北海に面したデンマークのエスビアウ港。ここは、かつてデンマーク最大の漁港として栄え、現在では北海油田の中継地となっている。この近くに、三菱重工とヴェスタスの風力発電設備の工場がある。
港に面した広大な敷地には「ブレード」と呼ばれる羽根や、風車中央部に据え付ける発電機を格納した「ナセル」がいくつも置いてある。風車の支柱となる「タワー」も立った状態で並ぶ。ブレードの長さは出力3000キロワット級で55メートル、タワーは約70メートルにも及ぶ。40階程度のビルの高さに相当する巨大風車(出力8000キロワット級)の場合、1日当たり6000~8000世帯の電力をカバーできるという。三菱重工エネルギー・環境ドメイン風車戦略グループの朝比奈忠主席部員は「洋上で組み立てれば、横浜市のみなとみらいにある観覧車ぐらいのサイズになる」と話す。
三菱重工の風力発電事業は陸上がメーンだったが、採算が取れず、苦しい立場に追い込まれていた。しかし3年前、財務が悪化していたヴェスタスとの合弁話が持ち込まれ、市場拡大が期待される洋上風車に活路を求めた。
名山理介常務執行役員エネルギー・環境ドメイン長は「洋上風車はシーメンスの独占状態で、当社によるヴェスタスへの出資を歓迎する国や企業は多い」と話す。1社への発注はリスクが高く、合弁会社を設立して以降、受注は好調だ。
三菱重工がヴェスタスとの合弁事業を選択したもう一つの理由は、「かなりの専門的な能力とインフラが求められる」(朝比奈氏)洋上風車の据え付け工事のノウハウを吸収することだ。基本的にはMHIヴェスタスの社員が工事の進行を指揮し、実際の建設は地元のエンジニアリング会社などが行う。
現地で洋上風車を建設するには専門の資格が求められる。海の作業は危険を伴い、かつ効率的に行わなければならない。北欧には、洋上風車の専門作業員を養成する学校がいくつも存在している。
洋上での建設作業では、特殊船も必要になる。エスビアウ港には昇降用の脚を持ち、船の高さを調整してクレーンやくい打ち作業を行う「SEP船」と呼ばれる特殊船が何隻も停泊する。SEP船には、巨大クレーンやヘリポートまで搭載されており、北欧にしかない専門船だという。
洋上風車は、基本的に水深40~50メートルの浅瀬に建てられている。最近では洋上に浮かんだ浮体式構造物を利用する「浮体式」と呼ばれるタイプも開発されているが、現状は浅瀬に固定する「着床式」が主流だ。北海に洋上風車が多く建設されているのも水深が浅いのが大きな理由だ。北欧では洋上風車事業が一大産業として形成されている。大学をはじめとした研究機関、メーカー、その下請けとなる中小企業までそろっており、効率的な工事が可能だ。
また、洋上風車の工事契約は据え付けが早く終われば、インセンティブがもらえる制度がある。このため、風力発電設備メーカーや工事を請け負うエンジニアリング会社は、いかに効率的な作業を行うか、技術を磨く素地が整っている。
洋上風車の規模をめぐる開発では、既に1万キロワット級を研究している企業もあるといい、名山常務執行役員は「8000キロワットが限界とは考えていない」と述べ、さらなる開発に意欲的だ。
現状では、洋上風車市場の9割は欧州が占める。その中でシーメンスが6割のシェアを握る。名山常務執行役員は「ヴェスタスのノウハウを吸収し、今後の需要が見込まれるアジアや北米にも事業を展開させたい」「当面の間はシェア3割を目指し、2位のポジションを確固たるものにしたい」と話す。
北欧の地で工事コストを抑えた建設ノウハウを蓄積し、洋上風車がアジアや北米で広がる頃にはシーメンスの背中を捉えたい考えだ。
出典: http://www.sankeibiz.jp/business/news/160324/bsc1603240500004-n1.htm
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