★モイラの名画座★

< 新しい記事

新着記事一覧(全1143件)

過去の記事 >

2007.05.07

哀しくもやるせない不倫の恋‥‥★「ヘッドライト」

(2)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

きのう、フランスの新しい大統領がサルコジ氏に決まりました。
そのフランスの映画界、否、ヨーロッパ映画界の大統領クラスだった役者といえば‥‥
やはり、ジャン・ギャバン（1904－76）でしょうね。
きょうはギャバンの初老期の傑作、アンリ・ヴェルヌイユ監督の「ヘッドライト」（'56年　フランス）について語らせていただきます！

【中古】ヘッドライト　HDリマスター版／ジャン・ギャバン【中古】afb

50歳にさしかかろうとする長距離トラックの運転手ジャン（ジャン･ギャバン）は、
運転手たちが仮眠するボルドーに近い国道沿いの宿「キャラバン」で、若い女中のクロチルド（フランソワーズ・アルヌール）と出会う。
疲れたジャンを気遣う心優しいクロチルド。
長距離運転でくたくたになり、パリ下町のアパルトマンにあるわが家帰っても、
妻は冷たく、娘は生意気盛りで反抗的。
一方クロチルドも、母親に若い男ができたことから、家で居場所をなくし、この宿に住み込みで勤めていた。
ジャンとクロチルドは、似たような身の上から、次第に惹かれあい、年齢差を越えて結ばれる。
ところがジャンは、些細なことで雇い主ともめ、職を失ってしまう。
追い討ちをかけるように、クロチルドがジャンにあてた手紙を娘が読んでしまったことで、不倫が妻子にばれ、ジャンは自暴自棄になってアパルトマンを出る。
そして、クロチルドのお腹の中には、ジャンの子が‥‥

妻と３人の子のために、長距離ドライバーという苛酷な仕事を50歳近くにもなって続けてきたのに、
気がつけば、家族は自分に背を向けていた。
そんな時に出会った心優しい若い女と、深い関係に‥‥
なんだかとても日本的なストーリー展開だなあと、思いました。
何十年間も黙々と働いてきた無骨な運転手を、ギャバンが好演していました。
この人、悪役も上手だけど、パリ下町に住む庶民の役もうまいなあと、舌を巻きましたね。
F・アルヌールも、若いのに苦労を重ねた翳のある女クロチルドを、上手に演じていました。悲しげに眼を伏せてうつむいた時の表情などは、薄幸の女そのものでしたね。

また、当時のフランスは日本のように病院で堕胎ができず、
望まない妊娠をした女性は、すべてヤミ堕胎に頼るしかなかったのです。
そのやり方も、先の曲がった針金で胎児をかき出すといったひどいもので、もちろんろくな処置もせず、
何人もの女性が命を落としたそうです。
クロチルドもそんなヤミ堕胎に頼って、命を縮めてしまいます。

救いのない話の中で、ジャンの下の子ども（小学生の男の子）が、なかなか可愛らしいところを見せていましたね。
不倫がばれて憤然と家を出たジャンが、ばったり下と会って、「パパ、テストでいい点とったよ！」と弾んだ声で答案を見せられると、「偉いぞ」とにっこり笑って頭を撫でるシーンが、非常に印象的でした。

ギャバンは代表作の「望郷」「シシリアン」でもそうでしたが、
やるせなさや哀しみを表現するのが、本当に上手だなあと、痛感しました。

★もっとジャン・ギャバン！★