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「え、どうして、それを?」
「聞こえたわよ、さっき了に相談してたでしょ」
「そうか、聞こえてたんだ・・・」
「ええ、そうよ」
「でも、どうしてだめなのかな・・・おばさんの」
「それ、本気で聞いてるの?」
「美季、それはまた・・・」 横から了が口を挿んだ。
「了!なに言ってるの?このことについては何度もふたりで話して
決めたことでしょ!」
立ち上がりかけていた了がまた腰を下ろす。
「浩次、あなたは唯のこと、アンドロイドを唯の代わりに買うって
そういうふうに心が決まるまで悩み苦しんだ、そうでしょ」
「ああ、そうだ苦しかった・・・」
「それならわたしたちの気持ちもわかってよ!
私が、了だって同じ、悩まなかったって思う?
本物の唯じゃなくったって・・・
そっくりなアンドロイドを目の前にして・・・
ちゃんと受け止められるのだろうか、どうなんだろうって・・・
悩まなかったって、そう思うの!?」
それまで、美季の言葉に圧倒され、彼女から目をそらすことが
出来ずにいた浩次が、また俯いた・・・
ここで彼のために一言、
浩次は昔からこんなに涙脆かったわけじゃない。
唯のことが大好きで愛しくて・・・彼は唯を失ってから
言葉を忘れたかのように無口になり、
そっと肩を震わせるようになった。
その肩をそっと優しく抱いて美季は先を続けた。
「あなたの話だと、小学校からの唯が録画されたディスクを
見せてあげると、そのアンドロイドは唯の笑い方、
話し方、声のトーン、・・・髪の掻き揚げ方、とにかく
唯の思考傾向まで、なにから何まで再現できるわけでしょ?
そこで私たち思ったの、唯とお母さんとは、どうやって
向かい合い、どんな話しをするの?」
そこまで深く考えたことのない浩次は、がくぜんとした。
(たしかに、唯は映像から情報を取り入れて
ボクとも会話を楽しむことはできるようになるだろう・・・
しかし、お母さんの記憶は、大地震のあと襲った津波に
家ごと流されて何一つ残ってない・・・
唯との楽しい会話など、とても再現できやしない・・・
実季の言うとおりだったんだ!それなのに俺は・・・)
「浩次・・・」
浩次は美季と了にすまないと思っていた、それでもなお
彼女は無二の親友、唯のことを愛してくれた浩次の心に
深い傷があるのを知って、少しでも和らげようと、優しい
気持ちの中からしか出るはずのない声で語りかけたのだ。
しかし・・・
浩次は顔を上げ、無理してこしらえた笑みを二人に見せて
「ありがとう美季、了、二人に相談しなかったら、愚かな悲劇を
つくり出してしまうところだった・・・ありがとう」
「浩次!わかってくれたのね!」
了がそっと近づき、美季の肩を抱くと、振り返った美季は、
安心しきった笑顔を見せた。
ふたりの様子を嬉しそうに見て、浩次は腰を上げる。
海に面した窓に浩次が歩み寄る。
途中、一度立ち止まり振り返った浩次が言った。
「了、美季を大事にしろよ」それだけ言うと再び窓に向う
いつもならポンポン威勢のいい声で応じる了だけれど、この時は
違っていた。
「ああ、そうするさ、まかしとけ」
美季は彼女の肩に廻された了の腕に頬を預け、元気を取り戻した浩次
の後ろ姿の隣りに、誰かが、うれしそうに寄り添う姿を見た・・・あれは・・・
「唯?・・・」
頭の上から了が言う
「ん、どうした?」
「なんでもない」
美季が顔を横に振り、了の鼻先で柔らかな髪が揺れた。
浩次は、少しだけ開いていた窓をさらに大きく開けて
一人海を眺めている・・・そして浩次は、唐突に声を張りあげた
通りをへだてた向こうに広がる海に向って
「おーい! 唯ー! いつかまたあの公園で 絶対見つけるからなー!
待ってろよー!」
人通りのなくなった通りを越えて、海の向こうまで届きそうな声だった。
部屋から見ていた二人は
「もう、浩次ったら・・・」
「そうだよな」
「一日に何度も・・・」
「泣かせやがって・・・馬鹿やろう・・・」
そこへ浩次の駄目押し、これはうしろの二人に聞こえるほどの声で
「ほんとは・・・いま 『帰ってきて欲しい』 ・・・・・」
奇跡の4B 最終回 Hello, & Goodbye ♪ 2019.08.25 コメント(8)
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