背の高さは、シュンくらい。「タイチ?」 カエルはそれには答えず、シュンに話しかけるともなく、つぶやいた。「この池は、本当は、海につながっている。」「もとの世界につながっているという意味か?」「人間になる魔法はむずかしい。」 カエルはシュンをみつめた。シュンは、雨がそのカエルにあたって生じた微妙な変化をみのがさなかった。一瞬、カエルの耳が小さなカエルに見えたのだった。 シュンは、そのカエルの両耳に手をのばし、その小さなカエルを2匹手でつかんだ。 と・・・全体のカエルの形はくずれさり、無数のカエルに姿を変えて、それらは次々と池に飛びこんでいった。 カエルはさらにホタルに姿を変え、シュンのまわりを飛びまわりささやいた。「孤独には二種類ある。一つは、精神的苦痛に伴う孤独だ。これは例えば『無に対する不安』とでもいえるような、内面からうまれる喜劇的な孤独だ。もう一つは、肉体的苦痛に伴う孤独だ。これは、病気、疲労、飢えなどの悲劇的な孤独だ。前者に対しては、もったいぶった態度をとることもできれば、笑ってすますこともできる。いわば、個人の感受性にまかされた、自由な孤独だ。一方、後者は、そこから離脱することが不可能な孤独だ。 ここで、孤独という言葉を夢という言葉でおきかえてもいい。前者の夢とは、なにか、宝物を欲しいと思う楽しい夢だ。後者の夢とは、そういう宝物の夢を見ることを忘れるほど寒く飢えた状況で、暖かい火と熱い料理とやわらかいふとんの夢をみることだ。まだ若い君たちの大部分の人にとって、問題になっている<孤独>や<夢>とは、前者に他ならない」 カエルがすべて池の飛びこみ終える最後に、大きなおにぎりが突如上からふってきて、池ほとんどをしめるような直径の巨大な水柱があがった。大きな声がした。「ふたたび会場へもどれ。君の孤独をいやし、夢の実現を手伝ってくれる、うまれてはじめて出会った友人がそこにいるだろう?コンサ-トの演奏の音を手がかりにそれをたどっていけばそこにもどることができる。彼だってそこで君を待っている」 雨が降っていたのがウソのように、真夏の太陽がまた照りつけはじめた。
2007年01月20日
コメント(1)
35 建物の最上階からでも、下の方で、なにかおかしなことが起きているようなのは、眺めているだけでもなんとなくわかった。 コピヤは、マコトの事務所から外へでようとドアのノブをまわした。しかし、開かない。『外』から鍵がかけられているのだ。部屋の外へ出られないのだ。 ドアがあかないし、なによりマコトがその部屋から出ようとしなかった。 そのとき、ドアがノックする音がした。コピヤは、どなった。「どうぞ!」ドアが開いた。 この扉は、内側からはあかないが、外側からはあくんだ。ありがとう。 目の前に、二人の女性が立っていた。二人はどちらがどちらかわからない双子だった。 双子の女性は、自分たちは、この事務所のとなりにある、『クロ-ン研究所』というところの社員だと言った。バイオテクノロジ-でクロ-ン動物・植物を開発している。やはりクレヨン・コーポレーションの子会社だ。「あの、黄色い彼岸花も、アイ様の命令で、この研究所で開発したものよ」と、双子は自慢げに言った。 コピヤは、彼女たちに思いついたことを言った。「でも、あなたたち双子は、神様のつくったクロ-ンだね」「あら、素敵なことをいうコピヤね」「なんか嬉しいわ」 双子はコピヤの言葉が嬉しかったようだった。言葉が饒舌になった。「わたしたち、少しこの街のコピヤの研究も行っているのよ」「コピヤもクロ-ンといえばクロ-ンかもしれないけど、ちょっと違うの。それは、単に、同じというだけ。つまり、人形が同じというのとのと同じ。私たちがクロ-ンというときは細胞とその中の遺伝子が同じという意味よ。だから細胞のないコピヤはクローンではないわ」 そして、思いもかけず、コピヤに関する様々な情報を双子は話した。 コピヤの最初の製作者は不明。製造工場や修理工場はない。なぜならコピヤは決して壊れないから。 せいぜいコピヤのクリーニング工場があるくらいだ。 コピヤはおそらく、この街の<人工太陽>と共に、突然、必要な数だけ誕生したものなのだろう。 この街では、貨幣を支払うかわりに、自分が所有するコピヤが直接働いてその商品を作ることで欲しい商品が手にはいる。所有者が欲しい料理はコピヤが調理し、欲しい家はコピヤが建てる。 コピヤは働き者で疲れることをしらない。 だから、各人あるいは各家に一体コピヤがあればすべての用をたすには十分であり、それだけの数のコピヤは十分この街にいる。しかし、なかには、一体でも多くコピヤを所有しようとやっきになる人間も少なからずいる。その結果、彼らの間で、コピヤの奪い合いでけんかや戦争がおこったりするときもある。 ある人は、うまくコピヤを自分の家で自己増殖させることで、けんかや戦争することなしで、コピヤを増やす技をもつ。 いずれにせよ、彼らはコピヤを一体以上欲しくてたまらないのだ。何体もあることで、どんないいことがあるのかは、はっきりしないのであるが。 さて、もうひとつのコピヤの習性は、所有者のために働いていない時間、ここのクローン研究所で開発した黄色い彼岸花に水をやることである。なぜそういう習性をコピヤがもつのかはまだわかってない。 ただ、この黄色い彼岸花は、コピヤが水をやったりしてお世話をするかぎり、ずっと枯れることなく咲き続ける。あと、この黄色い花は、単に太陽の光を反射・吸収するのでなく、自らの力で光っている。ホタルや電気うなぎのように、自ら光かがやく花だ。そのメカニズムについてはまだ研究中だが、その光の周波数は、<人工太陽>の光と同じだということまでは今までの研究でわかっている。 話をここまで聞いたところで、マコトが突然大きな声で叫んだ。「わかったぞ。この街の秘密が。コピヤの意味も。<沈まない太陽>の秘密も。<人工太陽>を動かす工場がどこかにあると思い込んでいたのがいけなかったんだ。これで、すべて解決だ。工場がみつからなくても、完成した街の地図がきっと役に立つ。タイチやシュンやアキに、教えてやらなくちゃ」 それと同時に、マコトの心に何か大きな変化が起こったようだった。「もう、おれは、心を悲しく暗く貧しくすることで、自分をよくみようとする努力をやめにする。小説家志望?もうやめだ、やめだ。なぜならもう、現実というものがわかったからな。現実とは、つまり、人間には男と女がいて、最初は人間に1番大切といわれる夢とか愛とか定かでないもので結ばれて、女はそれを育て、男はそれを忘れていき・・・もちろん、それがない生活だって悪くない。そういうことだろう?それに、悲しいものを悲しく書くことなんて誰でも書けるだろう?それは自分のために書いているんだから。自分のさびしさ悲しさをわかってくださいって書くんだから。でもそんなものを人様にみせるなんて傲慢じゃない?自分自身では、まだ、なにひとつ悲しさを乗り越えられていないというのに・・・。やっと、ふっきれた。さあ、コピヤ、一緒にコンサート会場へおりていこう!扉は、もう開いているじゃあないか!タイチたちがきっとぼくらを待っている」 人は自己改革を実現するとき、その成長のほんの一部だけが、職場や家族の前でおこり、大部分はひとりでいるときにおこる。それも、一晩のうちにおこるのではない。職場をさぼって、車で旅にでて、魔法使いたちとつまらない冒険にでて問題を解決するまで、くらいの長い時間がかかったりする。 でも、大人になってからでも、自己改革ってその気になればできるんだ
2007年01月19日
コメント(2)
34 リカはいつのまにか、車で走ってきた川沿いの道をひとり歩いていた。太陽は相変わらず、頭の真上にある。気温は高いが、夏の暑さとまではまだいかない。 人気がない空間・時間をカエルの声がうめていた。歩いているうちに、アキに昔の記憶がよみがえってきた。それは、アキたちが、新しく壁画をみつけた川沿いの洞窟だ。 その洞窟は、集中豪雨により発生した土石流が川沿いのきりたった崖をえぐることで、その入り口を現した。平地から十メ-トルほど上のところに、家の小窓ほどの入り口がぽっかり開いていた。土石流の運んできたおおきな岩を階段のようにつたいながら、そこにたどりつくことができた。 外界に露出した入り口から洞窟にはいると、巾二メ-トル、高さ二メ-トルくらいの、歩くにはちょうどいい通路が奥へとつながっていた。問題の壁画は、入り口から五十メ-トルくらいはいったところにある二十畳ほどの小部屋の中にあった。ここで行き止まりになっていた。 その壁画は、絵というより象形文字のようだった。 リカのカメラが何度も洞窟内を照らした。それは漢字でもなければ、今までどこの国で発見されたことのある文字とも異なる。奇妙な象形文字は、壁一面、字数にすれば四千字程のものであった。 これは、日本どころか、世界的な発見かもしれない。 そのとき、リカは自分の体が揺れるのを感じた。 緊張と感動のためではない。地震だ。 リカは入り口の方にもどり始める。よかった、揺れがおさまった・・・。と思った途端、最初とは比較にならないほどの強い揺れがはじまった。 洞窟の入り口から地面に続く、岩でつくられた十メ-トル程の足場が崩れ始めた。 リカは、岩といっしょに下の川へとすべり落ちていった。 そのとき、遠くから、考古学者の父親の声が聞こえた。あの、物を壊してばかりいて、母親から愛想をつかされた乱暴者の父親の声だった。「いいか、奴の言うことにふりまわされちゃあいけないぞ。現実の幻想と幻想の現実、あるいは現実の象徴と象徴の現実の区別をきちっとみきわめるんだ。わかったら、今すぐ、もとの万華鏡の建物の方へひきかえすんだ。そこで、タイチ君は、おまえを待っている」 いわれるまでもなく、リカはすでに気づいていた。いまや、リカにとって、タイチがどんなにかけがえのない存在かということを。
