★モイラの名画座★

< 新しい記事

新着記事一覧(全1143件)

過去の記事 >

2007.05.08

「キル･ビル」の原点！★「修羅雪姫」

(4)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

タランティーノ監督の話題作「キル・ビル　vol1」で最も印象に残るのは、やはり、
雪の庭園で、ブライドが白無垢のオーレン・イシイと白熱した真剣勝負を繰り広げる、あの名場面‥‥
その原点が、'73年のこの日本映画であることは、映画ファンの方々ならすでにご存知でしょう。

東宝修羅雪姫

明治中期、しんしんと降る雪の中、薄紫の小袖に朱のかんざし、紫の蛇の目傘をさして歩く、目元涼しげな美しい、しかしどこか翳のある若い女。
女はある男に近づくや、宙を舞い、一瞬のうちに傘の柄に仕込んだ白刃で男を斬り殺した！
この女こそ、生まれながらに復讐の道を生きることを運命づけられた修羅の娘・鹿島雪（梶芽衣子）、人呼んで修羅雪姫！
明治６年、小学校教師の鹿島剛と息子の司郎は、日本初の徴兵制度に便乗した大掛かりな詐欺事件に巻き込まれ、
詐欺グループの３人の男と１人の女に惨殺され、剛の妻・小夜（赤座美代子）は強姦された。
復讐に燃えた小夜は、一味の男１人を殺すが、逮捕され、無期懲役刑をうたれた。
「自分はもう監獄から出られない‥‥夫と息子の仇を討つには、もう１人子どもを生んで、その子に復讐を果たしてもらわなければ‥‥！」
小夜は復讐の一念から、看守や教戒師と肉体関係を持ち、やがて女の子を生んだ。それが雪である‥‥！
小夜はまもなく死に、雪は幼少の頃から道海和尚（西村晃）のもとで、厳しい剣の修行を受けた。
亡き両親と兄、母の遺志を継ぎ、あたら娘時代を修羅に生きる雪。
きょうも降りしきる雪の中、仕込みの白刃がきらりと光る‥‥！

「修羅雪姫」というタイトルが、まず秀逸ですね。
復讐にのみ生きる若い娘の壮絶な生きざまを、この「修羅雪姫」の一言で表現しています。
梶芽衣子がまた美しく、凄みすら感じさせます。蛇の目傘を手にひらりと宙に舞い、仕込みの白刃を一振りする華麗な動き！思わずため息が出ましたね‥‥
東映の「さそり」の時もそうでしたが、この映画でも彼女はまったく笑わず（ご本人は大変な笑い上戸だそうですが）、
厳しい表情の中にも、時折寂しさやむなしさを、ふっと見せていて、そこがまた観客の心をひきつけるのです。
仇役の岡田英次、仲谷昇、中原早苗も、悪役の定番といえば定番ですが、
いかにも根っからのワルを感じさせる演技をしていました。特に中原早苗は、ふてぶてしい悪女を演じたら天下一品ですね。
復讐の一念で、好きでもない男たちに身をまかせる小夜役の赤座美代子（この頃は藤田敏八監督夫人）は、大変な熱演でした。２時間ドラマのバイプレイヤー（ちょっと意地悪な、どちらかというと貧乏くさいオバサン役）として、しょっちゅう起用されるの、わかります。
華族や名士たちがドレスやタキシードで着飾ってダンスをする鹿鳴館に、雪が変装して乗り込むラスト･シーンも、忘れられませんね。あの血しぶきのすごさ！
西洋文化と日本古来の文化がミックスした明治中期という時代設定、華麗な剣のアクション、修羅に生きるヒロインの凄絶なまでの美しさと哀しさ‥‥
タランティーノ監督が絶賛するわけですよ！

'67年、「非行少年　陽の出の叫び」で監督デビューした藤田敏八は、「野良猫ロック」シリーズを手がけ、
「帰らざる日々」「天使を誘惑」などの青春映画を数多く撮り、
青春時代、「帰らざる日々」を観て泣きに泣いたモイラなどは、どちらかというと「青春路線」の監督だと思っていました。
ところがある時、名画座でこの「修羅雪姫」を観て仰天！
「え～ッ、藤田監督って、こういうアクションものも撮っていたんだあ～?!」
モイラが学生の頃は、藤田敏八特集を名画座やオールナイトで組んでも、
上映されるのは、定番の秋吉久美子三部作（「赤ちょうちん」「妹」「バージンブルース」）や、
「陽の出の叫び」「帰らざる日々」といった青春ものばかり（だったような気がします‥‥）。
だから「修羅雪姫」を観た時は、とても新鮮な気分でしたね。

あ、ついでに、梶芽衣子歌う主題歌「修羅の花」（「キル・ビル」でもサビの部分が流れていました）も、「怨み節」同様、モイラのカラオケ十八番です。

★もっと藤田敏八監督！★