spiritual wave

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Nさんのこと


バイト先(レストラン)では高校生とパートのおばちゃんが大半を占めていたから、大学生・短大生の私たちはマイナーだった。とはいえ、みんな仲良く仕事してた。
私は基本的に週末だけバイト。Nさんは下宿してたし、大学も近所だったせいもあって、結構な時間数働いてた。

ある日曜日。バイトの後に1時間位だけお茶しようってNさんのバイクの後ろにまたがり、二人で近所のファミレスに行った。

その頃、Nさんには下宿に同居している彼女がいて、その生活には満足だった。
私にも彼がいたし、それなりに幸せだった。

しばらくの間バイト先のこととか、バイクの話(私は中免を取るために教習所に通ってた)をしてたけど、お互い黙り込んでしまった。

『ホントは言いたいことがあるんだけど、言えない』Nさんがぽろっと言った。
実は私も言いたいことがあった。私の中にはほんのり温かい気持ちがあって、そのことをNさんに言いたくてたまらなかった。ガマンしてたら爆発しちゃいそうにも思えた。
『私も言いたいことがあるんだけど、、、』
『何が言いたいのか、わかるよ。オレもおんなじこと考えてるから』
『え、ホント?』
『うん。だから、言わないでいいよ。今の状態を壊そうとも思わないし。。。言わないでおこう』

言わないでも解っちゃったの?
おんなじこと考えてるの?
なんだか、そう解っただけで、嬉しかった。

温かい気持ちに包まれながらバイクで家まで送ってもらった。


翌日の月曜日。高校生達が2学期の中間テストの週なので、普段はウィークデーは仕事をしない私もピンチヒッターとして、月曜の夕方のシフトにはいることになった。

時間にはうるさいNさん。Nさんは普段月曜は授業のあとバイト。一度も出勤時間に遅れたことが無いのに出勤時間20分過ぎても、出勤してこない。
みんなもちょっと気になって、
『バイク、パンクかな?』
『Nのヤツ、彼女といちゃいちゃしてるんじゃないのぉ?』
『そのうち来るだろ』

と、電話が鳴った。私がとった。
『○○警察です。責任者の方、お願いします』

え?ケイサツ?

死んじゃったー。私は頭の中で叫んだ。

警察の人は私にはNさんの名前すら言わなかったけど、何も聞かなくても、なぜか私にはその電話はNさんになにかが起こって、死んでしまったと解ってしまった。

電話をかわった副店長はしばらく警察の人と話しをして、電話を切った。
『なんか、Nのヤツ、バイクで事故って入院したみたいだけど、大丈夫らしいよ。ちょっと見舞いに行ってくる。』

え?大丈夫なの?ホント?嘘ついてない?信じていいの?

仕事が終わってから私たちも御見舞いに行きたいと店長に言ったが、『時間外でもう面会できないだろうから、昼間行けばいいよ』と言われてしまった。

昨日はバイクで二人乗りした道を一人で帰った。
家に着いた途端、緊張が解け、私は土間で泣き崩れてしまった。


翌日になってわかったことだけれど、Nさんはバイクでバイト先に出勤中に事故に遭った。急カーブの坂道で反対車線からきた大型トラックが車線を大幅にはみ出したのだった。
Nさんは、ほぼ即死。ヘルメットをかぶっていて顔面・頭部には損傷が無く内臓はぐちゃぐちゃだったけれど、外傷はなかったと。

ショックから立ち直るまで、かなりかかった。
きっと同居してた彼女はもっとショックだったろう。

Nさんが私に言おうとしてたのは、お別れの言葉だったのだろうか。
それとも。。。


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