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2007.04.23

極上の美しさと恐ろしさ★「雨月物語」

(5)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

世界的にその名を知られる溝口健二監督は、失敗作も多かったですが、それを埋めて有り余るほどの傑作を世に残しました。
その傑作の金字塔とも言えるのが、ヴェネチア国際映画祭でサン・マルコ銀獅子賞に輝いた「雨月物語」（'53年　大映）ではないでしょうか‥‥

雨月物語（DVD)

時は戦国。陶芸工の源十郎（森雅之）は、戦乱に乗じて焼き物を売りに、戦火をくぐり抜けて町に出て、いつも妻の宮木（田中絹代）を心配させていた。
また、隣家に住む義弟の藤兵衛（小沢栄太郎）は、戦に出て立身出世を願い、妻・阿浜（水戸光子）からたしなめられていた。
ある日、源十郎は陶芸品を売りに都へ行った時、この世のものとも思えぬほど美しい上臈・若狭（京マチ子）と出会い、
彼の作品を気に入った若狭から、立派な屋敷に招かれ、思わぬ饗応を受ける。
一介の田舎の陶芸工にすぎない源十郎は、都の上臈・若狭の美しさ、上品な身のこなし、そしてなんとも言えぬ妖気に、すっかり参ってしまう。
一方、妻の阿浜の猛反対を押し切って、雑兵の仲間入りをした藤兵衛は、偶然、敵の大将の首を拾ったことで、家来持ちの侍に出世し、大威張りで郷里に帰ろうとするが、
途中で、侍たちに強姦され、遊女に落ちぶれた阿浜と会い、愕然となる。
そして、若狭の美しさと妖気に溺れた源十郎は、妻の宮木を忘れ、悦楽の時にふけるが‥‥ 実は若狭がこの世の人間ではないことを知らされる！

上田秋成の同名小説の「蛇性の淫」「浅茅ヶ宿」の二つの章を原作に、流行作家の川口松太郎、溝口監督とは名コンビだったシナリオライター・依田義賢が、脚本を担当。
撮影は、名カメラマンの誉れ高き宮川一夫。
オープニングのメイン･タイトルバックからして、美しい映像でした。
そのタイトルバックに流れる、謡曲をベースにしたテーマ音楽。ジャポニズムの美しさを、十二分に発揮させていましたね。
中でも息を呑むほど美しかったのが、あでやかな着物をまとい、顔を薄絹で覆った若狭と、彼女がお付の老女と二人で住む朽木屋敷の雰囲気。
立派な屋敷なんだけど、なんとも言えぬ妖気がここかしこに漂っていて、これではどんな男も一歩足を踏み入れたら、出られません‥‥
恐ろしかったのが、郷里の妻のもとに帰ろうとする源十郎を、若狭が目をつり上げて止めるシーン。
「いいえ、帰しませぬ！」
ここでお化け屋敷のようなドロドロという恐ろしい効果音が始まり、若狭は恐ろしく歪んだ微笑を浮かべます。「さあ、私と一緒に黄泉の国にまいりましょう‥‥」
一瞬、背筋が寒くなりました。ほんとにこわかったです。

日本古来の美と幽霊の恐ろしさを融合させた傑作でもありますが、
女の色香に溺れる男のどうしようもなさ、女の情念の恐ろ
少しもいやらしくなく描いている傑作でもあります。
また、戦争への嫌悪感も描かれています。
男は戦に乗じて金儲けや出世をたくらむけれど、女にとっては戦は地獄でしかない‥‥溝口監督はそれを力説していますね。
女性を描いたら当代一と呼ばれたミゾグチ、さすがです！

★もっと溝口健二監督！★