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ある夏の日に 並列東京へ6
「豪進丸」はその名に似て豪快に波を蹴立てて、出てきた漁港へ引き返した。
代々漁を生業として今に至る村上家の船の係留場所は、昔から決められ
た位置にある。
「豪進丸」は湾内に入ると一気に減速し、向きを定めるとイサムは古タ
イヤを張りつけた舳先と護岸に絶妙な間を開けて船を止めると、岸の上に
飛び移った。
船が波に押されて岸壁に衝突しないのは、イサムが事前に艫(とも:船尾の
意)から投げ入れていたアンカー(錨:いかり)が、適度な位置の海底に沈み
重しとなって豪進丸を引きとめているからだ。
頑丈な杭にロープで船を繋ぎ止め顔を上げたイサムに勇一は親指を立てて見せた。イサムは家に向かって走り去る。
30分後、大岩底の海上に「豪進丸」が漂っている。船には後輩の漁師を一人見張らせておいて、勇一とイサムは海中へダイブした。
(帰ってきた・・魚たちが驚いて四散した。お!あのウニ、後で頂いとくかな・・・やっぱり海はいいな、俺たちの海だ・・・)
イサムが予備の酸素ボンベを大岩底の横穴の入口脇に固定しているのを他人ごとのように眺めながら久しぶりの海中散歩を楽しんでいた。
おお!という声がして、そちらを見た。本当は水深10メートルの海の中で声など聞こえるはずがないのだが、勇一は確かに聞いた。
(イサムのやつ、テレパシー使えるんじゃ・・・)
イサムがこちらを見て手招きしている。
イサムの肩に手を置くと、見てみろ!と言わんばかりに大岩底の横穴の中を指差し、勇一から見えるように身体を横にした。
(おおー!すげえ~サザエの海底牧場ずら―!)
イサムを振り返った勇一の目がそう言ってるように見えた。
すべてを獲ることはできなかったが、船の海水槽にいれたサザエの数は・・・・・・なんと・・・37個!
後輩の友夫が気を利かせて、炭焼きバーベキューセットを持参していた!
波があれば岩場に上がるが、今日はベタ凪ぎだ!コンロの脚をたためば
船の上でも大丈夫、さて準備完了!
サザエを金網の上に並べる・・・蓋が開いた!そこへバターと醤油を注
ぎ込む!
醤油の香りとバターの風味が溶け合ってたまらない!止まらない!
「美味い!」「美味い!」を連発して船倉で冷やしていたビールを喉に流し込んでいく。
「そうだ、ヨーコちゃんにも食わせてやらなきゃな!残しと・・・け・よ」
いつの間にか押し黙って目を瞬かせている勇一に気づいたイサムは、
「心配するな、まだ30個くらいは残って・・・」
「そうじゃねえよ・・・お前、ヨーコに会ったのか?」
「え、お前ら一緒に来てたんじゃなかったのか!」
「はずれだ!大外れだ、昨日から見失ってしまって・・・まさかここに」
「そうだったのか!すまん!」つい、イサムは両手を合わせて詫びた。
後輩の友夫は、先輩たちの顔を交互に見やりそわそわしている。
何しろ友夫の高校時代、4人集まれば近隣の高校生や多少やんちゃなお兄
さん達もよけて通る、そんな4人のうちの2人が目の前で片やあやまり、
もう一方はまゆ毛を吊り上げているのだ!
勇一は吊り上がっていた眉と怒らせていた肩を下げた。
「お前のせいじゃなかったな、すまんが引き返してくれるか」
「お、おお!そうだな、友夫!アンカーを上げろ、超特急で港に戻るぞ!」
「は、はい!」
友夫は返事をすると、足取り素早く船の艫へ向かった。いつもの陽気な友夫に戻っている。大好きだけどおっかない先輩たちの機嫌が直ったからだ。
今日の好きな曲は、The Beatles-IFeel Fine です。
Ph4tE92, Thanks for up!
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