★モイラの名画座★

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2007.12.03

奇人変人、そして名優★左ト全

カテゴリ：素晴らしき銀幕のバイプレイヤーたち

モイラが左ト全の名前と顔を知ったのは、
かなり昔ですが、「老人と子どものポルカ」という、奇妙奇天烈な歌が流行った時です。
この歌の歌詞がまたすごい。

♪ズビズバー、パパパヤー
　やめてけれ、やめてけれ、やめてけーれゲバゲバ
　やめてけれ、やめてけれ、助けてパパーヤー
　ランランラーラララゲバゲバー、ランランラーラララゲバゲバー
　どうしてー、どうしてー、ゲバゲバパパーヤー
　おお神様、神様、助けてパパーヤー（セリフ　「助けてえええ～！」）

モイラ的にはこの歌詞、心にとめておきたい日本語のひとつですね。
少女たちとおじいさんが歌っている歌なのですが、
そのリードボーカルのおじいさんというのが、怪優・左ト全氏。
まだほんの子どもだったモイラは、テレビで歌ってる左氏を見て、
「けったいなジイサンだなあ‥‥」と、しばし口開けっ放しでした。
すると傍らにいた父が、左氏のことをいろいろ教えてくれました。
「この人は俳優で、足が悪くもないくせに、いつも松葉杖をついて歩いてるんだよ」
「若い頃は浅草オペラの歌手をしていて、戦後は日本映画の傑作の数々に出演したんだ」
その時はふーんといった感じで聞いていましたが、
十数年後、大学で映画学を学び始め、古い日本映画のシナリオを探すために、昭和20年代の映画雑誌をあれこれめくっていたら、
左氏の人物像が記事で書いてあり、そこには父が言ったようなことのほかにも、
左氏のさまざまな奇行がいくつも記載されていました。
「西式健康法」というものにハマっていて、その健康法をやり終えないと、どんな忙しい撮影でも、絶対に出向かなかったこと
千秋実氏が主催していた劇団・薔薇座の芝居に、医師役で出演したけれど、
患者に注射を打つシーンで、「ありゃあ、注射針がない。こりゃだめだあ！」と、
セリフには全くない言葉を発し、「注射針をとってくる」と、舞台の袖にひっこんでしまい、
シリアスな芝居をぶち壊しにし、千秋氏から猛烈な怒りを買ったこと
撮影にはいつも長年連れ添った奥さんが一緒で、他の役者やスタッフが、「あれ、左さん、いないなあ」と探していたら、
ロケバスの中で奥さんとまぐわっていたこと‥‥

まあ、奇行については枚挙にいとまがない人だったそうですが、
神楽の面のような超独特のなんとも言えぬ味わい深さに満ちた風貌と、
間合いも絶妙なセリフ回し、他の役者には真似できない独特の仕草‥‥
うーむ‥‥名優以外の何者でもありません。
黒澤明監督の大傑作「七人の侍」では、臆病で少し頭が足りなそうな百姓・与平を
見事に演じていました。あの役は、他の役者にはできませんね。
他にも印象に残っているのは、東宝の「喜劇　駅前団地」の、古い診療所の大先生役。（なんと若先生役は森繁久彌！）
飄々とした中にも父親としての優しさとぬくもりを感じさせる、実にいい役どころでした。

★左卜全出演作品あれこれ★