2007年01月18日
コメント(1)
33 アイはタイチの手をどんどんひっぱって、ひとごみをぬけていった。 まわりに、人がいなくなるところまでいくと、アイは手をはなし、今度は、タイチの目をじっとみつめて言った。「映画をみにいこう」「映画館なんて、このそばには、ないだろう?」「あそこにあるのよ」 確かに、少しむこうに映画館らしきものがある。確か、今、流行っている、有名な監督のアニメ作品の看板がみえる。(それもよかろう) 映画を見に行くのは久しぶりでもあった。リカやシュンのことが一瞬、頭をよぎったが、まあいいさ、という気分であった。 その、アニメ映画に、タイチは夢中になった。特に、城の中の部屋に、光輝く宝石が無造作に散らかっているシ-ンにはぐっときた。 あれは記憶の部屋だ。 自分は、アイと始めて会ったのでなく、再会したのかもしれない。思い出すことのなかった記憶がよみがえってきていた。それが宝石のようだった、とまではまだ判然としないが。 タイチがスクリ-ンに熱中しているうちに、となりからアイの姿は消えていた。 最後までその作品をみて、映画館を出たとき、タイチは一人だった。タイチは、アイがどこにいったのかと、必死であちこち探し回った。すごく大切なものを失ったような、心細さを感じた。そして、ようやく、ある喫茶店でコ-ヒ-をひとり飲んでいるアイをみつけだした。「この人、つきあいはじめて、3ヶ月になるというのに、全然、私を抱こうとしないのよ」目の前にいる喫茶店の女性オ-ナ-にむかって、アイはこう言うと、タイチのほうをちらりと盗み見た。「私、魅力ないのかしら?それとも、彼、わたしのこと嫌っているのかしら?わたし、彼のことをあやつろうなんてこれっぽっちも思っていないのに」「私には、彼、あなたのこと大好きのようにみえるけど。そうでなければわざわざ探しにこないわよね。ただ、男の人によくあることなんだけど、いさぎよくそういう自分をみとめたくないだけ。ねえ、そうでしょう?」 そうでしょう?といわれても・・・タイチは苦笑いするしかなかった。タイチは黙っていた。抗議もしなければ、自分の意見をのべるというようなこともしなかった。タイチは、何も考えずに、そうだろうか?と、考えてはじめた・・・と同時に、タイチは急に言葉を失った。 なにかしゃべろうとしても言葉がでてこない。誰かに口をおさえられているような感覚。そして、タイチの頭の中では、アイの「あなたはわかってない」という文句が、追い打ちをかけるように繰り返された。 わたしの気持ちをわかってない。人の気持ちをわかってない。自分のことをわかってない。世の中というものをわかってない。言葉というものをわかってない。生きるということをわかってない。ひとつひとつ、彼女はタイチの発する言葉は反証していった。そしてタイチは完全にしゃべれなくなった。 彼女に向かってしゃべりたくなかったわけではない。しかし、そのとき、タイチには彼女しかいなかった。残りのすべて。両親、友人、世の中すべてからタイチは引き離され、ただ一人彼女の前にいた。もし神からお前の言うことはすべて間違っているから何もしゃべるな、と言われたとしたら、その神にむかって何がしゃべれるというのだろう。 タイチの頭は、まるで初期化されたコンピュ-タ-のメモリ-だった。 たいへんだ、たいへんだ、とカウンターの上のポットに咲く草がひそひそとざわめいた。
2007年01月17日
コメント(2)
32 コンサートがはじまった。 演奏者が最初にメッセージをステージから送った・「みなさん、いつもぼくらの演奏をみにきてくれてありがとう!今日もみんなのためにうたうぜ、ベイビー!そして、アイさん。アイさんのために今日もうたうぜ、マイ・ゴッド!」 演奏がはじまった。『いつでもここからでていけるのだけれども、けっしてここからでることはないだろう』 正面のステ-ジには誰も演奏するものがいなかった。ギタ-やキ-ボ-ドはおろか、マイクもなかった。ただ、中央に1台スピーカーがおいてあって、そのわきに、パソコンが置かれていた。 ただひとり、最初のあいさつをした者が、パソコンの画面にむかい、キーボードをたたいていた。つぎつぎプリントアウトされてきた<紙>を、彼は、ステージ中央のスピーカーのところにもっていった。 スピーカーは口をあけて、その<紙>を食べた。すると大音量の演奏がそのスピーカーから流れ出した。 観客たちは、歌にあわせて、チケットをにぎりしめ演奏するふりをしていた。つまり、エア-ギタ-、エア-ピアノ、エア-ボ-カルなどである。彼ら観客の目にうつるステ-ジには、彼ら自身が参加していて、彼らの耳には、彼ら自身が奏でる音が聞こえていた。 その結果、その1つのコンサ-トは、10000人とおりの相異なるコンサ-トをつくりだしていた。 コンサート会場にいる全員が歌っていた。しかし、悲しくもなければ嬉しくもない、中性的な、まるで全員がコピヤになったようにみえたコンサートだった。『ぼくらの耳には、聞こえない。わたしほどあなたを愛している者はいないのだから、もどってきて、という声が』 いつのまにか、アイとタイチと手をつないでいた。 リカの頭に血がのぼった。二人に近づいて、その手を離させようと思った。しかし、人に邪魔されて、近づけない。あせればあせるほど、リカは、アイとタイチから遠ざかり、ついにはリカは二人を見失なってしまった。 シュンも、アイとタイチからだんだん遠ざかっていった。彼はリカよりももう少し冷静だった。単に、沢山集まって、混みあっているせいで邪魔されているのではないということにすぐ気がついた。あべこべなのだ。近づこうとすると遠ざかり、遠ざかろうとすると近づく。右にいけば左に、左にいこうとすれば右に。(自分の視界が、自分と向かい側にあり、180度自分の目の方向と逆の向きから映すカメラのようにみえているんだ) 理屈はわかっても、実際に、そのあべこべの視界で、自分の目的物に近づこうとすることは至難のわざだった。(これも奴のワナなのか?) 結局、シュンもアイとタイチを見失なってしまった。そばには、リカもなく、気がつくと一人になっていた。 4人は、結局、ばらばらになってしまった。 コピヤは、ばらばらになってひとりでいる時に妄想し自らの力をつける。一方、人間は、ばらばらになったり、人から無関心にされたりすると力を失ってくるということを、アイは知っているのだろう。
2007年01月16日
コメント(1)
31 建物の最上階にあるマコトが昔働いていたという部屋からは、アイの講演会のために集まった人々の様子がよく見えた。けっこうな人だ。10000人くらいはいるだろうか?遠すぎて、タイチやシュンやリカの姿はとても確認できない。 高いところから見ると、人の頭が黒点で、その点描写でひとつの絵が描かれているかのように見えた。 じっと見ていると、その絵の一部が動きはじめ、ある隅の一部に点の集中がはじまった。水たまりの上に、筆から一滴、墨汁か絵の具を落としたときに、それに向かっていく渦巻きのような動きがおこった。 スピーカーのアナウンスがはいった。「コンサートの前に小さな奇跡が起こりました。皆さん、押しあわないように。そしてその事実をここに集まったみなさんに知ってもらうためにお知らせします。この講演会場のまわりには、多くの、小さな屋台がでています。軽い食べ物や飲み物、パンフレットを売っている店のほかに、絵や装飾品を売っているところもあります。また、楽器を演奏している人などもいるのはみなさんごぞんじのとおりです。 その中で、みすぼらしい身なりで、目の前に、なにやら紙の束を積み上げてそれを売っている店で奇跡がおこりました。 そこでは、ある男の人が、自分の書いた詩集を一冊100円で売っていました。しかしそれは、印刷され製本されたものではなく、小さな子供が遊びでつくるように、紙をはさみなどで切りそろえホッチキスで止めたものでした。お金をだしてでも、自分の本をよんでもらいたい人がいるというのに、はたしてそんな本が売れるのでしょうか? ところが、売れるはずがないと、その方が眠り込んでいるうちに、本が一冊のこらずなくなり、百円玉の山ができていたのです。『おれって、本当は才能があるのだろうか?』 買った人々も驚いきました。『もしこれが、まだ書かれていない、あの有名なシリ-ズの本の最終巻と同じ内容であったとしても、そうでなかったとしても…まちがいなく傑作だ』」 集まった人々の拍手とどよめきが、遠くで鳴り響く雷の音のように、最上階にいるシュンとコピヤの耳にも届いた。
