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「あの梅の木は」 第 8 話
「俺はここで待ってるから」
裕也が指さしたのは、中野と杉並の区堺に沿って曲がるその角、
つまりは石橋豆腐店の角が見える児童公園のベンチだった。
「わかった・『伊藤ハムの太いソーセージ状のハンバーグ』を
下さい、でいいのよね?」
「うん、それでいい。悪いけど頼む」
頷いた香織は道の向こう側に渡り、やがて石橋豆腐店の角を曲がった。
待つこと約10分、手提げの買い物袋を下げた香織が道の両側を
確認しながら道を渡り、歩道を進み公園に入って来た。
一目でご機嫌斜めだとわかる顔つきだ。
「よ、悪かったねえ、まあこれでも飲んで」
裕也は待ってる間に近くの自販機で買ったコーラを差し出した。
香織は手にしていた手提げを裕也に預けてコーラを受け取ると、
ゴクゴク喉を鳴らして500ミリの半分近くまで飲んでしまった。
「おー、豪快だねえ」
「誰かさんのお陰でねー!すっごい喉渇いた、フー・・・」
「はいはい、ほんと悪かった。で、どうだった反応は?」
「結構引いてたよおばさん。それからご主人に『また伊藤ハムの
ハンバーグだって、うちで扱ったこと無いのにねえ』って怪訝な顔
されちゃったよー、先にお母さんから頼まれた分を注文しとくん
だったよ~」
「やっぱりなあ、そうかーやっぱり・・・」
「ねえ聞いてる?」
「あ、わるい、聞いてるよもちろん。俺ん時と同じだやっぱりな」
「何がやっぱりなの?ちゃんと説明してよね」
「うん、あれだよ『桜の木と梅の木』の『伊藤ハムのハンバーグ』
バージョンってことなんだよ」
「えー、木の場合は桜と梅の2種類だけど、今日のは『伊藤ハム
のハンバーグ』だけじゃない。どう同じなのよ」
「簡単だろ、香織んちの庭に桜の時は売ってあって、梅のときは
売るどころか扱ったことも無いっていう、『有る無しバージョン』
ってことさ」
「裕也・・・」
「何?」
「あんた簡単に言ってるけど、それってもう世界がここだけじゃない
って、一つだけじゃないって認めちゃってるってことになるんだよ、
それ分かって言ってる?」
「勿論さ・・・そうなるだろ?」
「ちゃんとあたしの目を見て言って」
裕也は目に力を込めて
「それしか考えられないだろ」
「本気だ、こいつ・・・」
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