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2007.03.20

孤独な青年の密かな愉しみ★「十九歳の地図」

(2)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

毎朝毎夕やってくる新聞配達員。
多くはアルバイト学生ですが、その新聞配達員が家々に新聞を配りながら、
気に食わない家をチェックし、あとでいたずら電話をかける……こんなことが実際にあったら、こわいですね。
きょうご紹介するのは、そんな新聞配達員の物語「十九歳の地図」（'79年）です。

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十九歳の予備校生・吉岡まさる（本間優二）は、新聞販売所に住み込み、新聞配達のアルバイトをしている。
相部屋で寝起きをともにするのは、紺野（蟹江敬三）という、チンピラ崩れの大嘘つきのグズでダメな中年男。
そんな紺野との共同生活には心底うんざり。友だちもなく、受験勉強に身を入れることもできず、孤独と苛立ちを抱えた吉岡は、
新聞を配り歩く家々を、 ×（バツ）の数でランク分けするようになる。
吠える犬を飼っている家は、×２つ。集金に行っても支払いをしない会社員の家は、×５つ …といった具合に。
そのうえ彼は、×をつけた家に、公衆電話からいたずら電話をかける。
「お前んちに火イつけてやるぞ、この馬鹿野郎！」
そんな中、ふとしたことで出会うマリアという中年過ぎの、片足を引きずった醜い娼婦（沖山秀子）。
紺野はマリアに惚れ、崩れかかったような彼女のアパートの部屋に通っては、
「どういう具合に生きていったらいいのか、わからないなあ…」とうめきながら、
幼子のように彼女の太った身体に顔を埋める。
一方、吉岡の苛立ちと孤独はますます募り、彼は新聞を配る家々の地図を描き始め、
その家々に×をつけてゆく。
が、そんなことをしたって、陽のあたらない青春の日々は少しも変わらない。
苛立ちが沸点に到達した吉岡は、ついにガス会社に電話し、町のガスタンクを爆破すると脅迫する……！

貧しく屈折した孤独な青春を描いた映画は、古今東西、数多くありますが、
この「十九歳の地図」を観た時、モイラはマジで脳天をぶん殴られたようなショックを受けたものです。
それまでモイラは、どちらかと言えば娯楽作品を好み、
シリアスな作品や、観ていてどよ～んと落ち込むような作品は、避けて通っていたのです。
けれど、街角で本間優二が暗い顔で電話をしているこの映画のポスターを見かけた時、
なんだか知らないけど、妙にそのポスターにひきつけられ、
数十分後、催眠術にかかったようにふらふらと映画館に入っていたのです。（単館ロードショーでした）
そして… 冒頭から終盤まで、スクリーンに釘付け！
主人公を演じたずぶの素人の本間優二も良かったけど、それより良かったのは蟹江敬三と、沖山秀子！
社会の片隅でボロ布のように生きているダメ男と、何度自殺を試みてもしぶとく生きてしまう乞食同然の街娼。
柳町光男監督は、この二人を一見突き放したようでありながら、それでも「愛すべき人々」として描いているように、モイラには思えました。
あまり映画にとり上げられない東京の北部、滝野川をロケ地にした監督の慧眼、
孤独な十九歳が黙々と新聞配達をしながら走る描写、
見事な撮影…川べりにある今にもつぶれそうなポルノ映画館（大映のマークが描かれていたのが哀しい…）、マリアが住むおんぼろアパート、朝もやに煙るガスタンク、ガタゴトと眠そうな音をたてて走る路面電車…
そして何より、柳町監督の秀逸な演出とシナリオ！
モイラには、大大大ショックでした…!

映画を見終わったあとの感動に、浸りに浸りながら映画館を出たモイラは、
翌日、亡き父に宣言しました。
「私、本格的に映画の勉強したい。日大芸術学部映画学科を受験します！」

★もっと柳町光男監督!★