2007年01月15日
コメント(1)
30 翌朝、4人はアイの館を車で出発した。彼女の案内で、コンサート会場へ、車で行くことにした。 昨晩、タイチとシュンは、アイの館をもう1度くまなく調べた(シュンは壁抜けの魔法も使った)が、太陽を動かす装置のようなものは何ひとつみつからなかった。工場は別の場所にあるに違いない。 そうだとすれば、このアイのあとをついていってみるしかない。 それに、もうひとつ。リカが雑貨屋で買い、ときどきコピヤにかみついていた人形のチュ-が一晩の間に行方不明になっていた。チューはどこかへいってしまったのか?もしかしたら、アイや、あるいはアイがここに集めていたあの庭にいたコピヤたちのせいかもしれない、とコピヤは直感していた。 車は細い川にそって山道を登っていった。 アイが加わって、車の席がえとなった。 運転手のマコト。アイが助手席。後ろが、リカ、シュン、タイチ。かわいそうに、コピヤはついにトランク行きとなった。 しかし、車の中はアイが加わったことでずいぶんにぎやかになった。アイとタイチは席の前後でよくしゃべった。 昨夜の4人のうちあわせでは、アイを油断させるため、できるだけアイと仲良くすることになっていて、タイチは忠実にそれを実行していただけのことだった。 しかし、リカは不機嫌だった。(魔法使いは魔法使い同士でないとわからないことがあるの)という、昨日のアイの言葉が、心にやきついて離れないでいた。 やがて、4人の目の前にあらわれたその建物は、万華鏡のような、三角柱の形をしていた。つまり、タイチたちが最初に訪れた、クレヨン・コ-ポレ-ションの入っている建物そのものであった。 建物近くには、大きな池があり、それがせきとめられ、そのコンクリ-トのダムの一部から水が、今われわれがたどってきた道に沿って流れる川に続いていた。山の中にもかかわらず、そこは池をふくめかなり広い平地になっていた。そこがコンサ-ト会場だった。 人々がたくさん集まり始め、交通整理の人が駐車場に車を誘導しなければならないくらいだった。 会場につくと、マコトは、ちょっと用事があるから、と断って、皆からひとり離れた。コピヤは、マコトのあとをおった。途中、マコトはコピヤに気づいて言った。「おまえか?ついてくるならついておいで」 彼は、コンサート会場のすぐ横にある、万華鏡の形をした建物の最上階にあるフロアの一室へ一人むかった。 彼は部屋の中に入ると、コピヤに言った。「しばらくぼくはここで働いていたんだ。星を観察する天文台だ。でも、<沈まない太陽>のせいで夜がなくなって、ぼくは仕事を失った。星がでなくなったからね」 そして、彼は、自分のことを語り始めた。「ぼくが大学を出てから、最初にした仕事は、異国の街のガイドだった。その国は、銃の所持は禁止されているし、殺人事件がおこれば新聞に大きくとりあげられるくらいだから、ニューヨークほど野蛮ではない。でも盗みは多かった。すり、かっぱらいが観光地にいるというのはありがちのこと。さらに、会社の中や、公共駐車場など生活の場でも、日常的に盗難があった。例えば、勤務していたとき、会社のロッカーの中においておいた冬物のオーバーを盗まれた。そのとき、ロッカーには、替わりに臭いうすいセーターがかかっていたからびっくり。替わりに使えというのだろうか?ばかにした話さ。車のカーステレオやラジオを盗む組織的な盗難団がいるみたいで、みんな、車の外にでるときはそれらをもって降りるんだ。フロントガラスもよくわられているのをみかけた。それと、ストライキの激しさには驚かされた。ストライキの回数が多いことは聞いたことがあるかもしれない。でも、決まって、デモ行進のコ-スにある、ショーウィンドウが割られたり、店のものが盗まれたり、車が燃やされたりすることはご存知ないでしょう?コースにあたるところの店は、シャッターを下ろして、戦々恐々です。もちろん車も遠くに移動させます。 喫茶店は待ち合わせや会話の場所のためだけに使われるのではない。コーヒー一杯あるいはビール一杯で、一日そこでぼんやりすごし、夕方になると、ひとり暮らしのアパートへと戻っていく老人の姿はめずらしくなかった。そんな異国の街をぼくはもちろん気に入っていたんだ。ガイドの仕事の合間には美術館めぐり。そして、あとは、一冊の本をくりかえし読んでいた。はじめてぼくがその異国の街にいったとき、ぼくのガイドをしてくれた人がいて、その人は精神科医だったんだ。なんでもそこに精神分析の勉強をしに来たとか。読んでいたのは、その彼の書いた論文。『沈黙』療法について。『沈黙』することで精神病者の心をひらくという内容のものだった。おかしいよね。なにもしないのが治療なんて。沈黙するだけなら、犬でも花でもできることじゃないか?異国の地で勉強しすぎて頭がおかしくなってしまったのだろうか?それに、ぼくのガイドをしたときの彼のしゃべることしゃべること。『沈黙』療法の論文が手元に届いたとき、おもわず大笑いしたよ。 いつもと違って、ぼくが少ししゃべり過ぎている?心配無用。いまじゃ手遅れなんだ。そして、これからずっと先だって手遅れなんだ。ありがたいことに」 そして、マコトは、その後黙り込み、いつまでも窓から外の方をぼんやり眺めていた。
2007年01月14日
コメント(2)
29 コピヤが部屋にもどると、部屋は、もう静まりかえっていた。カーテンは開けられ、外から強い太陽の日差しがそそいでいた。 リカとアイのふたりが話をしていた。コピヤは、部屋の外からそっと聞き耳をたてた。「なぜ、あなたは、自分がクレヨン・コ-ポレ-ションの社長のアイということを認めないの?」「あら、わたし、そうでないなんていってないわよ」「そのアイは、自分に似た、別のアイだっていっていたじゃないの」「あなた、クレヨンのお話を理解できたところをみると、頭よさそうね。ごほうびに、もうひとつ謎解きよ。今度は万華鏡の話」「話をそらさないで」「万華鏡。その意味するものは大切よ。人は自分のことを、他人を鏡にしてはじめてそこに映しだすことができる。他人という鏡にうつされなければ、その人はただの、石ころや木のように、そこに<いる>だけの<もの>にすぎないわ。そして、鏡はひとつでなく、無数にあるのよ。だから1枚の鏡でなく、万華鏡というのが大切になるの。・・・クレヨン・コ-ポレ-ションの社長のアイも、塾講師のアイも、ホテルのオ-ナ-のアイも、同じにみえるけど実は別々なの」 しばらく考えてから、リカはゆっくり答えた。「あなたのいう中で、鏡が1枚しかないというのは悲劇を産みがちだというのはわかるわ。たとえば、タイチが、同級生や社会からいじめられたと感じたのは、タイチが二つの鏡しかもっていなかったことが原因だわ。タイチに魔法を教えるママと、タイチのことを引っ込み思案で「うそつき」と評する同級生とのふたつだけしか鏡がなかった。自殺するような子たちは、たいてい自分を映す鏡の数が少ないわ。いい子を強いる親と、意地悪をする友達しかいないとか。生きていくうちに、鏡は無数にあることにきづく。それは、万華鏡のように無限にある。若いうちはそのことがわからないんだけど」「そのとおりよ。もう少しいえば、もっと年をとってくると、鏡にうつすのをいつかやめ、一番自分に都合のいい鏡で、自分の像を固定化しはじめるの。そしてその像をまもる壁を造りはじめる。その壁は外敵から自分をまもるために造られたのだけど、残念ながら、必ず壁の内部に悪を一緒に囲い込んでいる。だから、結局、壁の中の闇によってその街の平穏は失われる。壁はおのずとくずれる運命にある。それも外からでなく内から。」「あなたのつくりだしたこの街もきっとそうなるわ」「そうかしら?今のところ心配はなさそうだけど」「そうかしら?たとえば、夜がない街で、あなたがゆっくり眠れることってあるの?」「この街に住んでいる人たちはわたしをふくめて少し特殊な部類にはいると思うわ。選ばれた、とはいわないけれど。この街を通りすぎる人たちはいっぱいいても、住みつく人は限られている。実は、この街の存在すら知らない人がほとんどよ。それで、この街のことを、好きだったり嫌いだったり、愛していたり憎んでいたり、いずれにせよ関心のある人々がここにいつくのだけど、こういう人たち、みな、概してうつ傾向で不眠がちなのよね。