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年末の冷たい風が吹くある日、古田剛(ふるた つよし)は、自宅のポストに入っていた配送通知の紙を手にして首を傾げていた。差出人は「大田雅彦」。古田の記憶の中では、少しやんちゃだった教え子の名前が、長い時を超えて浮かび上がる。
「雅彦……懐かしい名前だな」
古田は宅配便を受け取ると、慎重に包装紙を解き始めた。現れたのは、風情ある和紙で包まれた和菓子の詰め合わせ。添えられた小さなカードには、簡素ながら丁寧な文字で「お世話になりました。良いお年をお迎えください」と書かれていた。
短いメッセージだったが、それだけで古田の心には深い感慨が広がった。雅彦のことは、いつもどこか気にかけていた。高校時代、彼はどこか不器用で、大きな夢を語りながらも、自信を持てずにいる少年だった。教師になると語っていた彼が、その道を選ばなかったことを耳にしたとき、どんな言葉をかければよかったのかと悩んだものだ。
しかし、そんな雅彦が、お歳暮という形で自分を思い出してくれた。それが何より嬉しかった。古田は早速お茶を淹れ、和菓子をひとつ口に運んだ。小豆の優しい甘さが広がり、胸の中に懐かしさとともに温かい感情が染み渡る。
「ありがとう、雅彦……」
ふと、古田の中にある思いが芽生えた。この機会に、雅彦と再び話をしてみたい。教師を辞めた後、生徒たちとの繋がりが徐々に薄れていく中で、こうして再び巡り会えたことを大切にしたいと思ったのだ。
その夜、古田は久しぶりに筆を取り、雅彦宛てに手紙を書くことにした。
数日後、雅彦のポストに一通の手紙が届いた。差出人は「古田剛」。仕事から疲れて帰宅した雅彦は、それを見た瞬間、驚きと少しの緊張を覚えた。
封を開けると、整然とした文字でこう書かれていた。
「雅彦、久しぶりだな。この度は素敵なお歳暮をありがとう。和菓子、とても美味しくいただいているよ。君が贈り物を通じて思い出してくれたことが、私にとって何より嬉しい。もし時間があるなら、一度顔を見せてくれないか。話したいことがたくさんある。」
雅彦は手紙を読み終えたあと、じんわりと目頭が熱くなるのを感じた。贈り物に対して返事が来るなど、予想していなかった。そして、その返事の内容から、古田先生がいまだに自分を気にかけてくれているのが伝わってきたのだ。
「先生……」
幼い頃の記憶が、次々と浮かび上がる。授業中、些細なミスをして落ち込む自分に、古田先生がかけてくれた「失敗を恐れなくていい」という言葉。放課後に進路相談をしていた時、じっくりと話を聞いてくれた姿。
その全てが、今の自分を作っている。お歳暮を贈るという行為が、こんなにも大切な人との絆を繋ぐきっかけになるとは思ってもみなかった。
雅彦は、すぐに返事を書き始めた。
「先生、手紙ありがとうございます。お元気そうで何よりです。ぜひお会いしたいです。時間を調整して連絡しますね。」
こうして、長い年月を経て、二人が再び出会う日が訪れる準備が始まった。
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