今日は、午前中は暖かで晴れていた那須ですが、昼に一転大雨、今は曇り空です。
天気予報だと、明日は雪が積もるというのですが、私の車は例年4月いっぱいスタッドレスのままですからいいのですが、この暖かさで夏タイヤに履き替えた人が多いので、スリップ事故が不安です。
さて、続きですが、ここからがサヴァンで霊感人間の一郎君の本領発揮です。
斎藤清喜君は、美奈子さんを諦める時、自分のものにできないなら、いらない。つまり、彼女が死んでもいいと思ってしまったのです。
いや、死ねば自分の美しい思い出にできるとさえ考えてしまったのです。
すると、彼の望みは「猿の手」のように動き出したのです。
翌日子供たちが登校し、一郎君も出勤した後、美奈子さん突然の腹痛で倒れたのです。
実は子宮筋腫が破裂して大出血していたので、そのままだったら出血多量で死んでしまったところでした。
すると、何故か一郎君が仕事を放り出して帰ってきて彼女を病院に運んだのです。
何とか一命を取り止めた美奈子さん、意識が戻ると一郎君に尋ねました。
「どうして戻ってきて助けてくれたの。」
すると、彼は不思議な話をしてくれました。
「頭の中に声がしたんだ。そう、臨死体験の時に助けてくれたイギギさんだと思う。「お前は、妻の命と自分の命を取り換える気はあるか。」それでピンときたから、「取り換えさせてください。」と答え、家にUターンしたわけだ。」
なるほどとは思ったものの、それでは夫の命が無くなることになります。
「あなた、自分がどうなってもかまわないの。」
すると、変わった答えが返ってきました。
「どうなってもかまわないとは思わないが、私一人だと78歳まで生きると思っていた。美奈子は今33歳、大厄なのが皮肉だが、78と33を足して2で割ると55.5だから、二人とも56歳あたりまでは大丈夫だろう。そして、今回のお前の病気、あの男の仕業だから、更におまけしてもらえるだろう。」
清喜君の仕業とはどういうことか、美奈子さんは確かめました。
「斎藤君の仕業ってどういうこと。」
「あの男、出来が悪くて質の悪い私だと言っただろう。」
確かに、初めて彼を見た時に、一郎君はそう言いました。
「うん。あなたの人を見る目は確かだけど、どういう意味だったの。」
「あいつは、望んだことがかなうが、誰一人幸せにならないとんでもないかないかたをするんだ。丁度、「猿の手」の話と同じだな。」
美奈子さん、「猿の手」は読んだことがありましたが、気味が悪かった覚えしかありませんでした。
「「猿の手」って不気味な小説でしょう。どういうこと、もうちょっとわかりやすく説明して。」
すると、一郎君、全然関係の無さそうなことを聞きました。
「お前は、あの男が高校生の時に起こした事件のことを聞いたことがあるか。」
何だか大きな騒動を起こして、退学になりかけて、失恋したというようなことを話してくれた覚えはありました。
「うーん、失恋したってお話かしら。」
一郎君は、辛らつに答えました。
「あんなものは失恋じゃない。ストーカーが呪いをかけたようなものだ。」
余計訳がわかりません。
「だから、私がわかるように説明してよ。」
「そうだな。彼は、親友の彼女に恋をした。」
そう、確かにそんなことを話してくれたのだ。
「そうだったらしいけど、それがどうしてストーカーが呪いをかけたことになるの。」
「そこからが、心の貧しさと、あいつの能力の厄介なところなんだ。」
「ていうと。」
「自分の恋が実るには、親友が邪魔になる。」
「それはわかるわ。」
それなら、親友を呪ったことになるのか。
「邪魔者は、消えてしまえと考えた。」
「それって、死んでもいいと考えたってことなの。」
「そうだ。」
美奈子、ぞくっとしました。
「だって、まさか殺しはしないでしょ。」
「いや、未必の故意というか、本人は考えた意識はなかったのだろうが、結果的に実現した。」