それが普通だから、そう不眠も気にならないんじゃないかしら。逆に、こちらが聞きたいわ。夜っていったいなんの意味があるの?」「意味?」「一晩中暗くならない夜があっても、人は眠くなれば眠るわけで、もしも暗い夜がこなければ寂しい時間を過ごすこともないじゃないの?まあいいわ。ところで、急な質問だけど・・・あなた、あのタイチっていう子のことを愛しているの?」「愛してる?」「そこまでの関係ではなさそうね。だったら、私が彼をもらっても、かまわないわね」「もらうって?」「わたしも、彼と同じで、一般の人と同じではないの。魔法使いは魔法使い同士でないとわからないことがあるの」「私が好きなのは、彼の魔法ではないわ」「そうかもしれないけど、彼とは切っても切れない能力よ。私には彼の能力ゆえの苦労がわかる」「そうかしら?」「いっておくけど、私、性格がしつこいの。覚悟してね」「あなた、いったい何者?わたし、あなたは、実は魔法使いではないような気がする」「魔法はつかえなくても、あなた、やはり頭いいわ。好きなように考えて。さてと。実は、明日、この街でコンサ-トがあるの。みんなでいかない?招待するわ。行けばもっといろいろあなたたちの知りたいことがわかると思うわ」「わたし、あなたには負けないわ。あなたは、いろいろな言葉をあやつってはいるけれど、人の感情を決して見ようとしていないもの」コピヤが、声だけでなく、ふたりの様子を目で確かめようとそっとのぞきこもうとしたとき、誰かが足にかみついた。 みると、それは、また、ねずみの人形のチューだった。「コピヤはチューの敵だ。コピヤはスパイだ」 こいつは、だんだん人形離れしてきているような気がする、と思いながら、コピヤはチューをけっとばして足から振り払おうとしたが、なかなか離れない。「コピヤはいつもチューをおそれている。だから、コピヤはチューをみるといつもおいかけてきて、つかまえてゴミ箱にいれようとする」「おいかけてきているのは、おまえの方で、ぼくはおまえをおいかけたことはないぞ」「おまえは、タイチたちのコピヤか?おまえはかわったコピヤだ。チューをみても反応しない。でも、見た目だけでは、他のコピヤと区別はつかない」 コピヤはいつもチューをおそれている?
2007年01月11日
コメント(2)
28 目が覚めると、コピヤはベッドに横になっていて、すぐ隣に話をしていた老人がいた。「ぼく、ちゃんとカエルになったのか?」「ああ、とってもかわいいカエルにな」「そう…。ちっとも覚えてないけど」「それでいいさ。コピヤもたまには息抜きしないとな。コピヤだって悲しいことや楽しいこと感じるんだろう?」 そういって、その老人は、自分のことをしゃべりはじめた。コピヤはいつもこうやって、黙って人の言葉を聞いているものらしい。 自分の息子の結婚の話がもちあがったとき、自分は、猛反対をした。相手の娘の家が離婚家庭だという理由だった。今では、離婚している家の子供が、そう特別視されることは少ない時代だ、と息子に説得されたが、どうしても、抵抗感がとれなかった。親の離婚するしないをどうやってその子供が選べるのだろう・・・という説得も当時は、耳にとどかなかった。 そのとき、衝動的に自分の口からでたこの言葉がその後の火種になった。「子供が産まれたら殺してやる」 子はかすがい。昔の人はよくいったものだ。一時、交流の途絶えていた、息子夫婦と自分も、夫婦に子供が産まれたのを機によりをとりもどしていった。 だが、そんなとき悲劇がおきた。 自分のところに子供があずけられている間に子供が突然死亡したのである。乳児突然死症候群。それが医者の診断だった。そのとき、息子の妻は、とりみだして言った。「あんたが殺ったのよ。私は覚えているわ。私たちの結婚前にあんたが私にいったことを」 そして、時がすぎ、息子夫婦には新しく、三人の子供が産まれ、今度は三人ともすくすく育った。以前の不幸なできごとは過去のものとなったかにみえた。 しかし、三人の子供が、小学生になった頃、自分の家にあずけられているときに、家に火事がおきたのである。火をつけたのは、母親の復讐の手先となった、その3人の子供たちだった。目的は、もちろん自分を焼死させるため。さいわい、火事で、逃げることができたが、私のショックは大きかった。殺人犯として、小学生の自分の孫を訴える?だれも信用しまい。なにより、そんなことできるはずがない。だから、自分はこのお屋敷に逃げてきたのだ。 コピヤが、何もいえずに黙っていると、彼は付け加えた。「でも、年をとると、こんな悪いことばかりというわけじゃあないさ。最近では、ここで働いているあるおじいさんとあるおばあさんが、10年前に離婚して、ずっと連絡をとらずにきて、ここで再会してまたいっしょに暮らし始めたというケースがあった」 年よりが、しゃべる相手がいなくてもわりと平気なのは、自分の過去の回想と会話をすることで寂しさをまぎらわせられるからかもしれない。しかし、その回想は、すべてが楽しいものばかりではない。つらい思い出は、誰かに話すことで、はじめてその重さから軽くなれるのだろう。
2007年01月10日
コメント(0)
27 次の夢は、一体のコピヤが、ひとり詩の朗読をしている場面だった。 自然光とまちがうほどの、まばゆいスポットライトを浴びながら、コピヤが舞台の上で語りかけていた。 (コピヤの詩) 彼女は、ずっと囚われの身だった「ぼく」を救出した。 彼女と「ぼく」の関係は、血縁でもなく友人でもなく、いわば利害に基づく関係であったが、「ぼく」の話は彼の興味をひいた ぼくは最初から他の人と違っていた。 でも他の人と違うぼくの仲間はたくさんいた。 僕の人生は旅そのものである。 深い谷や広い河、険しい山をこえたり。 人や車の多い大都会や、淋しい砂漠を横切ったり。 星の下の野宿。あるいは、小さな子供と遊んだり、悲しい老人とすごしたり、欲にかられた非道な人間とつきあったり。 ぼくの見聞きしたもののロマンは、ぼくの移動距離、ぼくが人のいないところにも旅していくのと比例して、君たちの想像力を刺激するのだろう。 ぼくには何の特技もない。 ものをつくることもできないし、種をまいて収穫することもない。また、ものを売ったり、人を病気から救ったり、気の利いたセリフをいうこともできない。 移動するだけである。 いや、付け加えるなら、二つのことを移動した場所で行う。 一つは、ぼくは鏡になって、他人の姿をうつすことができる。 人々は、ぼくに自分の姿をうつして、自分自身のもっている価値が、ぼくのもつ価値基準ではどのくらいになるかを数えるのだ。 その「ぼくのもつ価値基準」が良い物か、悪い物かはぼくにはわからない。百年くらい前には「ぼくのもつ価値基準」が悪いと言う人がけっこういたのであるが、時間がたち、世界が豊かになり熟してくるにつれて、今やそれは空気や水のようにあたりまえのようになっている。 ぼくは、感情に流されることなくその「ぼくのもつ価値基準」にしたがって、容赦なく、鏡にうつった愛や憎しみ、不安、喜び、怒り、悲しみなど人間の感情についても評価する。正確にいえば、ぼくが評価するのでなく、彼等が、鏡であるぼくに映った自分の姿をみて、彼等自身が自己評価するのだが・・・。 ぼくはあくまでも中立であり、数字に表現できるような客観性をもっているのだ。 もう一つぼくが移動したところですることは、一人妄想することである。人は、ぼくが妄想していることに気づかないし、妄想の内容はみえないので妄想しているという確とした証拠はない。 妄想にふけるのに適した場所は、子供の手の中や、女性の腕の中ではない。 ほんの少し前までは銀行、今は証券会社の中が、ぼくの妄想がもっとも広がる場所だ。 そこで僕はたくさんの子供を産む。 セックスなしに、父親の体からうまれた子供だ。 父が子を産む。 最近では、インターネット上にもぼくは旅をする。 ぼくの体はもともと、紙や金属でできているのだが、光となってそこに文字として姿を表すことができる。 ぼくは「彼女」に拾われた。 あなたにとっては、ぼくを救出したということのようだが、ぼくにとってはやはり旅の続きにすぎない。 そのことについて議論しようとは思わない。 ただ、あらかじめ断っておくが、「彼女」のところでぼくが子供を産むことはあるまい。 彼女が「ぼく」の話を熱心に聞いたのは、「ぼく」の話に共感することが彼女に多かったからかもしれない。彼女はある意味、自分を「ぼく」にだぶらせていた。だが、彼女が、人間である自分が貨幣になることを望むことで、むなしく人間から自分を救出しようとしていたとすれば、最初から実現不可能な可能性にかけるというきわめて人間らしい行為により、自分から人間を救出していたことになる。 彼女はやがて銀行強盗を実行した。 動機は不明。 強盗のための強盗?あるいは、「ぼく」を銀行から救出するため?
