暖かいかと思えば突然10度寒くなったり、3日前には雪がぱらついたかと思えば今日は暖かで、厳しい気候の那須です。
続きです。
一郎君、妻の美奈子さんには、佐々木政男氏の死の件は簡単に伝えただけでした。
美奈子さんは、人を見事に見抜く夫に「顔は怖いが優しい人だよ。」と事前に言われていましたから、初めて会った時にも、確かに怖い顔でしたが、本当は優しい人なのだなあと思っていました。
それに、彼女をとても気に入ってくれていましたから、死んだのは悲しいことだと思いました。
まあ、夫はもっといろいろ知ったであろうこともわかっていましたが、彼が言わないイコール知らない方が良いことだと言うことも、この数年で学んでいましたから、それ以上は聞きませんでした。
一郎君は、自分の悪口を言った人間が死ぬか病気になることを自覚していましたから、政男氏と光男君も、自分の悪口を言ったのかもしれないなと思っていましたが、もう一つ別の面からも政男氏の死を見ていました。
それは母の高子さんのことで、彼女がかかわった男は、ことごとく没落し、ろくな死に方をしないことも事実だったのです。
実は、佐々木氏の後、奥様を亡くした裕福な70歳の老人から、後添いになってくれないかと申し込まれたことがあったのです。
一郎君は、「勝手にしたら。」と冷たく突き放し、妹君子さんは、厄介払いになるから「応じろ。」と勧めましたが、その老人、半年後に亡くなりました。
その次は、同じ年齢の京都の料亭の一流の板前さんから、結婚してくれと申し込まれたのですが、一郎君は、内心「悪いことは言わないから、この女だけはやめておけ。」と言いたかったものの、彼のことは妹の君子さんも気に入っていたようですから、これまた「勝手にしたら。」のスタンスでした。
すると、こちらは高子さんと付き合いだしたらガンが発見され、1年後に亡くなったのです。
この分だと、行方不明の父常和さんも、どこかで野垂れ死んでいるのではないかと思った一郎君でした。
そして、一郎君と美奈子さん夫婦を一番の危機に陥れたのも、高子さんでした。
一郎君の仕送りはずっと続いていましたし、妹君子さんにもたかって生きていたのですが、一郎君夫婦の次女の由布さんが生まれたころからぼけてきたのです。
その頃には京丹波の家で一人暮らしをしていましたが、老人会に参加して偉そうにしていた割には体裁ばかり取り繕って嘘をつくもので、周囲の人々にはばれていたのですが、本人は気付かれていないと思っているのです。
ですから、むしろ周囲の人々が心配して一郎君や君子さんに、そろそろ同居して面倒みないといけないんじゃないのと声をかけたのです。
でも、「死んでも子供たちの世話にはならない。」と公言している高子さんでしたし、周囲の人々も、その言葉を何度となく聞かされていましたから、一郎君が、「ああ言っているうちはだめですね。」と答えると納得していたのです。
ところが君子さんは、結婚したものの子供が居ませんでした(というより、「子供なんて気持ちの悪いもんいらん。」と公言していた。)し、フルタイムで働いていましたから、高子さんを連れてきたら少しは家事の足しになるだろうとの甘い考えで、扶養家族にして引き取ったのです。
兄の一郎君、君子さんから母を引き取る話を聞かされた時に、「お前の家庭を破壊するぞ。」と脅したのですが、君子さんはまさかそんなことにはなるまいと、安易に引き取ったのです。
元々夫婦仲も良くはなかったし、子供も居なかったので、二人別々に好き勝手やっている妙な夫婦だったのですが、離婚するほどでもないと微妙なバランスで続いていたところに、高子さんが乗り込んでやりたい放題やった結果、夫の津田幹夫氏が家に帰ってこなくなり事実上失踪、その後離婚することになったのですから、意図せずに母の轍を踏んだパターンになったと言えます。
すると、自分の扶養家族であるにもかかわらず、「面倒見切れないから、お兄が何とかして。」と一方的に押し付けて来たのです。
高子さん、美奈子さんにも「一生のお願いだからお金頂戴。」(何度もあったから、一生のお願いって?)とたかりまくった経緯もあり、結婚した時に同居するなら今ですよと勧めたこともあったのに、「死んでもお前たちの世話にはならない。」と固辞したのですから、世話をしたくはありませんが、一郎さんが、例のサヴァンの幻視の結果「面倒見るしかあるまい。」と言ったのです。
美奈子さん、この時は魔が差したとでもいうのが、 3
人の子供が居ながら、離婚してでも高子さんから逃げ出そうとしました。
実はその頃、彼女に横恋慕している若い男が居たのです。
一郎君は、その男斎藤清喜を一目見て、「あいつは、一見真面目そうだが、出来の悪いというよりも質の悪い私のような男だ。その上、お前によからぬ思いを抱いている。かかわると大変面倒なことになるから近づけるな。」と警告したのです。
彼の言うことはほぼ100%的中するのですが、自信たっぷりに言われると、反発したくなるのが普通の人間です。
最初は清喜君のことをなんとも思っていなかった美奈子さんは、「ああ、彼は弟みたいなものよ。心配はいらないわ。」と近づけ、一郎君の居ないときには家にも上がらせていました。
すると、これは脈ありと期待した彼は、離婚して僕と結婚してくれと美奈子さんに迫ったのです。
実は清喜君には望んだことが妙に実現する超能力があったのですが、一郎君が質の悪い自分と言ったのには別の理由があり、その実現の仕方が、彼自身を含め、誰一人幸福にしないものだったからなのです。丁度、「猿の手」というホラー小説のように。
しかし、美奈子さんはそんなことは知りませんから、高子さんを引き取る話が持ち上がったもので、高子さんから逃げ出したい一心で、「じゃあ、夫と離婚するから一緒になって。」と清喜君に頼みました。
それは、清喜君の望みでもあったのですが、彼、何と他の人妻たちとも二股ならぬ何股もかけていた上、美奈子さんと結婚してやっていく気なぞさらさらありませんでした。
すきあらばセックスさせてもらおうと、甘えるだけ甘えるのですが、大変真面目な美奈子さんは、夫と離婚して再婚できる確約が得られなければ、彼にセックスさせる気はありません。
すると、清喜君、結婚の件はのらりくらりと逃げ回るのです。
美奈子さん、後ろめたい時は、セックスで燃えるところがありましたから、珍しく迫ってきた妻の不審な態度に気付いた一郎君は、大変具体的に警告しました。
「あの男、前にも話したが、めちゃくちゃ出来の悪い上に質の悪い私だ。気弱そうだが、年上のお前に甘えてセックスしたいだけで、結婚してまともにやっていく気はさらさらないし、そんなことができる男でもない。しかも今、他の人妻3人ぐらいを毎晩はしごしてるぞ。」と指摘したのです。
まさか真面目そうに見える清喜君に限ってそんなことはあるまいと思いつつ美奈子さんが清喜君を問い詰めると、彼は、あっさり白状しました。
「旦那さんの言うとおりだ。僕は愛人3人に甘えられれば十分だから、美奈子さんは、僕のことなんか忘れればいい。」
美奈子さんには大変なショックでしたが、普通ならこれで終わるところです。
それが、終わらなかったところが、清喜君の「猿の手」だったのです。
続く。
画像は、ハナダイコン、コーネリアンチェリー、スモモ、アンズの花です。



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