「どうなったの。」
「あいつは、親友に、ブレーキが壊れかけた自分の自転車を貸したんだ。」
「死んでほしいと思って貸したわけじゃないんでしょ。」
美奈子が確かめると、一郎はうなずきました。
「だから、未必の故意と言ったのだが、ブレーキは、効きが悪かったものの、一人乗りでは支障が無い程度だった。」
そう言うからには、二人乗りをしたことになりますが、二人乗りなら、彼女を乗せたことになります。
「じゃあ、彼女を後ろに乗せて事故ったってわけなの。」
「そう。決してそうなって欲しいと考えて貸したわけではないところが始末に悪いのだが、その結果、二人乗りで高校から坂を下りて行ったら、ブレーキかけても自転車は止まらず、赤信号の交差点に突っ込んでダンプに轢かれた。」
「じゃあ、彼女もいっしょに死んだの。」
「いや、ダンプにぶつかると思った瞬間、男は必死に彼女をかばって突き飛ばしたから、彼女はほとんど無傷だった。」
「でも、親友は死んだんだ。」
「そう。そして、その時の光景が怖い。」
一郎君の言い方も怖かったので、美奈子さん、震えました。
「あなたの言い方、怖いわ。」
すると、一郎君はにたりと不気味に笑いました。
「私は、その時の光景を幻視する。確かに怖い。彼女は無事だったが、彼は、ダンプに轢かれた。自転車と一緒に巻き込まれて車の下敷きになっていた。そして、ダンプのタイヤの間から、彼の右腕が見えた。彼女は、彼をダンプの下から引きずり出そうとその腕を引っ張った。」
美奈子さん、おそらく、自分でも同じことをしてしまうだろうと思いました。たとえ無駄だと思っても。
「私でも同じことをしてしまうと思うわ。」
「当然そうするだろうが、腕を引っ張ったら、車の下からちぎれた右腕だけが出て来たんだ。」
美奈子さん、悲鳴をあげました。
「ぎゃー、ほんとに怖いやないの。」
「だから、怖いって言っただろう。」
「私、そんなことになったら、気が狂うわ。」
「そう。そのとおりになった。」
つまり、親友を殺しただけでなく、恋した彼女の気を狂わせたことになります。
「そんなことって、単に呪っただけじゃないの。」
「だから言っただろう、ストーカーが呪いをかけたようなものだと。」
言われてみると、一郎君の言葉は言い得ています。
「うー、その通りだわ。でも、彼、その彼女が好きだったんなら、何とかしなかったの。」
もし自分が清喜君だったら、彼女が正気に戻ってもらうように努力するだろう。
「まあ、皮肉な結果に驚きつつ、彼は、親友のお葬式の後、病院に彼女のお見舞いに行った。」
「そうよね。そうするわよね。」
「すると、彼女は、変なお願いをした。」
また怖い話になりそうだと思いつつ、美奈子は聞いてしまいました。
「何て。」
「私の手を握ってと。」
「そんな風に頼まれたら握ってあげるわよね。」
とんでもないことになりそうだと思いながらも、自分ならそうしてあげると思って美奈子は答えました。
「彼が手を握ると、彼女は必死に彼の腕にしがみついて放そうとしなかったんだ。」
「うー、それって、事故のトラウマかしら。」
「トラウマというよりは、狂気の沙汰だな。「彼の腕よ。話さない。」って叫んでどうしても腕から手を放してくれなかったので、あいつはつい叫んだ。」
「何と。」
怖いと思いつつ、美奈子さん、つい確かめてしまいました。
「やめてくれ。お前も消えてくれとね。」
「ぎゃー、こっちも怖いやないの。」
美奈子さん、再度悲鳴を上げました。
「これこそ、「猿の手」の終わり方みたいだが、その願いはかなった。」
「どうなったのよ。まさか、消えてしまったりはしないでしょう。」
「彼女の意識も消えたわけだ。そして、一月後、本当に死んでしまった。」
「ひどいやないの。」
それしか、言葉が見つかりませんでした。