2007年01月09日
コメント(2)
26 コピヤは気まずくなって、そのパーティー会場の部屋からひとりぬけだした。 ぶらぶら歩いていくと、広い温室があって、そこでは、十数人のコピヤが植物の世話をしていた。 こんにちは、と一人のコピヤに声をかけたが、むこうはこちらをちらりとみただけだった。「なんだ、やっぱりあの人じゃあないのか?」「誰だ、あの人って?」「おまえ、知らないのか?」 コピヤたちは、また水やりをはじめて、二度とこちらのほうを向くことはなかった。コピヤは、気になってしばらくそこにいたが、気になりつつも立ち去った。 厨房にいくと、そこには、何人かの老人がたむろしていた。 コピヤが、顔をだすと、「なんだお前か」 当然のことかもしれないが、コピヤはこの家のコピヤと勘違いされて、中にはいってもあやしまれなかった。 厨房のテ-ブルの上には、鍋やお椀やお皿やコップとならんで、牛乳瓶、庭からとってきた草花がならんでいた。「これは何?」「それは、人間を動物にかえる魔法の薬の材料だよ」 集まっている老人たちがみな大笑いした。「作り方を教えてあげようか。まず、このビニル袋にはいった茶色い粉と水を鍋の中にいれる。さらに、レモンをしぼった液をこれに付け加える。鍋を火でぐらぐら熱したあと、また冷やして、布でこす。布の上に残ったカスは捨てる。こされた、濁った茶色っぽい液体を、大きなびんに詰め直す。ちょっと酸っぱい感じの匂いがする。次に、この茶色い濁った液を、五本くらいのからの牛乳瓶の中に注ぎ、ガラスのコップでふたをする。この牛乳瓶をまたぐらぐら沸騰した鍋の中に入れて暖める。しばらくして、また、この牛乳瓶を鍋から外にだす。ガラスのコップのふたをあけ、庭からとってきた草の葉や花や根を牛乳瓶の中に入れて、再びコップをかぶせる。最後に、この液を、ブドウといっしょに、また別のカメの中にいれ、カメの上には重石をのっけて1ヶ月。それで完成だ」「完成品はこれだ。おまえ、飲んでみるか?」と別の老人がぼくにいった。コピヤは答えた。「飲んだら動物に変わってしまう危険なくすりだ。飲まなくて済むものなら飲まない方がいい。」 一同は、大笑いした。コピヤが一人前の口をきいてるぞ、といった声が聞こえた。「そんなに心配しなくていい。第一、動物になっている間は、人としての意識がなくなっているし、人に戻ったときは動物のときの記憶は消えてしまっているんだ。もっとも、おまえは人間でなくコピヤだが効くかどうかの保証はないけどな」「コピヤは、トラでなくカエルになるかもしれんぞ」 みんながまた笑った。一人が、カメの中から、ひしゃくを使って、腐って泡立っているブドウを布の上にのせて、それを絞ってできた液体をコピヤにさしだした。その液体は赤くて少し濁っていた。 コピヤは一気にくすりを飲んだ。 苦くはないが、少し酸っぱくて、おいしい物ではなかった。まず胃のあたりが、そして全身が熱くなってきた。頭がぐるぐる回りだした。気持ち悪くはなかった。むしろ、空中にぷかぷか浮かぶような、不思議な気持ちだった。 コピヤは気を失った。 夢の中に、途中みかけた、温室にいるコピヤが出てきた。「なんで、おまえはあの人を知らないのか?本当におまえはコピヤなのか?」 あいかわらずこちらをむかずそのコピヤは言った。 コピヤが、なにかいいかけると、そのコピヤは頭をあげ、上のほうをみあげた。上から、巨大な、手の指がおりてきて、庭にいるコピヤたちをつかみ、上のほうへつかみあげていった。コピヤたちは無抵抗だった。いや、むしろ、それを待っていたようであった。「ここで働くコピヤは、よく教育されている。ここのコピヤ一体と、他のところのコピヤ数体と交換ができる。交換によって、ここのホテルのコピヤはどんどん増えていくのだ」 どこからかそう声が聞こえた。 そして、その巨大な指は、今度はコピヤの方へむかってきた。 コピヤは必死で逃げたが、その指はしつこく追いかけてきた。「おまえは本当にコピヤなのか?」 また声がどこからか聞こえた。「ぼくには、ここの屋敷のコピヤも、他のところのコピヤもまったく同じにしかみえない。なんで、ここのコピヤが他のコピヤの何倍も価値があるのかわからない」 そういいながら、コピヤは必死で逃げ回った。
2007年01月08日
コメント(1)
25 カーテンは外の太陽の光を完全にさえぎり、映画の試写会ができるくらいの十分な暗さになった。天井のシャンデリアにあかりがともされた。 アイはいった。「この街ではナビも携帯もTVも使えないわ。あらゆる電波が届かないここで、使えるのは自分の想像力だけ。でも、私が、電車にのってわざわざ時々ここにやってくるのは、そういう生活が好きだからかもしれない。ここに住んでいる人たちも、少なからずそう思っている人たちよ」 いつのまにか、青いコートを着た、色白の若い男がアイのとなりに立っていた。「ようこそいらっしゃいました。ごゆっくり」どこからやってきたのか、部屋の中は、人でいっぱいだった。 青いコートの若い男はバイオリン弾きだった。演奏はすばらしかった。彼の顔は輝いていた。拍手する者こそいなかったが、楽しそうに踊る人々の様子そのものが、彼に対する拍手に他ならなかった。 テーブルの上には、お酒やごちそうがおかれ、踊り疲れた人たちが、そこで腹ごしらえをし、のどをうるおした。 あちこちで、タバコの煙が、天井にむかってあがっている。音楽にあわせるように、それらのタバコの煙が一本のひとつの束になっていき、ある文字を宙に描いていた。「自由を我らに!」 観察力のある人なら、そこで踊る人々は、部屋の中に飾ってある絵の中からぬけだしてきた人物達であることに気づいたかもしれない。絵の中は、背景だけが残っていた。 暑くなってきたのか、バイオリニストは青いコ-トをぬいで、部屋の中央に飾られていた裸の男の彫像にそれを着せた。しかめっ面のその彫像の男は、コ-トをかけてもらうと、ちょっぴり嬉しそうな顔になり、ようやく肩の荷がおりたかのようにそのポーズを解いた。 タイチとリカ、シュンとマコトがペアになり、その陽気なバイオリンの音楽にあわせて踊っていた。「これからどうしよう。せっかく、この幻想の世界を創りだした犯人が目の前に姿をあらわしたというのに」「脅してもいうことをきくような相手ではないからな。しばらく、いっしょにいながらその秘密を知るチャンスをうかがうしかないかもね」 その横でコピヤはひとりでめちゃくちゃな踊り方で踊っていた。 突然、コピヤの目の前に、白いものがはりついてきた。 コピヤは驚いて、その顔にはりついたものを手ではがしてみると、それはさっきアイにとびかかろうとしたねずみの人形のチュ-だった。コピヤはあわてて、チュ-を放り投げた。 投げ飛ばされたチュ-は、描かれている人物が外に抜け出してしまっている絵の額縁の一つに衝突した。 それと同時に、警報ベルがなった。 人々は、自分のいた元の絵の中にあわてて戻っていった。 最後に、絵の中に戻ったのは、青いコートを着ていたバイオリニストだった。しかし、絵の中の彼は、もう青いコ-トは着ていなかった。 アイは、また固まってしまった裸の男の彫像からバイオリニストの青いコートぬがせながら、微笑を浮かべて言った。「びっくりさせてごめんなさいね。この絵、盗難予防のため、触ると警報がなるようになっているの。あらかじめ注意しておけばよかったわね」
2007年01月08日
コメント(0)
