PR
コメント新着
New!
ナイト1960さん
New!
MoMo太郎009さん
New!
千菊丸2151さん
クラッチハニーさんカテゴリ
2) 決められないまま・・
あれから、何度となく「 F・L 社」からメールが送られて来る。
「タイプ、グレード等お決まりになりましたら、ご一報くださいませ。標準をお望みでしたら、注文ボタンをクリックしてください」
まだ、どうしても決めることができない。
そして今日もPCの画面を見ながら、「パソコン、スタンバイ」 ぼくの声にだけ反応する音
声認識システムが作動し、不必要なファイルが自動的に削除されると、画面が暗くなる。
ヘッドレストに頭をあずけて目を閉じる。
「メインウインドウ・クリア」
軽やかな電子音が鳴って目の前の壁の約10平方mほどが少しずつ色を失ってゆく。
あわててぼくは「クリアレベル5」と付け加えた。ゆっくりと目蓋を開く・・・窓は夕暮れ時程
度に遮光してくれているが、太陽はかなりの高みにあるのがわかる。再び目を閉じて、
「クリア・オール」 (クリアと言っても紫外線は30%カットされているので視覚機能
を損なうことはない)ほんの2~3秒で窓は陽光の浸入をほとんど許した。
ぼくはゆっくり目蓋を開ける。いい天気だ。まだ少しだけ温かいコーヒーを飲み干すとデス
クチェアを半回転させて立ち上がり、薄手のジャケットを着る。
予定どおり、神田の古本屋へ出かける気になれた。
22世紀を半ば過ぎたこの時代は、21世紀末に生まれた人たちでさえ、書籍はほとんど
Web上のサイトから選んでeBookで読む。
でも、ぼくはどうもあれは好きになれない。本を読んだ気分になれないのだ。
だからぼくは、わざわざこの神田エリアまで足を運び、アナログな紙媒体の本つまり印刷
されたページを直に指でめくりながら読書する。絶対この方が楽しいし、正しいと思う・・・
他の人がどうであれ、ぼくはこうでなければ読んだ気がしない。
とはいえ、普段に読む本は化学繊維で作られた安価なもの・・・丈夫だし、水に濡れても水
滴を弾くから長持ちする。
けれど、今日ぼくが手に入れようとしてているのは、本物の紙にインクで印刷された本物
の『本』なんだ! 夢のようだ・・・
今、ぼくは唯のこと忘れてた?なんてことだ!僅かな時間だけど、忘れてたなんて、ぼくは泣きそうになった。
(ごめんよ、唯、ぼくの脳の奴が勝手なことをして、でもぼくの心は決して君から離れてい
ないからね・・・) こんな言い訳を自らの心のうちにするって、ぼくはすでに病んでいるの
か・・・
けれど古本屋の店内に入ると、直ぐにまた本のこと以外忘れてしまっている・・・さらに店
の奥に進むと、ぼくの目は釘付けにされた。それは一際目立つコーナーにある頑丈そうな
ガラスケースの中にあった。
50センチ手前に警備ロボットが仁王立ちに立ちふさがる隙間から見つけた本物の本!
価格は知っていたが、やはりすごく高い。
幼・児童対象の絵本が5万円から10万円。 小説の単行本だと、表紙を化学繊維で修復
したもので50万円から。
ぼくは店員に声をかけながら手にした会員カードを見せると
「昨日予約した杉山浩次ですが」 とぼくの名前を告げた。
受け取った店員の笑顔が緊張したものになる。
「あ、杉山様でいらっしゃいますね、お待ち申しておりました。どうぞこちらへ」
奥のカウンターに案内されてぼくが見たのは、保存状態ランクAの一冊の単行本だった!
昨夜のうちにネットバンクで支払いを済ませていたので、一通り外見を調べいくらかペー
ジをめくってみて、しっかりした本物と確信したぼくが頷くと店員はその単行本を丁寧にパ
ッキングして、ぼくに渡してくれた。
「この度はお買い上げいただき誠にありがとうございました。また掘り出し物がありました
らお知らせいたします」
慇懃な物腰で店員はそう言いながらぼくを店の入り口まで送ってくれた。それもその筈
で、ぼくが買った本の価格、なんと250万円也!ちょっと前なら素通りしていたコーナーの
一級品である。
高価だけれど、この本がこれから、ぼくの心を癒してくれるかけがえのない一冊となるの
だった。
つづく
奇跡の4B 最終回 Hello, & Goodbye ♪ 2019.08.25 コメント(8)
奇跡の4B 最終章 会えば必ず来る時 2019.07.16 コメント(26)
奇跡の4B キャバーンクラブ 2019.05.06 コメント(98)