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2007.03.29

頽廃に満ちた美しさと残酷さ‥‥★「愛の嵐」

(6)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

第二次大戦後のナチスの残党の生き様を描いた映画は、数多くありますが、
1973年の女性監督リリアーナ・カヴァーニによるイタリア映画「愛の嵐」ほど、皮肉で、残酷で、退廃的で、それでいて幻想的なほど美しい作品を、モイラは他に知りません。

愛の嵐－無修正ノーカット完全版－

1957年、冬のウイーン。元ナチスの新鋭隊員だったマックス（ダーク･ボガード）は、
過去をひた隠しにして、ホテルのフロントマンとして働いていました。
そこへ、かつて収容所の囚人で、自分の倒錯した性の玩具として夜毎弄んだルチア（シャーロット・ランプリング）が、
今や新進気鋭の指揮者の妻として、ホテルに現れます。
マックスもルチアも思いがけぬ再会に愕然となり、
ルチアは一刻も早くウイーンから立ち去ろうと、夫を促すのですが、
夫は仕事の都合で、彼女をウイーンに置いてドイツに行ってしまいます。
ルチアにとってマックスは、まだ少女だった自分をいたぶり、レイプし、
歪んだ性愛の世界に導いた憎い男。
でも憎みながらも、心のどこかで彼を愛し、
その思いを、心の奥底で封印していたのです。
マックスもルチアをいたぶりながら、実は彼女を愛していて、「私のかわいい娘‥‥」と、収容所時代の彼女を思い出しては、涙にくれます。
20年前の倒錯した性愛の日々を思い出し、獣のように抱き合う二人。
ところが、ある夜、元新鋭隊員らが密かに集まり、マックスも呼び出され、
「自分たちの過去を知るルチアを、抹殺しなければならない」という意見が‥‥
マックスはルチアを自分のアパートにかくまいますが、常に周りから監視され、
食料品も買いに行けない有様‥‥
電気も消され、飢える中でも、マックスとルチアは倒錯した性愛の世界に耽溺し、
つかの間の快楽をむさぼりますが‥‥

冬のウイーンを頽廃的に撮っているのは、かの名作「第三の男」に似ていますが、
この「愛の嵐」は、それよりもっと頽廃的に描いていますね。
女性監督の視点ゆえか、収容所でマックスが少女のルチアをいたぶるシーンも、
野獣が獲物をむさぼるような描き方ではなく、変態的ではあるんだけれど、
どこか美しさを感じました。
圧巻はなんといっても、ルチアが親衛隊員たちの前で、サスペンダーのズボンをはき、
上半身はヌード、頭には親衛隊の帽子をかぶって、死んだような目で歌い、踊るシーン！
モイラの知人の男性たちは異口同音に、「あの上半身ヌードのポスターに、ゾクッときたよ」と言っていましたね。
マックスのアパートに監禁状態になり、極限状態になりつつも、倒錯した性愛をむさぼる二人の男女の姿には、
生物としての人間の本能‥‥みたいなものを、まざまざと見せつけられたように思います。
映画全篇に漂う頽廃と、倒錯した美に、拍手です！

★もっとリリアーナ・カヴァーニ監督！★