27 呼び鈴をならすと、一体のコピヤを連れた、40歳前後だろうか、白い法衣のような服を身にまとった、ひとりの女性が出てきた。アイであった。 険悪な空気が、4人とアイの間に漂った。 シュンは叫んだ。「ようやくみつけたぞ。はやく魔法を解除して、幻想の街からぼくらを出すんだ」「あら、みなさん、どちらの方かしら?」「とぼけないで、アイさん。万華鏡の建物の中で、わたしたち、対決したじゃない?」「わたしの名前を知っているのね。確かに、わたしの名はアイよ。でも、わたし、あなたたちことを知らないわよ。そのアイって言う人、わたしと他人の空似なんじゃあないかしら?」「とぼけないでよ」 リカは憤慨していた。「あら、きっと、わたし、あなた方の知っている<アイそっくり>なだけよ。どうしてわたしが彼女と同一人物だと証明できる?わたし自身が違うって言っているのよ」「とにかく、建物の中を調べさせてもらう。中に、<人工太陽>を動かす装置があるかもしれない」「なんのことかしら?でも、中にはいるのはかまわないわよ。ここは、ホテルで、お客さんをお泊めする場所だから、断る理由などないわ」 4人は、それぞれ与えられた部屋に荷物を置いたあと、ホテルの中をくまなくさがしまわったが、あやしげなものは何もみつからなかった。 拍子抜けしていると、そのアイから、お客様にケーキとコーヒーをごちそうするという誘いがきた。 案内された広い部屋は、天井が高く、豪華なシャンデリアが吊さげられていた。壁にはいくつもの絵がかざられていた。いわゆる典型的な西欧風の豪華なつくりの部屋だった。 アイがいった。「わたし、このホテルのオーナーだけど、あなたたちの知っているアイっていう女性のこと、少しは知っているわ。でも、ただの友達よ。あなたたち、なにか勘違いしているみたいだけど」「そんな言葉にはだまされないぞ」 その、アイという女性は、そう言ったタイチの言葉を無視して話しはじめた。「友達のアイは、塾の先生をしているわ。彼女にとって、塾に通ってくるものたちが偏差値の高い大学に行ったとか、成績があがったとかは、二の次なの。彼女の一番の喜びは、生徒たちが、とにかく喜んで自分の塾に通ってくるということ。生徒たちは、家庭や学校に背をむけて、非行に走るように彼女の塾にいくのよ。それは、彼女が、彼らにかけた魔法の力のおかげなの。でも、彼女は別に悪いことをしているわけではないわ」「人の心をもてあそぶことが悪いことではないというの?」リカは言った。「でも、勉強のできる子供たちは、みんな、彼女でなければ他の人たちにもてあそばれているじゃあないの。親とか先生とかマスコミとかに」「それは少し違うわ」「そうかもね。彼女は、自分のやっていることを自覚してやっているところが彼らとは違うかもね。彼女にとって、生徒たちが自分のところに通ってくるということは、彼女の社会に対する復讐なの。外からみれば、暖かい家庭だったり立派な教師がいるすばらしい学校だったり。でも、その中にいた彼女はずっと不幸だったのよ」「でもそのおかげで今のあなたがいる」「彼女の社会に対する復讐は、自分をこんな風におとしめた人たちの子供が自分のところにくるということで達成されるの。社会的に『立派』といわれる家庭の子供たちが、魔法の力で自分の塾にきて自分と関係をもつ。それは、子供たちが彼らを否定し、彼らを捨て彼女を選んだということなの。彼女は、彼らから彼らの大切な子供たちを奪う。子供たちが、彼らでなく彼女を信頼するということが奪ったということよ。彼らは子供の信頼という大切なものを失い、彼女がそれを手に入れるの。彼らが知ったら、最もさげすみ、認めたくないと思うだろう彼女を彼らは選んだの」「言っていることがよくわからないわ」「彼女は、自分の考えていることを説明するのに、小さなクレヨンの話をよくするから、それを紹介するわ。その小さなクレヨンは、相手のために、色を塗ってあげるのが仕事なの。どんどん塗っているうちに、クレヨンが、だんだん<短く>なっていき、最後は、なくなって、星になって一生を終える。このクレヨンの一生は、確かにすばらしい。でも、そのクレヨンの色は何色でしょう?それは、本当に相手が、自分はその色に塗ってほしいと思うようなきれいな色ですか?どんなクレヨンの色でもいいのですか?だから、自分が色を塗りましょう」 4人は、少し黙りこんだ。最初に沈黙をやぶったのはリカだった。「人はクレヨンではないわ。もし、たとえで人=クレヨンという比喩をつかうのなら、そのクレヨンはその話にでてくるようなものとは違うわ。クレヨンは、けっしてひとつの色ではなく、相手によって、その色をかえるの。そして、使っても使ってもけっして小さくなんてならない、そういうクレヨンなのよ。柔軟な心を忘れて、ひとつの考えにこりかたまり、人でなくクレヨンのような<物>になってしまったら、同じ色しか塗れず、どんどんすりへっていくだけになってしまうのよ」「それはひとつのひねくれた解釈だわ。あなた、彼女がなぜ、クレヨンの話しをするかわかる?これは、自殺、いじめといった問題をかかえる子供たちへのメッセ-ジなのよ。あなたたちはひとりじゃないということ。あなたたちのまわりには、このクレヨンの話のように多くの人がついていること。そして、自分は、大きな宇宙の中で、なんと小さなことにくよくよしているんだと感じてほしい、というメッセ-ジがこめられたお話なの」 リカはそれに対して言った。「それは大切なメッセージかもしれない。でもわたしの心にはそのメッセージは響かないわ。そういうのって、貧乏人にむかって、もっとお金をたくさんもてば貧乏でなくなるよ、というのと同じことでしょう?わたしなら、クレヨンのように耐えることではなくて、闘うことを伝えたい。内面の反省ではなく、周囲の状況をかえること。どんなものも、変わらないものはないと知ること。どうみても周囲の状況はかわらない、とあきらめることをしない、ということを伝えたい。全部がちがうかもしれないし、全部変わることは実際にありなのだ、ということを」 その時、リカが持っていたねずみの人形のチューが、リカの手からとびだし、アイにとびかかりかみついた、ように見えた。実際は、単に、リカの手からこぼれただけなのかもしれないが。 アイは立ちあがり、窓という窓についている、分厚いカ-テンをしめていった。そして、こう宣言した。「さあ、パ-ティーよ」
2007年01月07日
コメント(0)
26 寄り道をしながらゆっくり車を走らせたにも関わらず、最初にぼくが入院していた病院に、島を1周して戻ってきていた。1周、200kmくらいになるのだろうか? もちろん、病院は爆破されてはいなかった。それを確認して、われわれは、今度は、島の海岸沿いを1周する道路をはなれ、島の中心方向へ車を走らせていた。山へむかう道は、舗装はしてあるが、2車線になったり1車線になったり。片側一方通行の工事中の場所で旗を振っている交通整理のおじさんの横にも、やはりコピヤがよりそっていた。そう深い山ではないが、対向車がくればどうやってすれちがうんだろう、と悩むほどの狭い道を長く走り続けると、だんだん淋しい感じになってきた。 車の中で、シュンは、ある本の裏表紙に書きこみをしていた。「できた」「できた?」「そう。今までとおてきたこの島の地図。絵にすると、よりはっきりするでしょう?」「みせて。うん、こんなかんじ。でも、道路と家のマ-クと説明文だけではつまらないわ。こうして、イラストをいれて、と」 リカは、性格なのだろう、きちっと書かれたシュンの地図に、ヘリコプタ-やねずみのチュ-やカレ-の絵をかきこんだ。病院のところには、ぼくのイラストもかきこんでくれたのがちょっと嬉しかった。でも、それは人の形はしているが、目も鼻も口もなければ、服もきてない、のっぺらぼうの絵だったが。「これで、魔法使いのミューとその使い手がこの島のことを連絡できる」 シュンが、(たぶん魔法の呪文だ)ぶつぶつつぶやくと、本の裏表紙に描かれた地図がきえていき、かわりにメッセージがうきでてきた。『思ったよりも、その街は狭いんだね。もし、<人工太陽>を動かす工場とか溶鉱炉があれば、意外に早くみつかるかもしれない。こちらでは、そういうものが、実はもともと存在しない可能性もあわせて、仲間たちと検討している。でも、とりあえず、探索を続けてくれ。こちらの予想だと、まもなく君たちは、例の彼女と出会うはずだ』 どうやら、タイチという少年だけでなく、シュンという子も魔法をつかうようだ。残りのリカとマコトはどうなのだろう? 山道を登っていくにつれて、いつのまにか、車の外では雪が舞い始めた。 あいかわらず、太陽は頭のてっぺんにいる。厚い雪雲の合間に、ときどき、ぎらぎらしたその姿をのぞかせていた。 やがて、目の前に、大きな建物がみえてきた。「あそこがホテルだといいが。もうそろそろ今日の宿泊を考えてもいい」 車が、その建物の玄関に近づくにつれ、道沿いに色とりどりの風車があらわれ、白い雪の中で太陽の光に照らされ光っていた。と、むこうから、車のような影が近づいてきた。よくみると、それは電車だった。「あれは、ぼくらのもといた世界で走っている地下鉄の車両だな」 それは、その建物の玄関でとまり、そこから、ひとりの女性がおりてきた。彼女は手をふって、電車がまたゆっくり進みだし雪の中に消えていくのを見送った。そして、その建物の中にはいっていった。「彼女だ。みつけたぞ」「ぼくらも中にはいろう」と、タイチは言った。「幽霊屋敷でないといいけど」 リカは不安そうに言った
