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2007.06.09

壮絶！★「切腹」

(2)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

海外では "Harakiri" というタイトルで上映、カンヌ映画祭で激賞され、
また、切腹シーンのあまりの凄惨さに、卒倒した観客まで出た時代劇映画‥‥
それはズバリ、1962年の「切腹」（松竹）です。

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時は泰平の寛永七年（1626年）、食いつめ浪人たちが大名家の屋敷に出向き、
仕官もできず、衣食にも事欠く浪々の身で生き恥をさらすより、
いっそ潔く切腹して果てたいので、玄関先を貸してほしいと言い、
玄関先を浪人者の血で汚されたくない大名家から、なにがしの金銭をせびることが流行っていた。
そんな折、津雲半四郎（仲代達矢）という浪人も、
井伊家の上屋敷に出向き、同じような申し出をした。
「また性懲りもなく、切腹する気もない、金目当ての浪人が来おったか‥‥」
家老の斉藤勘解由（三國連太郎）は舌打ちし、
半四郎に、千々岩求女（石浜朗）という浪人の話をした。
求女も半年前に井伊家の玄関先に出向き、金ほしさから、切腹したいので玄関先をお借りしたいと、心にもない申し出をした。
しかし、金をやっては、またぞろ別の浪人が同じ手で金をせびりに来る。
そうはさせまいと、井伊家は江戸中の浪人たちへの見せしめの意味をこめ、
求女に死装束を着せ、庭先でむりやり腹を切らせた‥‥
話を聞いても顔色ひとつ変えぬ半四郎だったが、不意に彼は井伊家の者たちに、
詰め腹を切らされ、無念のうちに死んだ千々岩求女は、実は自分の婿だと、口を切るのだった‥‥！

貧しい浪人暮らしの中でも、男手一つで娘の美保（岩下志麻）を立派に育て、
友人の遺児である求女と結婚させ、可愛い孫までもうけ、幸せだった半四郎‥‥
しかし、美保が病に倒れたことから、一家の生活は一気に逼迫。
しかも孫まで病にかかり、求女はやむを得ず、本当にやむを得ず、
乞食浪人の真似をするのですが、見せしめに詰め腹を切らされる‥‥
しかも竹光で ‥‥！彼は妻子のために、武士の命まで売ってしまっていたのです。
竹光で腹を切るシーン、本当に凄惨で、思わずスクリーンから目をそらしました。
婿は井伊家に惨殺されたも同然、娘も孫も病で死に、
天涯孤独となった浪人の、命をかけた壮絶な復讐劇は、見事でした！
名匠・橋本忍氏の、回想形式を巧みに使ったストーリー展開‥‥
武士道がいかに非人道的で、うわべだけを飾る空虚なものかというアイロニー‥‥
迫力満点の素晴らしい殺陣‥‥
豪華なキャスト‥‥
すごい映画もあったものです。ほんと、「壮絶！」の一言です。
武満徹の琵琶を使った音楽も、主人公半四郎の哀しみや憎しみを、うまく表現しているようでした。
終盤、形骸化した武士道に縋る井伊家の重鎮どもの狼狽ぶりが、痛快でしたね。
特に三國連太郎の演技は抜群！
丹波哲郎もなかなか見事でした。

いわゆるアクション娯楽時代劇とは趣を異にしますが、
人間ドラマにじっくり焦点をあてたこの作品のような時代劇も
たまには良いものですよ。

★小林正樹監督★