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2007.03.01

悲恋の舞★「ガス人間第一号」

(4)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

日本の特撮の第一人者・円谷英二氏
1960年（昭和35年）公開の「ガス人間第一号」　（東宝）は、円谷特撮映画の中でも異色と言えるかもしれません。

ガス人間第1号

都内各地で連続銀行強盗事件が発生し、行員や警備員が謎の窒息死をする。
警察は犯人の車を追うが、犯人は煙のように姿を消してしまう。
犯人が姿を消した現場のほど近くには、古びた屋敷があり、
その広間には美しく、一心不乱に舞を舞う般若の面の女が‥‥
女は日舞の家元・春日藤千代（八千草薫）。かつては数多くの弟子を抱えていたが、
今や没落し、舞踊発表会を開く資金さえもないと巷で噂されている。
ところがその藤千代が、近々新作舞踊の発表会を大々的に行なうと言い、
さらには、彼女が銀行から奪われた一万円札を持っていたことが判明！
警察は藤千代を逮捕、拘留するが、その矢先、水野（土屋嘉男）という男が、「自分が連続強盗事件の真犯人だ」と名乗り出る。
刑事たちが半信半疑で水野を現場検証に連れて行き、密室状態の銀行の金庫に、鍵もなくどうやって侵入し、金を奪ったあと、また鍵をかけて出たのかと訊ねると‥‥
薄笑いを浮かべた水野の顔が徐々に半透明状態となり、やがて全身が気体化し、ずるずる、ゆらゆらと金庫の鉄の扉の下側から中へ‥‥
水野は、恐怖のガス人間だったのだ‥‥！

「ゴジラ」シリーズや「地球防衛軍」などのSFもの、戦争映画にいつも登場する精巧なミニチュア・セットは、この作品には出てきません。
特撮の使用は、水野が気体化する場面だけ。円谷センセには悪いけど、たいした特撮ではありません。
しかし‥‥ ガス人間水野と、藤千代の哀しい恋の物語が、観る人の胸をうちます！
平凡な図書館の職員・水野が、かつてパイロットになりたかった夢を捨てきれず、
「どんな飛行物体にも耐えうる身体に変えてやる」という科学者の誘いに乗って、自ら人体実験の被験者となったばかりに、
ガス人間という不気味な怪物になってしまう‥‥これだけでも悲劇なのに、
普通の人間ではなくなってしまったことを嘆き悲しみながらも、自分がいつ何時でも気体となり、どこにでも侵入でき、いとも簡単に人を窒息死させる能力を持つことを知ってしまった水野が、
愛する藤千代のために、彼女が発表会を開くための金を銀行から盗むようになり、何人もの犠牲者が出ることで、むしろ藤千代を悲しませる‥‥
藤千代は水野が普通の人間ではないことを薄々知りながらも、彼の一途で無償の愛を受け止め、彼のために最高の舞を舞おうと、一心不乱に稽古をし、
発表会では、水野一人のために、神々しいまでに美しく、哀しい悲恋の舞を披露する‥‥

八千草薫さん、楚々とした中にもぞっとするような妖気を感じる美しさを出していましたね。
笑顔のよく似合う女優さんですが、この映画ではただの一度も笑わず、ひたすら寂しげで、それでいて凛として、なんといっても気品がありました。
それに、さすがは宝塚出身。日舞もお上手！
彼女に無償の愛をささげる水野を演じた土屋嘉男も、すばらしい！
三橋達也の刑事と、佐多契子演じる、ちょっとはねっかえりの女性新聞記者の会話のやりとりも、なかなかおしゃれというか、味がありました。
ただ、三橋達也はちょっと地味すぎましたね。あの刑事役は宝田明がやったほうが、よかったような気もします。

この映画、ラストが壮絶ですよ‥‥
まあ観てのお楽しみ！

★もっと円谷英二！★