2007年01月04日
コメント(1)
25 確かに言われてみれば、われわれが出発してから、ずっと太陽は頭のてっぺんにあった。かれこれ4時間は走っているだろうか?しかし、太陽の位置は変わらない。 車はしばらく走ると、今度はガソリンスタンドにはいった。5箇所あるスタンドの4箇所までの場所は、既に車が止まっていた。給油できるのは1箇所のみ。しかし、停めてある4台の車には、誰も乗っていなかった。そして、その車の窓の内側からはりがみがはられていたた。「ご迷惑なのはわかってますが、もうしばらくしたら動かしますから、このままおかしてください」 その横には、窓の外からのはりがみがしてあった。赤い文字で、「違法駐車。警察」と書かれていた。 給油は、コピヤであるぼくにしか動かすことができないようになっていた。ぼくは、なにが起こるのかと少しどきどきしていたが、普通のセルフのスタンドと同じように給油を終えることができた。ただ、売り上げ伝票には、こんなメッセージが記されていた。『申し訳ありません。ここは、ブタ人間がいるスタンドです』 マコトが車のエンジンをかけると、その伝票に書かれたメッセージが新しいものに変わった。『毎度、ありがとうございます。お察しのように、ブタ人間はなまけものなので、外に姿を現しません』「なによ、この伝票。ちょっと、人をばかにしてない?」とリカは言った。「ぼくはむしろ、ぼくらのみえないところから、彼らがこっちをじっと観察してると思う方が気味が悪いな」とシュンが答えた。 マコトは事務的に、車を出発しようとした。「ちょっと待って、伝票の文字がまた変わったわ」『毎度、ありがとうございました。よければ、もう少し、出発せずに、われわれのいうことをお聞きください』「ストップだ、マコトおじさん」「また、街の観察かい?シュン」 少し、皮肉まじりの声でタイチは言った。 少し動いて止まった車の目の前を、プラカードが右から左に動いていった。そこにはこんな文章が書かれていた。『われわれブタ人間は、現代科学の産物なんです。われわれは、ブタの臓器を移植した人間です。不治の病をかかえ、それをなおすには、臓器ごといれかえる、移植という方法しかないのです。金のないわれわれは、中国をはじめとする海外で、人間の死体からとった臓器を移植するかわりに、生きたブタから臓器の提供をうけたのです。これは、異種移植とよばれる、れっきとした、現代医学の研究分野のひとつです。超急性拒絶反応を抑える、ひそかに開発され非合法につかわれた免疫抑制剤のおかげで、ブタの臓器はわれわれの体に無事、生着しました。しかし、そこで、思いもよらぬ現象がおこったのです。ブタのもつウイルスにおかされた?いえいえ、そんなことではありません。われわれは、だんだんとブタ化していったのです。具体的には、大食らいのなまけものに、性格がかわっていったのです。われわれに異種移植をおこなった科学者たちは、このことをマイクロキメリズムと呼びました。これは、同種移植でも観察されていたことです。つまり、ドナ-の細胞が、移植した臓器だけでなく、その他の骨髄や肝臓などの臓器に観察されるという現象です。ブタの臓器を移植したあと、ブタの細胞が、われわれ人間の脳細胞に多くあらわれ、かくしてわれわれはブタ人間になったのです。メッセージを読んでくださりありがとう。われわれは科学者たちを恨んだりはしていません。むしろ、健康な体と、健全な精神を手に入れることができ感謝しています。それどころか、異種移植の実験が、中止になってしまいましたので、われわれはこうやって、われわれが元気に楽しくやっていることをアピ-ルして、また、実験が再開されることを祈っているのです』 ぼくは、スタンドの中に一体のコピヤの姿をちらりとみかけたような気がした。
2007年01月03日
コメント(2)
23「おいしかった」と、マコトがいうと、タイチが答えた。「おいしいけど。この味、どこかで食べた気がする」「どうせ、タイチのいうことはわかってるわ。ママがつくったカレ-の味と同じだっていいたいんでしょう。マザコンなんだから」「リカはファザコンだろう?」 リカは、タイチの言葉を無視して、駐車場のとなりにある、一軒の雑貨屋を指差した。「あそこにちょっとみてみたいわ。なんか、高速道路の建設中なのかしら?高架下みたいなところにあるけど」 確かに、100メ-トルくらいだけ高架があって、あとはとぎれていた。そして、その途中で途切れた高架を屋根のようにして、その店はあった。 その雑貨屋で、リカは、なつかしいサイコロキャラメルや、キナコモチチョコをみつけて大喜びだった。それを買うために、またぼくは、店の奥で働かせられた。商品の整理、そして、在庫チエックなどをさせられた。 そのほかに、リカは、鎖につながられた、ねずみのぬいぐるみをみつけ購入した。「ねずみのぬいぐるみに、チュ-なんて名前つけるなんて、頭つかってない、ってかんじよね」「人形をあなどるなよ。たとえねずみの形の小さな人形だって、魔法を使えることだってある。ママの入院中、その人形にそっくりのねずみの人形は、ママの寝ているとなりで魔法を覚えて大活躍したこともあるんだぞ」「失礼しました。あなたにはそんな力があるの?」 ぼくには、そのねずみの人形が、リカにそう言われて、かすかにうなずいたように見えた。ぼくとは、あまり相性がよくなさそうだな、とそのとき直感した。 その店をでるとき、その店にいたコピヤが、黄色い彼岸花に水やりをする手をやすめ、こちらにむかって手をふった。愛想のいいコピヤだ。 ぼくと同じ彼がいることに、ぼくは少しおどろかなくなってきていた。たぶん、あの4人組も。 人間は、慣れ、うけいれる能力は高いようだ。 24 相変わらず、車は海岸沿いを走っていた。 シュンが急に言った。「マコトおじさん、車をとめてくれ」「どうしたんだ」「いいから、車をとめて、そしてUタ-ンして、砂浜の方にもどって」「わかったよ」 マコトは言われたように、車をとめ、Uタ-ンして少しもどり、海のほうにむかって走り始めた。「なにをみつけたんだ、シュン」「ちょっと面白い三人組をみつけたんでね。これもこの街の観察かな?と思って」「面白い三人組み?また例の工場でも見つかったんだと思ったよ」「まあ、きまぐれだけど」「きまぐれね、きまぐれで、このまま走って、車ごと海につっこもうか?」「頼むからやめて、タイチ」と、あわててリカが言った。「あなた本当にやりかねないから」「危険なわけないさ。昔、ママの車で、海底を車で走って外国までいったことがあるんだぞ」「また、ママ、ね。まあいいわ。とにかく、ここでストップ。何をしている三人組かしら?」 砂浜にぽつんと三人はいた。 一人は、砂の上に座ってずっと鏡にむかって、イ-をして自分の歯をむきだしにしてそれをながめていた。もう一人は、その横で、ずっとくるくるまわっていた。そしてもう一人は、望遠鏡をかたときもはなさなず覗き込んでいた。 正確にいえば、コピヤが、三人の横でそれぞれに一体ずつ計三体、砂浜の上に寝そべっていた。コピヤをカウントする気は、もう4人にはないようだ。ということは、ぼくもカウントされなくなっているということだろうか?「こんにちは」「こんにちは」 同じ場所で回転している人が答えた。「何をしてみえるんです?」「見ればわかるでしょう?回ってるんです。ぼくは10秒間の間に5回以上回転しつづけないと、風に飛ばされてしまうんです」「風、吹いてないけど」「風がないときは、回転虫に襲われるんです。砂の中から急にわき出てきて、回ってないと、砂の中にひきずりこまれるんです」 その人は、ほとんど、会話ができないほど、10秒間の間にたえず5回転していた。「ずっと、回り続けているんですか?つらいでしょう?」