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佐藤彩香が初めてお歳暮を贈ったその翌週、受け取る側である山田雅彦のもとにその贈り物が届いた。雅彦は中堅の印刷会社を営む50代の男性で、彩香が担当するプロジェクトにおいて頻繁にやりとりをしていた相手だった。
その日、事務所に届いた上品な包みを見て、雅彦は少し驚いた様子だった。
「おや、これは何だろう?」
雅彦が丁寧に包装を解くと、中から現れたのは煎茶の詰め合わせと焼き菓子のセット。包装紙には、彩香の会社名とともに、手書きで丁寧に添えられたカードが同封されていた。
「山田様
今年一年、数多くのご協力をいただきありがとうございました。寒い季節にぴったりの品をお送りさせていただきます。どうぞご自愛くださいませ。
佐藤彩香」
雅彦はカードを手に取り、少しだけ目を細めた。ここ最近、取引先からの年賀状や贈り物も減り、こうした心のこもった挨拶は珍しくなっていた。
「最近の若い人たちにしては、なかなか気が利いているじゃないか。」
雅彦は心の中でそう呟きながら、机の引き出しからお気に入りの急須を取り出した。そして、新しく贈られた煎茶を一杯淹れてみることにした。
湯気とともに立ち上がる深い香りに、雅彦の心がほっと和らぐ。取引先とのやりとりは、いつもどこか事務的で無機質になりがちだ。しかし、こうした贈り物には、相手の顔が自然と浮かび上がってくる力がある。
「ありがとう、佐藤さん。」
雅彦は心の中でそう呟きながら、久しぶりに自分を労う時間を過ごした。
その日の夕方、雅彦は自宅に帰ると妻にその贈り物のことを話した。
「最近は、お歳暮を贈る人も少なくなったね。でも、こうして若い世代がこの伝統を大切にしてくれるのは嬉しいことだよ。」
「それは素敵ね。佐藤さんって、きっと丁寧で思いやりのある人なのね。」
妻の言葉に、雅彦はうなずいた。
翌日、雅彦は自分が受け取ったお歳暮について考えていた。そして、ふと自分もこれを機に感謝を形にしてみようと思い立った。取引先や長年の友人たちに、何か贈り物をしてみよう――そんな思いが心に芽生えたのだ。
彼が選んだのは、地元で評判の老舗醤油店の特製セットだった。「自分が美味しいと思ったものを届けたい」と思いながら、一本一本を丁寧に選んでいく。その姿はどこか楽しげで、自然と笑みがこぼれていた。
お歳暮は、ただの贈り物ではない。それを受け取った人の心に温かさを届け、さらにはその人の思いやりの連鎖を生む力がある。雅彦がそのことに気づいたとき、彼の中に眠っていた「感謝を伝える喜び」が静かに蘇っていくのだった。
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