「だから、ストーカーが呪いをかけたようなものだと言ったのだ。壊れかけた自転車を貸して親友が死ぬ大事故の原因となったことで、あいつは停学になったが、故意とは言えなかったから、罪には問われなかった。でも、懲りずにお前に対しても同じようなことをしたわけだ。」
「ってことは、自分のものにならないのならば、死んでしまえって思ったわけなの。」
「結果的にはそうなりかけた。いや、あいつよりもずっと強い私がいなかったら、そうなってしまっただろう。ただ、あいつは、私の恐ろしさを知らなかったのが一つの誤算だな。」
そうだ。夫は、暴力も、呪いも、普通の悪意も、全て跳ね返してしまうのだ。だから、その力のことを、ギリシャ神話の女神アテナが持っていたという全ての攻撃を跳ね返す盾の名である「イージス」と呼んでいたんだ。
「その分じゃ、斎藤君ロクなことにならないわね。」
「だろうな。お前まで傷つけたからな。自分の人生で償ってもらおう。」
美奈子さん、怖いもの見たさで聞いてしまいました。
「どうなっちゃうわけ。」
「それは、彼次第だな。悔い改めよ。さもなくば、愛人に殺されて終わり。」
言われてみれば、そうなりそうに思えました。
斎藤清喜君は、2週間後三股をかけられていた人妻が会社に怒鳴り込んで首になり、姿を消しました。
この事件、一郎君が普通の男だったら、逆に離婚を言い出してもおかしくなかったと思われますが、彼は更に未来を幻視してこう言いました。
「母の件は、一時的に嫌な思いはするし、そのことで美奈子に迷惑をかけるだろうが、苦痛を最短期間で済ますためには、今受け入れるのが最善だ。」
そして、美奈子さんと清喜君のことは全く問題にしませんでした。
美奈子さん、いざこざが一段落して、清喜君が彼らの前から姿を消した時に、一郎君に確かめました。
「何故、私と離婚しようと思わなかったの。」
一郎君の答えは、恐ろしいものでした。
「美奈子は、由布を連れてあの男と再婚するつもりだったのだろう。」
清喜君、由布一人なら引き取ってもよいと話していましたから、そのとおりでした。
美奈子さんがうなずくと、彼は続けました。
「あの男、出来の悪い私と言ったが、全てに中途半端なのだ。お前が強硬に頼めば、結婚も引き受けただろうが、その結果は、由布とお前を殺しての一家心中だ。それが見えたから、お前と別れることは考えられなかった。」
そして、更に美奈子が知らなかったことを付け加えました。
「あの男、愛人三人の他に、以前から付き合っていた大分年下の恋人もいたんだ。年上の人妻三人はお互い遊びだったのかもしれないが、恋人の女は本気だった。そして、その年下の女こそが彼の運命の相手だから、彼女と結婚しなかったら、一生独身で野垂れ死にだな。」
美奈子さん、清喜君が、 9 歳年下の女に言い寄られて困っていると言ったことがありましたから、一郎君の言うことは全て正しいと確信できました。
「あなたの言うとおりだと思うわ。でも、何故わかるの。」
美奈子さん、夫の一郎君は、時々幽霊も見ますし、霊感人間であることはわかっていましたが、そこまで他人のことを見ることができるのが不思議でした。
「ああ、見えるんだな。幻視って言うのだが、時空を超えて未来や過去の映像が見える。それが私の能力の一つだ。」
確かに彼の言う通りで、今までも何度もそんなことがありました。
「結婚する前に、私と広い家に住んで、猫も飼っているのが未来って言ったことあったわね。確かに家と猫はそのとおりになったわね。」
美奈子、一郎夫婦、 2 年前に一戸建ての注文住宅を建て、予言通りの真っ白の猫も飼っていたのです。
「そう。実現した。だから、今は少々苦労するが、大丈夫だ。」
夫を信じることにした美奈子、ようやくこの一言を言うことができました。
「ごめんなさい。」
続く。
画像は、庭のアケビとユスラウメの花です。
今年はたくさん実ってくれるかな。

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