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2007.05.06

野望の果てに‥‥★「蜘蛛巣城」

(6)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

黒澤明監督は、「白痴」「どん底」など、海外の名作小説や戯曲を翻案した映画をいくつか作りましたが、
かのシェイクスピア３大悲劇のひとつ「マクベス」を日本の戦国時代に舞台を置き換え、見事なまでの様式美をこらして作ったのが、1957年の「蜘蛛巣城」（くものすじょう）です！

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蜘蛛巣城の城主・都築国春に仕える鷲津武時（三船敏郎）は、親友の三木義明（千秋実）と共に、
謀反を企てた北の館の軍勢を破った。
その帰り、城下に広がる鬱蒼とした蜘蛛手の森の中で迷い、物の怪の老婆（浪花千栄子）に出会った。
「鷲津武時様、あなた様は今宵から北の館の御殿様。やがては蜘蛛巣城の御城主様‥‥」
老婆の予言通り、武時は武功により北の館の主となり、義明は一の砦の主となった。
武時は喜んだが、自分は北の館の主で十分、蜘蛛巣城の城主になるなどと大それた夢は持つまいと思ったが、
異常なまでに強欲で腹黒い妻の浅茅（山田五十鈴）は、武時をそそのかした。
「もし義明様が殿に物の怪の予言のことを漏らせば、あなたもこのままでは済みますまい。殿に斬られるか、殿を殺して城主になるか、ふたつにひとつです‥‥ 」
口では否定しながらも、妻のそそのかしに次第にのせられてしまう武時。
そして、城主国春が北の館に逗留した夜、ついに主君に刃を‥‥！
しかし、同時に武時は、自らを滅ぼす道へ一歩踏み出してしまったのだ‥‥！

さしたる野望も持たない、どちらかというと気弱で小心者の武時が、妻の悪魔のささやきにのせられて、次第に悪鬼へと変貌し、屍の山を築き、血しぶきを全身に浴びる‥‥
そんな武時の心のざわめきが、昼間でも変に薄暗い北の館の広間、そこに飛び込むおびただしい怪鳥の群れ、墨のように黒い夜空、動く蜘蛛手の森の木々などで、不気味に表現されています。
中でも際立っているのが、腹黒い妻・浅茅の表情と動き！
能面のようなメイクをし、ほとんど表情を動かさず、手足の動きも能役者のように、静かにゆっくりと‥‥ それゆえに、この浅茅という女が、ひどく恐ろしく眼に映ります。

撮影ではおびただしい数の鳥を使っていますが、渋谷の二軒のペットショップで、鷹、カラス、野鳩などをなんと千羽も借りてきたそうな‥‥（でも半分くらいどこかに飛んでいってしまって、半分くらいしかお店に返せなかったとか）
さすが、こだわりを見せる黒澤監督です。
もし今、監督がご存命で、この映画を撮影するとなっても、ＣＧなど自らの誇りにかけて使わなかったと思います。

監督のもうひとつのすごいこだわりは、ラスト･シーン、武時が悲鳴をあげ、取り乱して逃げ惑いながら、弓矢の雨あられを受けるところで、
なんと本物の矢を使ったことです！
監督からその話を聞いた三船敏郎はビビりまくって、「それなら俺は役を下りる！」と言ったそうですが、
スタッフに説得されて、本物の矢を受けることを承諾し、
弓矢の名手たちが扮する兵士たちの的となったのです。
さすがは世界のミフネですね！役者魂、入ってます！

独特の様式美とリアリティにこだわった時代劇の大傑作‥‥もうこんな映画、作られることはないかなと思います。

★世界のミフネ！★