★モイラの名画座★

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2007.04.20

眠らない街★「天使の涙」

(6)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

なんの予備知識もなく、ポスターや看板につられてか、何の気なしにふらりと映画館に入ったけど、
その偶然観た映画に大きな感銘を受けた‥‥ なんて経験はありませんか？
モイラは結構ありますね。その「ふらりと映画館に→大感動！」の映画のひとつを、ご紹介します。'95年の香港映画です。

天使の涙　デジタル・リマスター版

香港の若い男女５人が織りなす、不思議なラブ・ストーリー。
孤独な殺し屋（レオン・ライ）は、エージェントの女（ミシェル・リー）からファックスで依頼を受け、仕事を請け負う。２人は互いに素性を知らない。
それでもエージェントの女は、いつしか殺し屋を好きになり、彼に会うことを切望する。
その殺し屋はある夜、ファーストフード店で、髪を黄色に染めた、不思議な雰囲気のある女（カレン・モク）に惚れられる。
一方、下町の安ホテルの主人の口がきけない息子（金城武）は、夜毎に商店街のシャッターを勝手に開け、店開きをするという奇行を繰り返し、
ひょんなことから失恋した女（チャーリー・ヤン）の慰め役をつとめるはめに‥‥

広東語の題名は「堕落天使」。
ストーリーらしいストーリーはなく、ただ５人の若い男女の恋とも呼べない「生態」のようなものを、それぞれのナレーションを入れて、淡々と描いた作品です。
凝ったカメラワークと、スローモーション、ストップモーションの使い方が効いていました。
そして何より、若い男女５人のそれぞれの個性が、光っていましたね。みんなそれぞれ魅力に溢れていました。
特に金城武のしぐさのひとつひとつは、抜群でしたね。
カレン・モクも、けたたましいけれど、男をひきつけずにはいられない不思議な魅力を放っていました。
ミシェル･リーも美しいけど、どこか寂しげで投げやりなところが良かったです。
ただ、登場人物がやたらタバコを吸うのが、ちょっと気になりました。なんか映画館まで煙たくなりそうで‥‥今なら眉をひそめられますよね。
それと、焼き鳥屋（居酒屋？）で、斉藤という日本人男性が出てくるけど、
彼がもっと何か主要人物にからんでくるかな～と思ったら、あっけなく消えてしまって、残念です‥‥
だけど、すばらしいですよ。監督ウオン・カーウアイの演出力は！
香港という夜も眠らない街が舞台というのが、またいいんです。
ごった煮のような、不思議なアジアン・テイストたっぷりの街で繰り広げられる殺戮、恋‥‥
地下鉄の通路やホーム、階段、下町の真上を轟音をあげて飛ぶ旅客機、ファーストフード店、ごちゃごちゃした商店街、漢字、ハングル文字の看板などが、非常に効果的に使われていましたね。
この映画はほとんと全篇、夜のシーンばかり。その香港の夜を、これほど上手に撮っている映画は、観たことがありません。

ふらりと映画館に入って、いい映画に出会えた時ほど、モイラは幸せを感じる瞬間はありません。