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2007.02.25

母親が女になるとき…★「影の車」

(2)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

どこにでもいるごく普通の、犯罪とは全く無縁だった人間が、ほんのちょっとしたきっかけで日常生活から逸脱した行為に走り、気がついたら、取り返しのつかぬ罪の泥沼にはまってしまっていた…
日本の推理小説界の巨匠・松本清張が得意とする、ストーリー展開ですね。
その清張の傑作短編「潜在光景」を、見事に映画化したのが、野村芳太郎監督の「影の車」 ('70年　松竹）です！

影の車/岩下志麻[DVD]【返品種別A】

旅行案内所に勤める浜島（加藤剛）は、通勤のバスの中で偶然、幼なじみの泰子（岩下志麻）と再会。
泰子は夫に先立たれ、保険のセールスレディとして働きながら、６歳の息子健一と東京郊外の小さな一軒家で暮らしていた。
浜島には妻（小川真由美）がいるが、友だちづきあいや習い事に夢中の妻とは、倦怠期を迎えていた。
女手ひとつで子どもを育て、日々の生活と闘いながらも、女のたしなみや美しさを失わない泰子に、浜島は次第に惹かれ、
未亡人ゆえ、女としての寂しさを夜毎噛みしめていた泰子も、浜島を一人の男として見るようになる。
二人はほどなく、男と女の関係になり、浜島は頻繁に泰子の家を訪ねるようになるが、
彼女の息子・健一が自分に全くなつかないのが、気になり始める。
健一は浜島をあからさまに嫌うそぶりを見せるわけではないが、
瞳の奥に、底知れぬ憎悪のようなものを感じ取るのだ。
「この子は母親をほかの男にとられることを、恐れている…この子は俺が夜、この家に来て、母親を女に変貌させることを、嫌悪している…！」
浜島は、自分は健一から憎まれていると思い込み、いつか健一に殺されるのではないかという妄想を抱き始めるのだった…！
そして、恐ろしい妄想にとらわれて次第に常軌を逸した浜島は、罪の深い穴に堕ち、
さらに、彼が長年封印していた過去の罪まであばかれるはめに…！

主人公・浜島の心理描写が、思わずうなるほど巧みに描かれています。
浜島の少年時代の回想が時々入り、それがやや唐突な感も否めず、ナレーションがあまり上手ではないのが気になりましたが、
退屈な日常からちょっとだけ逸脱し、それを楽しもうとした普通の人間が、やがて罪の深みにはまってゆく心情が、観客にもひしひしと伝わってきましたね。
６歳の少年の中に自分への「敵意」「殺意」を感じ取り、身体の底から怯えるいい年の男を、加藤剛がそれは上手に演じています。
少年にネコイラズ入りの饅頭（？）を食べさせられたと思い込んで、苦しみ悶えるさまは見ものでした！咳き込む加藤剛のまわりをチョロチョロ這い回るネズミたちも、めっちゃ不気味で、映像的効果抜群！
でも、それよりもっと不気味だったのが健一です！
あの加藤剛を見る時の、氷のような冷たい目つき…
一つ一つのしぐさの可愛げのなさ…よくもまあ、こんな可愛くない子どもを起用した野村監督の慧眼に乾杯です！
そして…モイラが目を見張ったのは、加藤剛と岩下志麻の濡れ場。
岩下志麻の唇や舌の動き、寄せた眉根、乱れた髪、ため息… それはもう妖艶そのものです…
日本の女優の中で、彼女ほど濡れ場を上手に、女性から見ても美しく演じられる人はいないと、モイラは思っています。

後味悪いことこの上ない作品ですが、父親をなくして、母親の手ひとつで育てられている男の子というのは、
自分がある種、母親の「夫」のような気負いがあって、
母子の間にほかの男の介入を許さない、ましてや、
母親がほかの男によって女になる瞬間など、絶対見たくない…
そう思うんでしょうね…
モイラの男友だちにも、中２の時に、未亡人だったお母さんに恋人ができて、
その男性が夜、頻繁に家に来るのが、いやでいやでたまらなかったという人がいます。
男の子というのはやっぱり、母親が女になることを許せないものなのでしょうかね…

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