★モイラの名画座★

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2007.08.12

なぜかDVD化されていない超名作★「灰とダイヤモンド」

(7)

カテゴリ：独断と偏見に満ちた映画評

「尼僧ヨアンナ」のイエジー・カヴァレロヴィッチ監督と並んでポーランド派と呼ばれ、
「地下水道」「鉄の男」などで国際的に評価の高い名匠アンジェイ･ワイダ監督。

アンジェイ・ワイダ自作を語る

そのワイダ監督の、ヨーロッパ諸国はもちろん、日本でも注目を浴びた大傑作が、
1958年の「灰とダイヤモンド」（ポーランド）です！

ドイツ降服直後のポーランドを背景とする、ロンドン派の抵抗組織に属した一人の若者の死に至る...

第二次世界大戦終結直前のワルシャワ郊外の教会の近く‥‥
かつて対独レジスタンスの地下運動に加わっていた反ソ連派テロリストのマチェク（ズビグニエフ・チブルスキ）は、
上の命令で、ソ連から来た共産地区委員長を暗殺しようとしたが、
誤って別の男２人を射殺。
その日の夕刻、町の放送塔がドイツ降伏を告げ、マチェクは同志と共に
戦勝祝賀会が開かれているホテルへ出向くと、そこのバーには美しいウエイトレス・クリスティナ（エヴァ・クジジェフスカ）が‥‥
クリスティナに惹かれるマチェク。だがテロリストに明日という日はない‥‥

多くの国に囲まれている上、平地が多いため、他国からしょっちゅう侵略を受け、
いつの時代も政情が不安定だったポーランド。
ことに1939年のナチス･ドイツ軍やソ連軍の侵攻により、国は事実上消滅。
そうした政治的背景をあまりくどくない程度に描写しながら、
若い孤独なテロリストの生き様、死に様を、斬新かつ象徴的な映像で表現した渾身の力作です。
マチェクを演じたズビグニエフ・チブルスキは、いつも黒いサングラスをかけていますが、
これはファッションではなく、地下運動で目をやられたからなんですよね。
でもあのサングラスがやけに似合ってて、やや虚無的だけど、どこか少年っぽさを残したマチェクの魅力を最大限に引き出しているんです。
チブルスキが「東のジェームス・ディーン」と呼ばれたのは、大いに頷けます。
でも日本人にとっては名前が読みにくいのと、４０歳という若さで他界したことで、
一部の映画ファンにしか、その名は知られていないようです。
（洋画好きの人でも、チブルスキの名前を知らない人が、結構いるんです。）

ホテルのバーで、マチェクと同志が死んだ仲間の名前を呟きながら、
グラスの酒に火を灯して哀悼をささげるシーンには、ジーンときましたね。
クリスティナとの束の間の愛の交歓も、涙が出るほど美しいシーンでした。
２人がホテルを出て、廃墟となった教会に雨宿りした時に目にする墓標の詩がまた強烈。
「君は知らぬ、燃えつきた灰の底に、ダイヤモンドがひそむことを」
十字架につけられたキリスト像が逆さまになって、ギーッ、ギーッと音をたてて揺れているのも、ショッキングでしたね。
「神は人を救わない」というメッセージでしょうね‥‥
しかし‥‥いっちばんショッキングなのはラストです。
こんな凄惨なラスト･シーン、モイラはそれまで観たことがありませんでしたよ。
出だしから中盤までスクリーンに目が釘付けの上に、あのラストのとどめ！
脳天ガツン！なんてもんじゃない、右フック、左アッパーの上に連打１０発ほど食らったような衝撃でした。

この映画に大きな影響を受けた映画作家は、国内外に数多くいます。
それなのに‥‥ まだこの名作が、DVD化されていないのです!!
ありえないとは、まさにこのことです。