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雅彦はスマホの画面に表示されたお歳暮のカタログを眺めていた。贈ると決めたはいいが、何を選べばいいのかさっぱりわからない。子どもの頃に母がもらっていたビールや調味料セットは、いかにも「無難」という印象があり、どうにもピンとこない。
「誰に贈るんだ?」自分に問いかけてみた。
まず浮かんだのは、実家の母だ。しかし、母には直接プレゼントを手渡す方が喜ばれそうだ。それならば、普段からお世話になっている会社の同僚や上司?いや、なんだか堅苦しすぎる気がする。
迷いながらも、雅彦は高校時代の恩師、古田先生のことを思い出した。雅彦が教師になる夢を抱いていた時、いつも励まし続けてくれた先生だった。しかし、大学進学後、進路を変えて教師の道を諦めた雅彦は、どこか気まずさを感じて疎遠になっていた。それでも、先生は毎年年賀状を欠かさず送ってきてくれていた。
「贈るなら、先生かな……」
雅彦はスマホを閉じ、翌日、仕事帰りに百貨店のお歳暮コーナーを訪れた。ネット注文も便利そうだが、せっかくなら自分の目で見て選びたいという気持ちがあった。
百貨店のフロアには、色とりどりのギフトが所狭しと並んでいた。高級そうなハムセット、華やかな包装のフルーツ詰め合わせ、和菓子の詰め合わせ……どれも魅力的だが、どれが古田先生にふさわしいのか全くわからない。
「あの、何かお探しですか?」
声をかけてきたのは、親しみやすそうな笑顔の販売員だった。雅彦は少し照れくさそうに事情を話した。
「昔の恩師に贈りたいんですが、こういうのは初めてで……どんなものがいいのかさっぱりで。」
販売員はうなずきながら話を聞き、いくつかの候補を提案してくれた。
「お相手の方が甘いものが好きなら和菓子やフルーツゼリーなどがいいですね。お酒を嗜まれるなら地酒やワインも人気です。それから、最近は健康志向の方には無添加のお茶セットやスープセットもよく選ばれていますよ。」
雅彦は真剣に耳を傾けながら、ふとある商品に目を留めた。それは、手作り感のある箱に丁寧に詰められた和菓子の詰め合わせだった。上品なデザインとどこか懐かしい雰囲気が、古田先生にぴったりな気がした。
「これ、いいですね。先生、和菓子好きだった気がするし。」
雅彦は購入を決め、店員に配送手続きをお願いした。配送先を記入しながら、久しぶりに先生の住所を書いたことに気づいた。
「古田先生、元気にしてるかな……」
ふと胸の中に温かい感情が広がった。お歳暮を贈るという行為が、ただ感謝を形にするだけではなく、自分自身がその人との思い出を振り返るきっかけになると感じたのだ。