★モイラの名画座★

< 新しい記事

新着記事一覧(全1143件)

過去の記事 >

2007.03.08

日本初の70ミリ映画！★「釈迦」（1961年　大映）

(4)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

1961年（昭和36年）、永田大映はハリウッドの70ミリ大作「ベン・ハー」の興行的大成功にあやかりたくてか、
日本で初めて、70ミリ映画の大作を作りました！
それが、監督・三隅研次、脚本・八尋不二
そして、大映豪華オールスターキャストを投じた「釈迦」です！

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

釈迦 [DVD]
価格：1,876円（税込、送料別) (2023/5/8時点)

楽天で購入

題名通り、仏教の創始者・釈迦（仏陀）の生涯を描いた作品ですが、
仏教書や仏典には（おそらく）出てこない釈迦の宿敵・ダイバ・ダッタ（勝新太郎）という悪役を登場させたり、
古代インドの伝説や寓話を織り交ぜたりで、抹香臭くは仕上がっていません。
これはあくまでモイラの想像ですが、日蓮宗の熱心な信者だった永田雅一氏は、キリスト教を題材にした「ベン・ハー」の成功を見て、
「アメリカがキリストなら、こっちは釈迦だあ！見てろ、『ベン・ハー』に負けない大スペクタクル映画を作ってやる！」とでも思ったのでしょうね。
のちに仏陀となるシッダルタ王子（本郷功次郎）が生まれ育った絢爛豪華な宮殿のセット‥‥
その宮殿で繰り広げられる美しい宴の模様‥‥
数多くの男女が、いけにえとして燃え盛る火の中に投げ込まれる様子‥‥
のちにシッダルタが出家し、悟りを開き、教えを説き、それが為政者の反感を買い、
僧たちが象に踏み殺されるという、残酷な公開処刑‥‥
セットにかなりのお金をかけ、ものすごい数のエキストラを動員し、
なるほど‥‥確かにスペクタクル映画の形をとっています。

注目すべきは、超豪華なキャスト陣！
当時、大映の若手スターだった本郷功次郎をはじめ、勝新太郎、
市川雷蔵、川崎敬三、川口浩、中村雁治郎、東野英治郎、千秋実、千田是也‥‥　
女優陣は、山本富士子、中村玉緒、叶順子、京マチ子、月丘夢路、杉村春子、山田五十鈴 ‥‥
まったく、ため息が出るようなキャスティングですね‥‥

シッダルタ王子が出家して仏陀となったあとが、ちょっと気になりましたね。
仏陀とは「真理を知る人」の意。つまりは神ではなく、人間なのだから、
もう少し人間臭いところがあったと思うんですが、
本郷功次郎の仏陀は、もろ「天空の神」という感じで、面白味に欠けていましたね。
モイラには、本筋の仏陀の生涯よりも、サブストーリーのインド古代の寓話のほうが面白く観られました。
若い継母（月丘夢路）に言い寄られ、拒絶した王子（市川雷蔵）が、
逆恨みされて、王である父に「息子に犯された！」と嘘を言われ、
王の逆鱗に触れて、罪人を送り込む深い谷に追放され、両目までつぶされるという
とてつもない艱難辛苦を味わう物語‥‥
これとよく似た（というより、ほとんど同じ）エピソードが、旧約聖書の創世記（ヨセフの物語）や、ギリシャ悲劇（ソフォクレスの「ヒッポリュトス」）にもありますよね。
人間というのはまったく、国や人種が違っても、同じようなことをするものだと、つくづく思いました。
日本でもよく知られている鬼子母神、インド名カリティ（山田五十鈴）の話も、出てきます。
人間の子どもを次々殺していたカリティが、自分の末の子を仏陀に連れて行かれて、狂ったように泣き喚いて探し回り、
「人間の母親も、わが子を取られた悲しみは、お前と同じだ」と仏陀に諭され、
自分が今までどれほど残酷なことをしてきたかを思い知らされ、改心する‥‥
カリティの悪行を罰せず、優しく諭すところが、仏陀の慈悲ですね。

全体的に大味な映画かもしれませんが、日本初の70ミリ映画という点だけでも、
一見の価値があるのではないでしょうか‥‥

★名匠・三隅研次の世界★