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2007.07.17

理不尽極まりない封建社会★「上意討ち　－拝領妻始末－」

(8)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

映画史に輝く傑作「切腹」で、武士道の空虚さ、武家社会の非情さを訴えた小林正樹監督が、
またしても武家社会を鋭く告発した名画が、'67年の「上意討ち　－拝領妻始末－」です。

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会津松平藩藩士・笹原伊三郎（三船敏郎）は婿養子。
武芸だけが取り柄で世渡り下手なことから、家付娘の妻すがにいつも見下されていた。
そんな時、主君松平正容（松村達雄）の側室お市（司葉子）を、
長男与五郎（加藤剛）の妻として拝領するよう、命じられた。
愛のない結婚をした伊三郎は、息子にだけは同じ思いをさせたくなかった
主君の命には逆らえず、渋々お市を嫁に迎えた。
主君をめぐって他の側室に暴力をふるい、暇を出されたというお市だったが、
与五郎や口うるさいすがによく仕え、嫁の鑑のような女。
与五郎は渋々もらったお市を心から愛するようになり、お市も与五郎を深く愛し、
可愛い娘も生まれ、若夫婦は幸せいっぱい、伊三郎もうれしくてたまらなかった。
ところが‥‥！主君の嫡男が病死し、お市が大奥にいた時に主君との間にもうけた男児が、
世継になることが決まり、世継の生母であるお市は与五郎と別れ、大奥に戻らなければならなくなったのだ‥‥！

お市が与五郎に、他の側室に暴力をふるった本当の理由を
哀しい顔で告白するシーン、今でもよく覚えています。
お市は許婚もいたのに、主君の命でむりやり側室に仕立てられ、
人生を棄てたような思いで、５０過ぎの主君に操を奪われた。
しかし、大奥にあがったことを得意がっている年若い他の側室を見て、
猛烈に腹が立ち、彼女に殴りかかったのです。
お市が側室を殴り、髪を引きずり回すシーンは、静止画でしたが、
憤怒にかられながらも半泣きになっている彼女の顔に、胸が痛みました。

それにしても、主君の勝手で厭々頂戴した嫁を、また主君の勝手で大奥に返せとは‥‥！
それが封建社会と言われればそれまでですが、あまりにも理不尽すぎる！
お市が笹原家の親戚たちに「お家のために大奥に戻れ」と詰め寄られ、
頑強に拒否していた与五郎も、ついに泣きながら「戻ってくれ‥」と呟いた途端、
「バカなッ！」と一括する伊三郎が、かっこよかったですね。
「わしはわずかな武芸だけが取り柄の、愚図な人間だ。しかし、このわしがなぜ、
此度のことにこれほどまでに意地を張るかわかるか？
主君の横暴もある。だがそれより何より、わしは、わしの一生には無縁だった
与五郎もお市も誓え！絶対に別れぬと誓うんだ！」
夫婦愛、親子の情愛が、この伊三郎のセリフでじーんと感じ取られましたね。涙が出ました。

伊三郎と親友・浅野（仲代達矢）との友情、
しかし武家社会の掟をあくまで守る浅野と、それに反抗する伊三郎との立ちまわりも、
見ものでした。
しかし‥‥ 結末があまりに哀しすぎます。
もう少し救いがあればと思うのですが‥‥

★武家社会にメスを入れた傑作映画！★