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村田浩一が贈った自家製ラー油と特製タレのセットは、地元の農家である石川夫妻のもとにも届けられた。石川家は世代を超えて野菜を育ててきた農家で、浩一の食堂にも毎週、新鮮な野菜を届けていた。
「村田さんからの贈り物だってよ。」
夫の一郎が玄関先で包みを手にしているのを見て、妻の久美子は驚いた表情を浮かべた。
「まあ、こんなに素敵なものをわざわざ……いつも野菜を買ってくれるだけでありがたいのに。」
包みを開けると、香ばしいラー油の瓶と濃厚なタレがきれいに並んでいた。そこには浩一からの感謝のメッセージも添えられていた。
「石川さんの野菜があってこそ、僕の店は美味しい料理を作れます。今年も本当にお世話になりました。寒い季節、これを使って温かい料理を楽しんでくださいね。」
久美子はその丁寧な言葉を読み、胸がじんと温かくなるのを感じた。浩一の店に野菜を届けるのは、農家としての仕事の一環だった。しかし、その仕事が誰かを支え、喜びに繋がっていると実感できることは、何よりの励みになった。
「お返ししなくちゃね。」
久美子は微笑みながら、一郎に提案した。「年末に向けて、私たちの野菜を使った特製の詰め合わせを作ってみない?」
それから数日後、石川家の農場では、夫婦が一緒に野菜を選びながら、詰め合わせ用の箱を準備していた。冬の代表的な大根、ほうれん草、白菜、そして自家製の漬物まで、心を込めて詰め込んだ。久美子が自分の手でラッピングを整えた箱は、どれも愛情が溢れているようだった。
「これを贈る相手は誰にする?」一郎が尋ねると、久美子は少し考えたあと言った。「この野菜を、近所の独り暮らしのおばあさんたちにも届けようかしら。最近寒くなってきたし、少しでも元気を出してもらえたらと思って。」
その提案に一郎もうなずき、詰め合わせを数セット用意した。年末の寒い朝、夫婦は軽トラックに乗り、贈り物を届けに出かけた。
近所の一人暮らしの高齢者や、石川家の常連客に次々と届けられる野菜の詰め合わせ。そのひとつが、近所に住む80代の女性、三浦節子のもとにも届いた。
「まあ、石川さんからこんなにたくさんの野菜をいただけるなんて。」
節子は驚きと嬉しさで声を震わせた。一人で暮らす節子にとって、年末は特に寂しさが募る時期だった。しかし、その日届いた贈り物を見て、思いがけない温かさを感じた。
「早速この大根で煮物を作ってみようかしら。」
節子が手際よく台所で料理を始めると、家の中には出汁の香りが広がった。その香りに包まれながら、彼女はふと思った。「この野菜を育てた人たちも、私のことを気にかけてくれているんだな。」
その夜、節子は近所に住む若い母親と幼い息子に、自分が作った煮物を分けに行った。
「寒いときにはこれが一番温まるわよ。たくさん作りすぎちゃったから、良かったらどうぞ。」
煮物を受け取った母親は感激し、息子も「おいしそう!」と目を輝かせた。こうして、石川家の贈り物が節子を通じてさらに別の家庭へと繋がっていったのだ。