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2007.05.30

神から最も遠かった男★「復讐するは我にあり」

(4)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

人間が本来持つ欲望を赤裸々に、そしてユーモラスに描いた名作映画を数多く撮り、
カンヌ国際映画祭にてグランプリを２度も受賞、
後世代の映画人の育成にも力を注いだ今村昌平監督がなくなったのは、
今からちょうど一年前。

今村昌平伝説

巨匠イマヘイの訃報をテレビで知ったモイラは、つくづく思いましたね。
「ああ、映画界の巨星が、またひとつ消えた‥‥」と。

きょうは数ある今村監督の名作の中から、
このすごい‥‥というか、一種狂気じみているとも言える作品をおとどけします！
'79年度松竹の映画です。

復讐するには我にあり（期間限定）

長崎五島の敬虔なカトリックの一家に生まれながら、少年の時から神に背き、悪事を重ね、
成人してからは詐欺罪などで、シャバと刑務所を行ったり来たり。
そして何度目かの出所後、金ほしさについに人殺しまでしてしまい、
おのれの欲望のままに詐欺と殺人を繰り返し、
ある時は大学教授、またある時は弁護士と偽って、
数人の女と関係を持ちながら日本列島を縦断するも、
悪運つきて逮捕、最後は絞首台の露と消える
神から最も遠かった男・榎津巌の波乱万丈の犯罪＆逃亡劇！

日本中が高度経済成長に浮かれていた昭和38年から39年の間に
実際に起こった連続強盗殺人事件を題材に、佐木隆三が書いた直木賞受賞小説の映画化。
モイラは最初、原作の小説を読み、
欲望のままに生きた主人公・榎津巌のすさまじさに、頭をガツンと殴られるようなショックを受けましたが、
映画でも緒形拳が、悪魔の申し子のような榎津を、
「くわ～～‥‥さすが名優！」と何度も頷くほど、それは上手に演じていました。
オープニング、榎津が車で護送される時に歌う、昔の隠れキリシタンの歌オラショ
♪まいろ～や～な、まいろ～や、はらいその寺にぞ　まいろ～や～な～‥‥
江戸時代のキリシタンたちが処刑される時に歌ったというこの歌‥‥
榎津は死刑という逃れられない運命を察し、歌ったのでしょうか‥‥？
榎津の父親（三國連太郎）と妻（倍賞美津子）が、神の教えに背いて過ちを冒しそうになるというサブストーリーは、原作にはありませんが、
あえてそういう設定を加えたところが、イマヘイらしいですね。
露天風呂で父親が息子の妻を抱こうとするシーンは、
人間の業の深さ、罪の深さを象徴するようでした。
また、殺人の前科を持つ老婆役の清川虹子が、主役の緒形拳に負けず劣らず、ド迫力！
「本当に人を殺したことあるんじゃないの、このおばあさん‥‥？」とか思っちゃいましたね。

この榎津巌という男、人を欲望のままに５人も殺しているのですが、
映画を観ていて、なぜか憎めないんですね。
あまりにも欲望丸出しで、「俺は天下の悪党ばい！」と開き直っているから、
逆に変に親近感みたいなのが持てるのかもしれません。
人は誰でも、榎津のような悪の部分があるかもしれない‥‥
それに気づいていながら、気づかぬふりをして、生きているのかもしれない‥‥
そう思わせるようなピカレスクの名作でした。

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