★モイラの名画座★

< 新しい記事

新着記事一覧(全1143件)

過去の記事 >

2007.02.26

哀しき殺人鬼★「モンスター」

(8)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

連続殺人鬼を主人公にした映画、実際にあった連続・猟奇殺人事件をもとに作られた映画は、国内外に数々あれど、
この作品ほど、作り手の主人公への思い入れが強い映画は、観たことがありません。
その作品とは、パティ・ジェンキンス監督・脚本、シャーリーズ・セロン主演の
「モンスター」

【中古】モンスター【DVD】／シャーリーズ・セロンDVD／洋画サスペンス

８歳で父親の知り合いの男にレイプされ、
10代前半で弟や妹たちを食べさせるために、売春婦となったアイリーン・ウオーノス。
ヒッチハイクで男の車に乗り、身体を売り、客の男との金銭トラブル、暴力沙汰などの修羅場は数知れず。
ねぐらは倉庫。男に弄ばれた身体を洗うのは、ドライブインのトイレ。
そんなすさみきった生活に、アイリーンは心底疲れ果て、
ピストル自殺を考えていた時、偶然立ち寄ったバーで、セルビー（クリスティーナ・リッチ）という若い娘と知り合う。
友だちもなく、自分の居場所すらない孤独なセルビーに、アイリーンは自分と同じ匂いを嗅ぎとり、彼女に積極的に近づく。
セルビーはアイリーンを売春婦と知りながらも、彼女とどこか相通じるものを感じ取り、
二人はやがて親密な間柄になる。
同性だが、初めて自分を売春婦と蔑まず、愛してくれるセルビーと、ずっと一緒に暮らしたい‥‥そう切望するアイリーン。
彼女はこれまでの人生で、男はおろか、実の親からも愛されたことはなかった。このセルビーとの愛を、絶対に手放したくない‥‥！
しかし、セルビーとの同棲生活には、金がいる‥‥！

そんな時、アイリーンは客の男から変態プレイを強要され、
恐怖の真っ只中、正当防衛的に男を射殺する。
そして殺した男の金を奪い、セルビーとの同棲生活の費用にあてる。
アイリーンはセルビーの愛に真摯に応えるため、本気で売春から足を洗おうともするが、誰も彼女を雇ってくれず、やむなくまた通りに立ち、男の車をヒッチする。
売春婦と見下し、犬畜生のように扱う男の相手をすると、彼女は底知れぬ怒りを覚え、気がつけば、ピストルの引き金を引いて相手を‥‥！
そのあと、殺した男の金と車を奪うのだ‥‥

ところが‥‥警察が動き出し、アイリーンの似顔絵がテレビのニュースに出るようになると、セルビーは不安のどん底に‥‥
そして、アイリーンは立ち寄ったバーで、あっさり逮捕される‥‥

モイラの耳の奥には、死刑判決を受けた直後の、裁判官や陪審員へのアイリーンの叫びが、こびりついています。
「あんたたちはレイプされた女を死刑にするのか！」
このアイリーンの悲痛な叫びこそ、ジェンキンス監督と、製作にも携わったシャーリーズ・セロンが観客に最も訴えかけたかったものでしょう。
アイリーン・ウオーノスは、2002年10月に処刑されたのですが、
もし少女時代の彼女の底知れぬ苦悩、孤独、疎外感、真実の愛への渇望を知り、
「君に罪はない」と言ってくれる大人がひとりでもいたら、
彼女は何人もの男性に弾丸を何発も撃ち込むようなことは、しなかったでしょう。

現在、アメリカでは売春などの性的逸脱行為に走る人（セックス依存症患者）の心のケア、
彼らの自助グループ活動なども盛んで、「性的逸脱に悩んでいませんか？」というクリニック、自助グループなどの広告が、
ごく普通の雑誌や新聞などに載っているそうですね。
売春などの性的逸脱行為が、やがて凶悪犯罪につながりかねないことを、
アメリカという国は身をもって知り、そういう犯罪を少しでも減らそうと努力しているようです。
日本はそういう点では、まだ全然後進国ですね。

おっと、話が映画からちょっとはずれましたね。
パティ・ジェンキンスは本作品で初めてメガホンをとったそうですが、
とても初監督とは思えぬほど、きめの細かい、それでいてどこか乾いたタッチの演出が、さえてましたね！
主演のシャーリーズ・セロンもすごい！役作りのために贅肉をつけ、ブサイクの上にすさんで見せるためのメイクを研究したのですから‥‥
アカデミー最優秀主演女優賞をとったのも、頷けます。

そうそう、アカデミーと言えば‥‥菊池凛子さん、残念でしたね。モイラ、期待してたんですけど‥‥