「とんでもない!回転したくて回転しているんです。つらいなんて!なんならぼくが回転のしかたをお教えしましょうか?いや、そう簡単なものじゃあない。野球の本を読んでも野球が上手になれるわけではない。育児の本を読んだからといって、赤ん坊が産めるようになるわけではない。それと同じですよ。なかなかこれがむずかしい。それに、慣れれば、回転しながらでもけっこう眠れるものです。それに・・・回転すればするほど、所有するコピヤの数が増えていくのです。どうです、ぼくの周りには、ずいぶん、たくさんのコピヤがいるでしょう?」 しかし、ぼくらには、砂浜にねそべり、のんびりしているコピヤが3体いるのが見えるだけだった。「きっと、目が回って、コピヤがたくさんいるように見えているだけよ」 アキが小さい声でつぶやいた。 もう一人、座って鏡にむかい歯を映している人は、歯が月に1回すべてぬけて、1ヶ月のうちにすべて生え変わるということだった。気になって、気になって、いつも鏡で、自分の口の中を観察しているという。 もうひとりの、望遠鏡を見ている人の横には顕微鏡があった。遠くを見るときは、望遠鏡、近くを見るときは顕微鏡。必ず、どちらかをつかって見るようにしている。<裸眼で見る>なんて、なんておそろしい、と彼は言った。「そうしなければ、物事の本質や真の姿を見失ってしまいます」 アキがためいきをつきながら言った。「どの生活もたいへんそうね」「そういえば、お三人さん、ぼくがいいレストランをしっているから紹介してあげようか」「いいレストランって?」 砂浜の三人組はタイチに尋ねた。「そこは、風のないレストランなんだ。だから、回転しなくてもふきとばされないし、歯もぬけかわることはないし、道具をつかわなくても普通にみれば本当のものがみえる」「ぼくらにいいレストランを紹介するなんて、グルメ情報誌の編集長に、おいしい店を案内するようなものさ」「そんな、甘い話、世の中にあるはずがない」「だまそう、ったって、そうはいかないぞ」 砂浜の三人組は、タイチのいうことに聞く耳をもたなかった。「回転をやめるとぼくは死んでしまうんだ」「鏡をずっとみてないと、歯が上下のあごにつきささって、たいへんなことになるんだ」「真実をみすごしたらたいへんなことだ」「あなたたち、夜になってもここにこうやっているの?」「夜?君は、何を言ってるんだい?」「夜、真っ暗な砂浜でもこうやっているの?」「夜なんて、来ないじゃないか。太陽は、1日中、頭のてっぺんから動かないじゃあないか」 リカはためいきをつきながら、シュンにいった。「どうやら、わざわざ寄り道する価値は、少しはあったようね」 マコトは、黙ったまま、車をまたもとの道のほうに動かしはじめた。 三人組の姿は、みるみる小さくなっていった。 いったい、彼らはいつまでまわり続け、鏡を見続け、望遠鏡をのぞき続けるのだろう。永久に? やはりこの街には夜がないのだ。
2007年01月02日
コメント(1)
22「ナビは無くてもいいのだろうけど、無いと少し寂しいわね」とのんびりした口調でリカは言った。「無くてもいいんではなくて、無いんだ。それに、きっと、無いほうがいいんだ」とタイチは厳しい調子で言った。「そうお?でも、私、意外にナビが好きなのよね。あの、指定された道を行きすぎても、文句ひとついわずに、新しいル-トを一生懸命案内してくれる、あのけなげさがかわいい」 ナビのことをかわいいと思えるくらいなら、ぼくのことだってもう少し、気持ち悪がらず、かわいがってくれてもいいはずだ。でも、ぼくには、ナビのように新しい道を示すようなことはできないだろう。ぼくはもっと控えめなのだ。「ナビがかわいい、か。おい見ろよ。きれいな海岸だ。ここは島なのかな。道もだいたい1本道で、太い交差点もない。意外に、1,2日でまわれちゃうかもしれないな」とシュンが言った。「ここが島として、車で海岸線を1周したら、今度は、中央の山のほうへむかおう」 タイチ、シュン、リカにとっては、この街が島になっていることにまったく違和感はないのだろうが、マコトにとっては受け入れがたい風景のようだった。 (この街に海岸線があるなんて。ましてや、島でまわりが海に囲まれているなんて。ぼくは、自分の働いていた街から車を走らせてくるときに、海を横切ったおぼえはまったくない)と、マコトは心の中で思っていた。「なんかへんかい?」「うん。いや。ぼくはこんな近くに海があるなんて思いもしなかったんだ」「そうなのか?・・・ところで、この街には、カレ-ライス屋はもともと多いのかい?」「ああ、ハッピ-屋、という名前のチエ-ン店が道のあちこちにあるのには運転して気づいていたけど」「いままでも何回か通り過ぎてた店だよな。どうだい、みんな。今度、そのハッピ-屋という店をみつけたらそこで食事にしようか?」「賛成」 しばらくして、車は、郊外のファミレスといったかんじのカレ-屋の駐車場に止まった。 タイチが鼻をくんくんさせて言った。「このにおい、どこかでかいだことがある」「あら、おいしそうなにおい。食欲をそそるわ」 この街には貨幣というものがなかった。 変わりに、各自が連れているコピヤが店で働いて、そこの店の商品を手にいれるのだ。 そのことを、ぼくも、4人も、このカレー屋に入って初めて知った。 カレー屋の中に入ると、ぼくだけ、店の裏のほうに連れていかれて、4人のために、カレーづくりを厨房で手伝わされた。厨房では、多くのコピヤが働いていた。 ぼくは、記憶を失ったコピヤなので忘れてしまっていたのだけれども、この街の人々そういう風に生活しているらしい。コピヤは生活のために必要なもののようだった。 働くのがすむと、ぼくは食事が必要ないので、駐車場に停めてある車のまわりをぶらぶらして、彼らの食事をすむのを待つことにした。 店の裏手にまわると、そこには、ぼくがいた。 ぼくそっくりのぼく。つまり別のコピヤだ。たぶん店にきたお客のコピヤではなくて、この店のコピヤだろう。みな同じなので、証拠をしめすのは難しいが。彼は、店の裏にある、黄色い花に水をやっていた。彼岸花に似た花だ。 自分そっくりの別人が何人も目の前にいるというのは、奇妙なものだ。いずれは、彼らと話をしてみたい。でも、今はとてもそんな勇気はない。 彼を無視して、もっと奥のほうへまわると、店の店長だろうか?お勝手から外へでて、タバコを吸って休憩をしていた。「ああ、おまえか」 店長は、たぶん、彼とぼくを取り違えていたのだろう。それくらいぼくらは似ていたから。ぼくは黙って、彼のそばに腰をおろした。そして彼の話を聞いた。 彼は、三十一歳の時に今まで勤めていた会社を辞めた。 同僚や上司の姿をみるにつけ、このまま勤めていても、彼の期待するような人生の変化は望めないと思ったからだった。たとえ、彼自身が、自分の期待が何かとは具体的にこたえられないにしても。 退社前の五年間、仕事が終わると、料理学校で料理の腕を磨いた。退社後は、今まで貯金したお金で世界中を旅行して、各国の料理を食べ、調理法の研究をした。 そしてついに、彼は自分の店をかまえることになった。 それは、彼にとって新しい生活だった。朝早く起きて電車で出勤する代わりに、夕方に起きて自転車で店に向かった。途中、材料の買い出しをして、夜八時から店を開いた。 お酒と簡単な食事。そして、特別メニュ-は、食べた人が幸福になるという謳い文句のカレ-ライスだ。 実際、このカレ-ライスは効果があるという評判であった。 食べた後、不思議な力がわいてきて、困難な仕事や複雑な人間関係が、魔法を使ったかのように解決するのであった。「しかし、そんな効果があったのは、チエ-ン店にする前の話です」「カレ-においしさの他に何を求めるのです?見てください。あの4人の、カレーを食べている顔。あんなに嬉しそう。ぼくは味がわからないのだけど、きっとおいしくて、今彼らは幸せに違いない」 ぼくらは、勝手口の外から、わずかにみえる店内の方を指差して言った。「ありがとう。君はいいやつだ」 そう。たとえ、どんな悪い状況でも、体が温かくておなかがいっぱいなら、人生悪くないと思えるものだ。
2007年01月01日
コメント(1)
全26件 (26件中 1-26件目)
1
![]()

![]()