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2007.05.01

破滅への疾走★「青春残酷物語」

(4)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

松竹ヌーベルバーグと呼ばれる映画が誕生したのは、1960年頃。
それまで松竹は、人情の機微を丹念に描いた作品を売り物にしてきましたが、
松竹ヌーベルバーグはそれとは180度異なり、人間の醜悪な側面をクローズアップし、
時にギラギラとリアルに、時に乾いたタッチで描き、救いのないストーリー展開を繰り広げています。
大島渚、篠田正浩、吉田喜重のお三方が、松竹ヌベールバーグの旗手ですが、
きょうは大島渚監督の初期代表作で、松竹ヌーベルバーグの傑作として名高い、「青春残酷物語」（'60年）について書きますね！

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女子高生・真琴（桑野みゆき）は、友だちと一緒に男の車に乗せてもらうのを、スリルとして楽しんでいたが、ある夜、運転していた男にホテルにむりやり連れ込まれかけた。
そんな真琴を、通りがかりの大学生の清（川津祐介）が助けた。
翌日、真琴は清に隅田川の畔に誘われ、レイプされるように抱かれた。
虚無的で皮肉っぽく、乱暴な清だが、真琴は彼の野性的なところに惹かれ、二人はほどなく同棲。
清は家庭教師のアルバイト先のブルジョア夫人とも関係を持ち、彼女から金を受け取っていたが、
若さと青春の無鉄砲さが、清と真琴を暴走に導いた。二人は金ほしさと面白半分から、美人局を始めたのだ！
真琴が高級車に乗る男を誘惑し、ホテルの前まで誘導し、待ち構えていた清が男を脅し、金をゆすりとる‥‥
しかし‥‥若い二人に待ち受けていたのは、完膚なきまでの挫折、そして‥‥ 破滅だった！

時は日米安保闘争たけなわの頃。
高度経済成長の幕開けを迎えたものの、それとは裏腹に、若者は未来に希望を持てず、
持て余す若さとエネルギーを、デモ行進等にぶっつけていた時代。
しかし、もっと虚無的で現実的な若者は、清のような行動をとっていたんでしょうね。
ニヒルでシニカルな大学生・清を、川津祐介は見事に演じていました。事実、川津氏はこの映画に出演した頃は、清のように世の中を斜めに見ていたところがあったそうです。
桑野みゆきは、ちょっと女子高生にしては老けて見えましたね、悪いけど‥‥。
演技力はいまひとつでしたが、下着姿で濡れ場を大胆に披露していました。当時18歳で、大学生と寝て、妊娠し、中絶手術を受けるような「すごい役」を演じた女優は、あまりいなかったんじゃないでしょうかね‥‥
中絶手術を受けて昏々と眠る桑野みゆきの枕元で、川津祐介が悲しげに、悔しげにリンゴをガリガリ齧るシーンは、秀逸でした！当時の良識派からは、大ブーイングのシーンだったそうですが‥‥
出番は少ないですが、ヤクザを演じた佐藤慶も、この頃から名優の匂いを発しています。
久我美子もそれまでの「大船調」とは違って、ちょっと男にだらしない役を演じていたのが新鮮でした。
渡辺文雄も、敗北者の匂いのする投げやりな町医者を、上手に演じていましたね。

大島渚がオリジナル･シナリオを監督した秀作で、青春の負のエネルギーによって破滅に向かう若い男女が、悲しいほどにリアルです！
世間ではよく、「青春は美しく、さわやかで、明るいもの」などと言われますが、大島監督はそれに真っ向から「ノー！」をつきつけ、青春の暗さ、薄汚さ、そして徹底的な救いのなさを、冷たいくらい突き放した視線で描いています。
登場人物のリアリティ溢れたすぐれたシナリオを、大島渚という映像の魔術師は、一分の隙もなく見事に演出しています。
長回しを多用した撮影も素晴らしい！
真琴や清に深い思い入れを抱いた若者が、大勢いたことと思います。
当時、まだ庶民には高嶺の花だった自動車を小道具に使ったのも、時代ですね。

松竹退社後、その活動の場をATGに移し、その秀逸な演出と独特の映像美で、名監督の名をほしいままにした大島渚。
彼の傑作はたくさんありますが、モイラはこの「青春残酷物語」が一番好きですね。

★もっと大島渚！★